探偵、開業! その2
2月の冷たい空気をのせいで、体が軋むような感覚がずっとある。
暖房を入れればいいのだが、今はあらゆる出費を削らなければならない。
緋紗那さんの依頼を断ってから一週間が過ぎていたが、あれ以来、依頼は一つも来ていない。
パキラちゃんも心なしか、元気がない。
この都会でも田舎でもない町に事務所を構えたのは、競争率が低く、人はそこそこ住んでいて、始めは客が少なくても一つ一つ依頼をこなしていけば口コミで客が増え、最終的には安定して依頼が来るようになるだろうという魂胆あっての事だったが、甘い考えだったと後悔した。こんな得体の知れない探偵に頼むくらいなら、少し遠出してでもちゃんとした所で頼むのが普通の考え方なんだ。
もう贅沢言うのはやめだ。僕はここ数日、するべきか悩んでいた事を実行することにした。
「もしもし、真久部緋紗那さんですか。先日お話させて頂いた、探偵の五峰尾北ですが」
僕は、一週間前に話を聞いたときに書いてもらった緋紗那さんの連絡先へ電話した。
「先日の件、もう一度こちらでお話をお聞かせくださいませんか」
「本当ですか!」
そういう訳でこの翌日、再度話を聞く事になった。
「・・・つまり、お父様の居場所・・・霊に拠点の様なものがあるのかは分りませんが、居場所を突き止めて、緋紗那さんに会わせる。そこまでが依頼という事でよろしいですね」
「はい。父はこの一週間で、また何件か騒ぎを起こしている様なので、なるべく早くお願いします」
「特殊な依頼となりますので、料金は通常より高くつきますが、よろしいですか?」
この時は我ながら、意地汚いとは思ったが、お互い切迫しているのだから、全然win-winなのだと思う事で、自尊心は保たれた。
「結構です。他の事務所もいくつか回ったのですが、受けてくれませんし、霊媒師も探してはみたんですけど、霊退治ならわかるが、霊探しは専門外だと言われてしまいまして・・・。受けてくださったのはこちらだけです。多少高くついても大丈夫です」
「では、契約書を刷ってきます」
そして、これから数日に渡って調査し、随時報告する旨、場合によっては突然呼び出す可能性がある旨を伝えて、契約書にサインしてもらった。
こうして、我が探偵事務所の初依頼は霊探しに決まったのだった。
僕は、この依頼が解決した暁には、暖房を30℃に設定して薄着でジェラートを食べることを心に決めた。
To be continued...