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デモン×ジャスティス  作者: ヒコ
第1章 悪魔のヒーローと小さな退魔師
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第4話 吸血鬼×小学生

 結果だけ言うなら男は相当手強い。戦闘に入る直前にマキナは男の実力を昨日の人狼(ワーウルフ)と互角かちょっと弱いくらいだと推測していたのだが、悪い意味で裏切られた。予想以上に長引いている。今のところ戦況はこちらが有利だが、マキナとしては早く決着をつけたい。

 男が放った衝撃波をマキナは右に転がることで回避し、銃のトリガーを数回引く。複数の魔力弾が男に当たって動きを止めたので、マキナはそのまま一気に相手との距離を詰めようとしたのだが。


「うおっ!?」


 突然肩に何かが直撃して爆発したせいで体勢を崩してしまい、タイミングを逃してしまう。

 何事かと思って境内を見回すと、先程まで倒れていた人外の少女が、無表情にこちらを見つめて立っている。その顔に生気は無く、頭から生えている狐の耳もどこか張りが無い。その姿はまさに死体そのもの。


死体操作(マリオネット)か」


 吸血鬼(ヴァンパイア)の中には、血を吸って殺した相手を魔力で意のままに操る能力を持っている者がいる。殺した相手を操るなんて最悪に趣味の悪い能力だ。男もそのタイプの吸血鬼である可能性を考慮して早く倒したかったのだが。

 男に殺されたはずの少女がマキナに向かって青白い炎を放ってきた。横に飛び退いて炎をかわしたマキナだったが、直後に男が放った衝撃波に襲われた。ダメージ自体はたいしたことないが、それでも痛いものは痛い。

 

「くそっ!」


 マキナの動きが止まったところに再び青白い炎が迫ってくる。体を捻って炎を避けながら男に対して銃を撃とうと試みるが、男が衝撃波を巻き起こす方が早かったので、慌てて左側へ側転して衝撃波を回避。そこへ、飛びかかってきた少女が爪をギラギラさせながら、手を振り下ろしてきた。マキナに攻撃を防御する余裕はない。鋭い爪が眼前に迫ってくる。


「させません!」


 横から疾風の如く駆けてきた美羽が、勢いそのままに跳躍して「はぁっ!」と少女の脇腹に(てのひら)を突き出した。ドンッ! と鈍い音がして、宙にいた少女の体がマキナから見て横一直線に吹き飛ぶ。

 少女が石畳を滑るように落下したのと同時に、美羽も着地する。背負っているランドセルがクルッと動いて体ごと顔をマキナの方へ向けた。


「先輩! キツネさんは、わたしに任せてください!」

「えっ……」


 あまりにも急な出来事だったためにマキナは一瞬呆けてしまうが、やたらと気合いの入っている美羽の瞳から強い意思のようなものを感じたので思わず頷いてしまう。


「あ、ああ、うん……いいけど……」

「ありがとうございます!」


 元気よく返事をして走っていった美羽が、頭に狐のような耳を生やした人外の少女と戦闘を始めた。

 少女が放つ青白い炎を右に左にかわしつつ、ピンクのセーラー服のポケットから取り出したお札を投げつける。


「退魔術! 霊爆符(れいばくふ)


 お札が発光した瞬間大きな爆発が起こったが、轟音も鳴り止まぬうちに少女が炎と煙の中から出てきて美羽に肉迫する。美羽は少女が繰り出した爪と蹴りをバックステップでかわすと手で印を結んだ。


「退魔術! 烈風刃(れっぷうじん)


 美羽から放たれた風の刃を打ち消すためか、少女が青白い炎を風の刃にぶつけた。大きな爆発が巻き起こり、炎と煙が収まると美羽と少女がまっすぐに見つめ合ってお互いを牽制していた。

 マキナは今の戦いを見て素直に感心する。人外の少女もそうだが、美羽も結構強い。美羽本人は未熟と言っていたが、自分が子供ということもあって単に自信がないだけで、その辺の魔族や人外相手なら普通に倒せるんじゃないかと思う。

 とはいえ、美羽は小学生。いざという時のために見守っていたかったが、そうもいかない。

 マキナは気持ちを切り替えて男を見据える。


「お前は何者だ?」


 今さらな質問だが、男の強さが異常だったので一応聞いておきたかった。昨日の人狼のこともある。もしかしたら、男は有名な吸血鬼でどこかの組織と繋がっているかもしれない。仮にそうだとしたら、かなり厄介だが。

 男は大げさに手を開くと高らかにこう言った。


「わたしは解放する者ブラド! この街を魔族と人外。そして、幼女だけの楽園(らくえん)に変える者です」

「……」


 こいつ、今何て言った?

 男の言葉が理解不能過ぎて、マキナは頭を押さえた――――あぁ……頭痛(ずつう)が痛い……。


「魔族と人外はわかった。でも、最後のは何だ?」

「幼女の良さがわかないと!? 見て下さい! まさに天使でしょう」


 男が心外だとでも言うように、戦っている美羽と人外の少女を指さす。2人の戦いは遠距離戦と近接戦を交えて激しくなっている。


「華麗に戦う幼女の姿……可愛いは正義です!」


 もうやだ、こいつ……とりあえず黙らせよう。

 何か色々と嫌になってきたマキナは早急にブラドを処刑(はいじょ)しようと銃を撃つ。ブラドが避けたタイミングを狙って飛び込み、相手の顔面をパンチで攻撃。そこから、拳と銃身で胸や腹を連打していく。


「ちょっ、待ってくだ……」

「黙れ! 変態」


 焦ったブラドが後ろへ下がるが、マキナは攻撃の手を休めずに前に出る。相手に反撃の隙を与えないためにもここで一気に決める。

 怒涛のラッシュで攻めきり、回転回し蹴りをブラドの腹へ。


「ぐへぇっ……」


 石畳を転がされて起き上がったブラドの顔は腫れ上がり、体の方もボロボロでフラフラしている。

 マキナは危険な吸血鬼にトドメをさすために、カードを取り出してバックルにスライドさせる。


能力強化(スキルアップ)————射撃(ショット)


電子音声と共に銃を両手で握って銃身に全身の魔力を収束させていく。銃から魔力の高まりを感じ取り、トリガーを引いた――――その瞬間!


 今まで美羽と戦っていた人外の少女がマキナとブラドの間に割って入り、迫りくる巨大な魔力弾に包まれて爆発した。

 すぐに爆発は収まったがそこにブラドと少女の姿はなく、少女が着ていた着物の切れ端だけが風に流されて宙を舞っている。


「なっ……?」


 突然起きたあまりの出来事にマキナは声が出ない。少女は吸血鬼の能力によって操られていたので仕方ないかもしれないが、それでも良い気分はしない。

 マキナが呆然としていると、どこからかブラドの笑い声が聞こえてきた。


「ハッハッハッ! せっかく手に入れたコレクションを失ったのは残念ですが仕方ありません」


 人外の少女が消滅している隙をついて逃げたのだろう。自分が殺した相手を操って盾にするなんて。変態なうえに最低な奴だ。

 神社の中を探すと社の屋根からこちらを見下ろしているブラドの姿があった。


「私を追い詰めてくれたことも含めて、この借りは必ず返しますんでお忘れなきよう! それとお嬢さん。いつか私のコレクションにしてあげますので楽しみにしておいて下さい」


 ブラドは最後に「ハーッハッハッハッ!」と高笑いをあげると、マキナと美羽に背中を向けて何処かに消え去っていった。







 何とも言えない感じだったが、とりあえず戦闘が終わったのでマキナはデモンドライバーの魔力を霧散させる。マキナの変身が一瞬で解けて、ドライバーが腰から跡形もなく消滅した。

 変身や武器の作成はドライバーの能力だが、ドライバー自体が元々はマキナの創造(クリエイティブ)という能力が作り出したモノ。ドライバーの能力を発動させるには、マキナの体に流れている魔力が必要だ。

 なので、ドライバーを使った後は疲労感に襲われる。


「ふぅっ」


 マキナが一息吐いていると、美羽が駆け寄ってきて頭を下げてきた。


「すみません! 先輩。わたしがキツネさんを止められなかったせいで、魔族を逃がしちゃって……」


 少し泣きそうな声をしている美羽の頭をマキナは優しく撫でる。


「美羽ちゃんのせいじゃないから大丈夫だよ」


 そもそも、あの変態吸血鬼を逃がした一番の原因はマキナにある。相手が吸血鬼で死体が動いていた時点で、ブラドが少女を盾にする展開も想定して動くべきだったのだ。美羽にしても、少女の動きがいきなり過ぎて対処が遅れたのだろう。そんな状況を責められるわけがない。それよりも。


「むしろ、美羽ちゃんがいてくれて助かった。ありがとう」


 美羽が少女の相手をしてくれなかったら、マキナはブラドにもっと苦戦を強いられていたかもしれない。


「本当……ですか?」


 美羽はまだバツの悪そうな顔をしている。

 マキナは頭を撫でている手に少しだけ力を込めて微笑んだ。


「本当だよ」

「えへへっ……先輩のお役に立てて……よかったです」


 はにかむ美羽の顔はあまり晴れてないが、明日には元気になるだろう。

 マキナは美羽の頭からそっと手を離した。


「じゃあ、帰ろっか」

「はい」


 頷く美羽を家まで送り届けるために、マキナは彼女の小さな手を握った。美羽もマキナの手を握り返してくる。

 2人で手を繋ぎながら、マキナと美羽は神社を出て住宅街の夜道を並んで歩く。

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