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デモン×ジャスティス  作者: ヒコ
第1章 悪魔のヒーローと小さな退魔師
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第3話 吸血鬼×変身

 小学生が夜束市の魔族や人外達に対する治安の管理をしている。その事実を知ってから、ずっと天井を見上げて今後の未来を憂いていたマキナを気遣ってか、シャルが美羽を誘って2人でテレビゲームに興じていた。聞こえてくる会話やリビングに置いてあるテレビ画面をたまに覗いてみた時の様子からして、シャルが一方的にボコボコにしている感じだったが。



 結局のところ美羽にちゃんとした返事も出来ないまま時間だけが過ぎていき、完全に日も落ちて暗くなったので美羽を家まで送り届けることにした。アパートの部屋を出る際に「にぃに。小学生に手を出したら社会的に抹殺する」と言ってスマホを見せつけてきたシャルが何か不気味だったので、若干引きつつ「大丈夫だから」と答えておいた。


 電灯の明かりだけが頼りの薄暗い住宅街の道を美羽と並んで歩く。ちなみに、シャルは魔界にいた頃から基本的に引きこもりで、人間界に来てからも相変わらずなので家で留守番をしている。


「はうぅっ……シャルちゃんに1回も勝てませんでした」


 肩を落とす美羽の姿に、マキナは苦笑いを浮かべた。魔界で引きこもっていたシャルに、マキナの母親がアニメやゲームといった人間界のサブカルチャーを徹底的に教え込んだせいで、妹はそっち方面にやたらと強い。おそらく、人間界でもシャルにゲームで勝てる奴なんてほとんどいないだろう。とはいえ、美羽が落ち込む全ての原因は無駄に時間を潰してしまった自分にあるワケだが。


「ははっ……嫌な思いさせちゃったな……」

「そ、そんなことないです。 わたし、ゲームなんてあまりしたことなかったんで、とても楽しかったです」

「そっか。それなら良かった……」


 マキナを見てニコッと微笑む美羽に、肝心なことをなかなか言い出せない。パートナーの申し入れをしてきた美羽の実力が未知数というのもある。本人に聞いても未熟と言うだろうし、昨夜の人狼(ワーウルフ)と戦って逃走したのだとしても、判断基準にならない程あの人狼は異常だった。通常の人狼ならマキナは数発の攻撃で動けなくする自信がある。それこそ、人間界のヒーロー番組に出てくる戦闘員みたいに束になってかかってこようが相手にならない。ところが、昨夜の人狼には必殺技まで使わされている。退魔師がどれくらいの強さかは知らないが、魔界だとあの人狼と戦って勝てるのは、魔王クラスかそれに近い実力を持っている魔族だけだろう。それくらいあの人狼は強かった。

 さて、どうしたものかと頭の中で思案しながら、十字路を右に曲がったところで、近くから女性の悲痛な叫び声が聞こえてきた。魔族が人間を襲っているのかもしれない。


「先輩!」

「ああ!」


 美羽と一緒に声のした方へ走りながら周囲を見回すと、住宅街にある小さな神社の境内で(すそ)が短い着物を着た少女が倒れているのを見つけた。その傍では黒いコートに身を包んだ長髪の男が少女を見下ろすように(たたず)んでいる。

 人間同士のいざこざの後のように見えなくもないが、どちらにしろ放っておけないので急いで境内の中へ。2人の姿が詳細に見える位置まで移動する。


「おや?」


 男がこちらに気付いたようなので、警戒しつつも先に少女の様子を確認する。肩から上の石畳(いしだたみ)の部分が血で染まっていて、体はピクリとも動かない。だが、それ以上に気になるのは、少女の頭から生えている狐のような耳。間違いなく少女は魔族や人外の(たぐい)だ。


「先輩、そこで倒れてるのって……」


 少し遅れてやってきた美羽に、マキナは「ああ」とだけ答えて男に視線を移した。男の口元は血で濡れている。


「これはこれは、美しいお嬢さんだ。あなたも私のコレクションに加えて差し上げましょう」


 体から殺気を放った男が美羽に対して下卑(げび)た笑いを浮かべたので、マキナは美羽を後ろへ下がらせて男を睨んだ。

 男が走ってこちらへ近づいてくる。


「させるわけないだろ!」


 男に叫ぶと、マキナは両手を開いて腰の横で構えた。意識と魔力を集中させて変身ベルト『デモンドライバー』を作成し(さくせい)、ベルトの左側に備え付けているデッキケースから変身用の赤いカードを取り出す。


「変身!」


 能力を発動させるための詠唱(スペル)を唱えてから、カードをバックルにスライドさせる。


超変身(オーバーチェンジ)————ッ!』


 電子音声が鳴り響き、デモンドライバーから発せられた魔力の光に包まれて肉体が変化した。いま行った一連の動作は『創造(クリエイティブ)』というマキナが持っている唯一の能力で、本来は自分がイメージした武器や防具を魔力で作成出来る能力らしい。だが、「時代はヒーローよ」と言っていた母親に幼い頃から洗脳(くんれん)されたせいで、マキナはデモンドライバーの作成とデモンドライバーを利用した能力しか使えない。とはいえ、その能力が戦闘に関してやたらと便利だったりするのだが。

 マキナの変身が完了したのと同時に、男が目前まで迫ってきて首を絞めてこようとした。マキナはその両手を弾いて男の腹にパンチを2発叩き込む。男が「ぐふっ」と僅かに後ろへ下がったので、回し蹴りを首に浴びせて男を吹き飛ばした。

 境内の石畳を転がった男は立ち上がると、マキナを見て興味深そうな顔をした。


「その姿……噂の悪魔か……」


 そう呟いた男は目を見開いて言葉を続ける。


「まさかこんなところで、美しいお嬢さんだけではなく、噂の悪魔にも出会えるなんて思ってもいませんでしたよ」

「……どういうことだ?」


 男の物言いに何か引っかかりを感じたマキナが真意を探るために訊ねると、男は両手を広げて芝居がかったポーズを取りながら口を開いた。


「あなたの存在を知ってから、一度お会いしたいと思っていました。どうですか、私と手を組んでこの街を人間たちから解放しませんか?」

「はぁっ?」


 あまりにも飛躍し過ぎた男の発言にマキナは理解が追いつかない。一瞬頭が真っ白になりかけたが、男が危険な思考を持っていることだけはわかった。当然誘いに乗るつもりもない。


「もし、断ったらどうなるんだ?」

「後ろにいるお嬢さんだけじゃなく、あなたもそこのキツネと同じようになります」


 男が倒れている少女を顎で指し示した。


「なるほどね」


 状況から察するに男は吸血鬼(ヴァンパイア)で、少女は血を吸われて殺されたのだろう。

 マキナは腰を低く構えて戦闘態勢に入る。


「交渉決裂だな!」


 危険分子を処刑(はいじょ)をすべく石畳を駆け抜けた。男との間合いを詰めて拳を放つと男が頭を横に逸らしたので、攻撃をかわされたマキナは男の反撃に備えてしゃがみ込んだ。男の薙ぎ払った爪が頭の上を通り過ぎていく。そこから出来た僅かな隙を狙って、マキナはアッパーで相手の顎を打ち抜いた。

 男の体が少し浮いたので、反対の手ですかさず殴り飛ばす。男は2歩3歩と後ろへ下がってから、恨めしそうにマキナを睨んで手をかざしてきた。

 男の手から巻き起こった衝撃波(しょうげきは)がマキナを襲う。両腕をクロスして衝撃に耐えるマキナの両足が石畳を砕いた。体ごと後ろへ持っていかれそうになったが、変身して身体能力が大幅に上昇しているため、マキナはほとんどダメージを受けていない。


「おのれ!」


 男が苛立ちを隠さずに衝撃波を連続して何発も放ってきたので、マキナは神社の境内の中を縦横無尽に移動して攻撃を避けていく。

 その途中でデッキケースから1枚のカードを取り出してバックルにスライドさせる。


武器装備(ウェポン)――――魔銃(ガン)


 電子音声と共に中空に現れた白い銃をキャッチすると、男に向かってトリガーを引いた。凄まじい速度で放たれた魔力弾が男の肩を撃ち抜く。男の顔が苦痛に歪んだが、衝撃波を巻き起こす手は止まらない。

 次々と放たれる衝撃波。その全てをかわしながら、マキナは魔力弾を撃ち返す。男も時々攻撃を受けてはいるものの、かわしながら衝撃波で反撃してくる。神社の境内で繰り広げられる魔族同士の戦いは、なかなか決着がつきそうにない。







 神代美羽は歯痒(はがゆ)さを感じていた。マキナ先輩にパートナーになって欲しいと家までついていったのに、いざ戦いが始まると自分は何も出来ずに見ているだけだ。それほど先輩と男の戦いは凄まじかった。

 特に凄いと思うのはマキナ先輩。彼は戦いが始まってから衝撃波を1度だけ防いだ以外は、男の攻撃を全く受けていない。境内の狭いスペースの中を上手く移動しながら男の衝撃波をかわして自らも攻撃を仕掛けていく。


 もし、美羽が男と戦えば勝負にならず簡単にやられてしまう可能性が高い。それこそ、昨日の人狼と同じかもっとヒドイことになっている。そんな敵を相手に危なげなく戦っている先輩の姿に美羽は感心しながら見ていることしか出来ない。


 男の衝撃波をかわした先輩が相手の(ふところ)に飛び込んでパンチで攻める。男はバックステップで距離を取りながら衝撃波で反撃する。それを先輩がかわして銃を撃つ。おそらく、遠距離戦では(らち)が明かないと判断したのだろう。先輩は撃ち合うのをやめて飛び道具と近接戦闘を交えた中距離戦に移行している。2人の戦いは激しさを増すばかりだ。そこに美羽が入る余地は全くない。 


 でも……それでも、自分は退魔師なのだ。まだ未熟とはいえ、夜束市の平和を守る存在として目の前の危険な魔族を相手に何も出来ないのは辛い。

 美羽は小さな手をぎゅっと握りしめた。







 その時ーーーー!







 境内で倒れている人外の少女の体が、僅かだがピクリと動いた。

 


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