第23話 悪魔のヒーローと小さな退魔師
神魔管理協会の特殊部隊や夜束市の魔族や人外たちを必死に説得した結果、マキナの誤解は何とか解けたみたいで、抱えていた美羽を途中で下ろした田中さんが、額に手を当てながら溜め息を吐いた。
「はぁっ……まったく、紛らわしいことしてんじゃないわよ。ビックリしたじゃない……」
「す、すみません……わたしが先輩の上に乗ってしまったせいで……」
田中さんの傍で、美羽が申し訳なさそうに頭を下げてきたので、困ったマキナは「ははっ……」と苦笑する。
美羽も悪気があってマキナの顔に跨ったわけではない。バットフライヤーから飛び降りたら、運悪くマキナの顔の上に着地してしまったのだ。なので、美羽を注意するワケにもいかない。それどころか、これ以上は誤解を解こうとして騒がない方が賢明だろう。
そう考えたマキナが、苦笑いを浮かべて、この場の話をやり過ごそうとしていると、御影が「ところで……」と言って1歩前に出てきた。
協会の特殊部隊の人間が、真面目な顔をしながら発言したことで、周りにいる魔族や人外たちが、「何だ? アイツ」「どうしたんだ?」とざわめいている。そんな中――――御影はマキナに対してこう言った。
「悪魔のヒーロー君は、今回の街の被害状況についてどう思う?」
御影の言葉を聞いて、マキナは周囲を見回す。まず目に入ってきたのは、アスファルトがボコボコに捲れ上がって土が剥き出しになっている県道。その周辺では、ひっくり返っている車やブラドに踏み潰されてペシャンコになっている車が多数ある。続いて夜束駅前での光景を思い浮かべると、死傷者は少ないものの、協会の特殊部隊の人間や夜束市の魔族や人外、僅かながら一般人も倒れていた。
ついでに言うと、現在も夜束市全体に、緊急時の非常放送が鳴り響いている。
「えーっと……やっぱり、マズイかな……?」
街の被害状況としては決して小さくないかもしれないが、マキナとしてはギリギリセーフにしてもらいたいところだ。そう思って、訊ねるような感じで返事をしてみたのだが。
「はぁっ……マズイに決まってるじゃないか……僕たち協会の暗部が大々的に動いて、夜束市のお偉いさんたちに手を回している時点で、神魔管理協会は、この街にいる魔族たちの取締りを徹底的に強化しなくちゃならない。それこそ、魔族が起こしたちょっと程度の悪戯でも、退治しなくちゃいけないくらいにね」
御影は呆れたように言うと、「ただ……」と付け加えた。
「今回は夜束市の魔族たちも頑張ってくれたからね。僕が上の連中に上手いこと掛け合ってみるから、しばらくの間、この街の魔族たちがバカなことをしないように、キミが代表して、しっかりと見張っておいてくれよ」
「それは、まあ、良いけど……」
「おや? 歯切れが悪いな。どうしたんだい?」
「いや、ちょっとな……」
マキナは、魔王から夜束市でバカなことをしている魔族や人外がいたら、処刑するよう命令を受けている。理由は簡単。そうすることによって、夜束市で普通に暮らしている魔族や人外たちの安住を守れるから。本来なら、御影の言葉に頷くことも簡単だ。
だが、今回のブラドのように、いつ危険分子がバカなことを仕出かすか分からない。もしかしたら、次に同じようなことがあれば、マキナ1人の手には余ってしまって、本当にアウトになってしまう可能性だってある。
だったら――――。
マキナは、この場を借りて今まで曖昧だった返事を明確にするべく、美羽のもとへと歩み寄り、地面に片膝をついて、彼女の肩を両手で優しく掴むと、その瞳をジッと見つめた。美羽は、「ふぇっ!?」と顔を真っ赤にしてオロオロしている。
「美羽ちゃん」
「は、はい!」
「俺は夜束市の平和を守らなきゃならない。そのためにも、美羽ちゃんの力が必要なんだ」
「先輩、それって……」
「ああ! 俺のパートナーになってくれ!」
今回はマキナ1人ではどうしようもなかった。美羽が居たからこそ、夜束市の平和を守ることが出来たのだ。今後も夜束市の退魔師である彼女の力が必要になることはあるだろう。今のウチにお互いの協力関係を結んでおいた方が、絶対に得策だ。その辺りを踏まえて話せば、魔界側も了承してくれるはず。
「先輩……!」
美羽は感極まったように瞳を潤ませると、勢いよくマキナの胸に抱きついてきた。
「ありがとうございます! これから、よろしくお願いします!」
「ああ! こちらこそよろしく!」
マキナも美羽をそっと抱きしめてから、彼女の頭を優しく撫でる。その光景を見ていた特殊部隊の人間たちや夜束市の魔族たちが、「アイツ、やっぱり……」「そうだったのか……」とざわめく。
そんな中、御影は「なるほどね」と呟くと、踵を返して歩きつつ、こう言った。
「僕たちは後処理があるから、魔族たちの管理はよろしくね! 悪魔のヒーローと小さな退魔師さん」
特殊部隊の人間たちも、「待って下さいよ! 隊長」「置いてかないで下さい!」と言って御影の後を追う。
こうして、吸血鬼が巻き起こした騒動は、一応の幕を閉じた。




