表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デモン×ジャスティス  作者: ヒコ
第1章 悪魔のヒーローと小さな退魔師
23/25

第22話 元凶

「ふぅっ……ようやく終わった」


 ブラドを倒して一息吐いたマキナは、ドライバーの魔力を霧散させて変身を解除すると、アスファルトがボロボロに(めく)れて土が剥き出しになっている道路に、倒れるような感じで仰向けになった。

 教会でブラドと一緒にいた少年と大柄な男のことが気にならないワケではないが、魔力を使い切ったマキナにこれ以上戦う力なんて残っていない。とりあえずは、人間や魔族や人外にとって、危険分子になりそうな吸血鬼(ヴァンパイア)処刑(はいじょ)したのだ。今はただ白衣を着た少年と大柄な男が現れないことを祈るばかり。


「それにしても……今回も(・・・)結構やばかったな……」


 本当にそう思う。魔王の子供であり処刑人(パニッシャー)でもあるマキナは、魔界で何度もブラドのような危険分子を処刑(はいじょ)してきたが、ギリギリで解決することが多い。一応は最善の手を考えて動いているつもりだが、どうしてもマキナの手に余りそうになってしまう。かといって、魔界の騎士団やマキナ以外の魔王の子供が対処に出てきても、簡単に返り討ちに遭ってしまうのがオチだが……。

 とりあえず、今回は御影たち神魔管理協会しんまかんりきょうかいの特殊部隊がいなければどうにもならなかったし、妹のシャルが夜束市の魔族や人外たちに、ネットで呼び掛けてくれなかったら、おそらくは詰んでいた。

 そもそも、人狼(ワーウルフ)処刑(はいじょ)した時に美羽と出会っていなければ、学校で御影とも出会っていないし、この場にいる夜束市の魔族や人外たちも、ほとんどが来てくれなかっただろう。

 結局のところ、どれか1つでも、出会いという名のパズルのピースが欠けていたら、夜束市に甚大な被害が出て、人間界と魔界との間で、外交的な大きな問題が生じていたかもしれないのだ。ヘタをすれば、ブラド1人のせいで、戦争が起きていた可能性だってある。


「ははっ……美羽ちゃんや御影、そして、如月や田中さんを含めた全ての出会いに感謝しなきゃなぁ」


 苦笑してそう呟いたマキナの上空で、バットフライヤーが停止する。その背中の上から、美羽が「せんぱぁぁあああい!」と叫びながら飛び降りてきた。


「えっ? いや、ちょっ……」


 飛び降りてくるのは良いが、その位置が問題だ。仰向けで寝転がっているマキナのほぼ真上から落ちてくるので、もう嫌な予感しかしない。このままいけば……。


「ぶふっ!?」


 顔に股がる格好で美羽に乗っかられたマキナの視界が暗くなり、衝撃と呼吸が出来ない苦しさから、思わず「ううっ……」と呻いてしまう。


「ふぇっ!? ひゃ、ひゃあっ!? くすぐったい!?」


 小さな悲鳴をあげて慌てた美羽が、足を閉じてスカートを押さえたのか、下にいるマキナの頭が、さらにがっつりとホールドされる。

 これはマズイ。このままでは窒息してしまいそうだ。

 身の危険を感じたマキナは、美羽の腰の辺りに手を掛けて、「んがぁっ!」と持ち上げようとするが、ブラドとの戦いで全てを出し切ったせいで、体に上手く力が入らない。


「ひゃあっ!? せ、先輩、くすぐったいです……!」


 くすぐったがる美羽に、「そんなこと言ったって」と反論しようにも、マキナは顔ごと口を塞がれているので、結局は「もごもごもご……」と呻くだけしか出来ない。そのせいで、美羽が「ひゃあああぁぁあああっ!」と余計にくすぐったがる始末。

 そんなこんなで、美羽の華奢(きゃしゃ)だが柔らかくて甘い感触にマキナが押し潰されそうになっていると、突然顔に乗っかっていた重みが消えて、視界が明るくなった。

 まだぼやけている視界が徐々に明るくなり、完全に元に戻ってからゆっくりと体を起こすマキナを、いつの間にか駆けつけてきた田中さんが、顔を真っ赤にしている美羽を抱えながら睨んでいる。その目は、まるでゴミを見るように冷たい。


「ちょっとアンタ、小学生相手に何やってんのよ!」

「マッキーが、ロリコンさんなのは、何となくわかってたけど……まさか、そういう魔族(ひと)だったとは……」


 田中さんの隣りでは、如月が光を失った()でドン引きしている。さらにその周りでは、協会の特殊部隊の人間たちや夜束市の魔族や人外たちが、「うわぁ……」「あいつ、小学生相手に何ていうプレイさせてんだよ……」「マジ最悪……」と、ざわついている。

 マズイ! ちゃんと誤解をとかなければ! そう思ったマキナは必死に叫ぶ。


「違う! 今のは誤解だ! 俺は決してロリコンなんかじゃない!」







「クスッ。悪魔のヒーローってば、せっかく吸血鬼(ヴァンパイア)を倒したのに、みんなから責められちゃってるみたいだよ」


 県道から少し離れたマンションの屋上で、白衣を着た少年パラケルススが、(さく)にもたれながらマキナたちを見下ろしつつ、楽しそうに(わら)う。そんな少年に、大柄な男ヴィクターが尋ねる。


「それよりも、良かったのですか? 狂人とはいえ、博士が薬を渡した相手が倒されたんですよ」

「ああ、べつに構わないよ。最初から、薬のデータが取れたら吸血鬼(ヴァンパイア)を処分するつもりだったし」


 パラケルススは、ヴィクターの質問にあまり興味が無いようだ。こちらをチラッと見て、どうでも良いといった感じで答えると、「それに……」と付け加えた。


「ヴィクターも嫌でしょ? あんな狂人とずっと一緒に居るのは」

「確かに嫌ですが……」

「だったら、これで良いじゃない。悪魔のヒーローのおかげで、薬の面白いデータも取れたしさ。いやぁ、まさか倒された直後に巨大な狼に姿を変えて復活するとは思わなかったよ」

「スラブ諸国には、クドラクを絶命させる時は、セイヨウサンザシで作った杭で串刺しにするか、膝下の腱を切ってから埋葬しないと、さらに強力な怪物になって蘇ってくるという伝承があるので、今回のような現象も有り得るのでは?」


 ヴィクターの質問に、パラケルススが不敵な笑みを浮かべた。


「さあ、どうだろう。1度死んだ生命体が復活する方法なんて、今のところ確立されてないからね。伝承についても、吸血鬼(ヴァンパイア)の中でも生命力や再生能力が高いクドラクを効率良く倒すための方法や術式を昔の人間が誇張してるだけなんじゃないかな」

「では、今回の現象は一体……?」

「ボクが最初に渡した薬で、吸血鬼(ヴァンパイア)の全体的な能力がかなり上がっていたからね。たぶん、悪魔のヒーローに斬られて爆発した時点で、まだ生きてたんだと思うよ」


 パラケルススが、夜束市の商店街の片隅にあるキャバクラで、人狼(ワーウルフ)吸血鬼ヴァンパイアに渡した生命の水(アクアヴェテ)は、服用したモノの力を無理やり何倍にも高めることが出来る。その副作用として、服用したモノの精神に多少の影響を与えてしまうのが難だが。

 本来の吸血鬼(ヴァンパイア)の平均的な強さは、県道で悪魔のヒーローだった少年と一緒にあたふたしている退魔師の少女と同じくらい。もしかしたら、退魔師の少女の方が若干強いかもしれない。それを吸血鬼は、パラケルススが作った生命の水(アクアヴェテ)を服用して、何倍にも力を増していた。当然生命力や再生能力も上がっていたと考えるのが自然だろう。そう考えると、パラケルススが言った通り、体を斬り離された時に生きていても、不思議ではない。

 ヴィクターが思考を巡らせている間も、パラケルススは饒舌(じょうぜつ)に語る。


「それでさ、生命の水(アクアヴェテ)とクドラクの遺伝情報が入った霊薬(エリクサー)吸血鬼(ヴァンパイア)の体内で混ざり合って化学反応を起こした結果、黒い狼の怪物に変化したんじゃないかな。まあ、吸血鬼が木っ端微塵になった今となっては、何とも言えないけどね」


 そう言って、パラケルススは、県道を見下ろした。視線の先では、悪魔のヒーロに変身していた少年が、人間や魔族たちに囲まれた状態で必死に何かを説明している。


「それにしても、夜束市(この街)にあんな奴が居たとは驚きだよ。おそらくは、魔王メフィスト辺りが派遣してきたんだろうけど怪人に変身した状態の吸血鬼(ヴァンパイア)を圧倒するなんて、結構やるじゃないか」

「博士の研究の邪魔をしなければ良いのですが」

「フッ。何を言ってるのさ。邪魔をしてくれた方が、生命の水(アクアヴェテ)霊薬(エリクサー)のデータが取れて良いじゃない」

「それはそうかもしれませんが……」

「なぁに。心配しなくても、研究に差し(つか)えるようだったら、夜束市(この街)から行方不明者が出るだけだよ。ボクたちのことを嗅ぎ回ってた退魔師みたいにね」


 夜束市を管理していた退魔師が行方不明になったのは約3か月前。それよりも遥かに前から、パラケルススとヴィクターは、生命の水(アクアヴェテ)霊薬(エリクサー)の研究をしていて、その実験を夜束市で行なっていた。ただし、人狼(ワーウルフ)吸血鬼ヴァンパイアのような驚異的な強さを得た魔族や人外は現れておらず、実験をするまでもない場合は、その場でパラケルススとヴィクターが処分してきた。

 そこから漏れ出て、街で悪事を働いていた魔族や人外を前任の退魔師や神魔管理協会が対処していたのだろう。夜束市では、幽霊や妖怪の目撃情報、不思議な体験談が後を絶たないが、魔族や人外による大きな被害はほとんど出ていない。その結果、パラケルススとヴィクターの存在に気付いた前任の退魔師が、自分たちのことを嗅ぎ回っていたので、研究の邪魔になると判断して行方不明になってもらったワケだが。

 研究のためのデータが取れるうえに、用済みの実験体(モルモット)を処分してくれるなんて最高だ。悪魔のヒーローには、利用価値がある(あいだ)は頑張ってもらいたい。

 ニヤリと口の端を吊り上げたパラケルススの言葉を聞いて、ヴィクターは無理やり自分を納得させるような感じで胸の前に手を置いて(かしず)く。


「わかりました。全ては博士の(おお)せのままに」

「流石はヴィクター。聞き分けが良くて助かるよ」


 満足そうな顔をしたパラケルススは、ヴィクターの方へ体ごと振り向くと、指をパチンッ! と鳴らした。パラケルススとヴィクターの足元に現れた巨大な魔方陣が眩い光を放ち、2人の体を包み込んでいく。


「今回は面白い研究データが取れたことだし、とりあえず、魔女たちがいる組織に帰ろっか」


 パラケルススが言い終わった直後に、光が周囲を照らすように弾けた。

 そして、光が収まると、マンションの屋上から2人の姿は消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ