第21話 悪夢の破壊
「ウソ……! 私たちが必死になって戦っても敵わなかった狼怪人をあっさりと……」
「強いとは思ってたけど……まさかここまでとは……!」
夜束駅前でホムンクルスと戦っている田中さんや御影たちがポカーンとしているなか、妙な違和感を感じたマキナは、手に持っている自分の剣を見つめたまま首を小さく傾げた。
「どういうことだ?」
マキナの斬撃で体を切り裂かれたブラドは確かに爆発した。それなのに、ブラドの気配が消えていない。
背後から感じる違和感を確かめるために、マキナが振り返ると、爆発の際に噴出された黒い靄が集まって、5メートル程の巨大な黒い狼の姿へと変化していく。
「そうきたか……」
吸血鬼の再生能力は、魔族の中でもそれなりにレベルが高い。中途半端な攻撃なら、その場でたちまち回復してしまう。その辺りも考慮して、マキナは敵を倒すための一撃を放ったが、木っ端微塵になったブラドの体は、再生するどころか明らかにパワーアップしようとしている。魔界でもこういった輩とは何度か戦ったことがあるが、一番嫌なパターンだ。
マキナが内心で勘弁してくれと思っているうちに、黒い靄は完全に巨大な黒い狼の姿へと変化し、「グルァァアアアッ!」と大きな雄叫びをあげる。それだけで、周囲の空気がビリビリと振動し、夜束駅前に立ち並んでいるビルやお店の窓ガラスがパリンッ! と割れた。
「うっ!?」
「わひゃっ!? なになに?」
ホムンクルスを殲滅している美羽や如月たちも、衝撃波のような大きな声にビックリして耳を塞いでいる。
「な、なんだアレは!?」
巨大な黒い狼に変身したブラドを見て、協会の特殊部隊や魔族たちが驚愕しているなか、剣を構えて戦闘体勢に入ったマキナに、ブラドが口を大きく開けて襲い掛かってきた。
マキナは「チッ!」と舌打ちをしつつ、地面を転がってブラドの攻撃を回避すると、カードケースから1枚のカードを取り出してバックルにスライドさせる。
『武器装備――――魔銃』
電子音声と共に空中に現れた白い銃を、剣を持っている方とは反対の手で掴むと、トリガーを連続で引いて魔力弾を連射。無数に放たれた魔力弾は全てブラドの体に直撃して小さな爆発を巻き起こすが、こちらをギロリ! と睨んできたブラドは、大してダメージを受けていないようだ。それどころか、ブラドはマキナの方を向くと、「グルァァアアアッ!」と雄叫びをあげて突っ込んでくる。
マキナは空高くジャンプし、ムーンサルトをしながらブラドの突進をかわすと、反撃をするために銃を構えた。だが、トリガーを引く前に、体を横に回転させたブラドの尻尾に打たれてしまう。
「うあっ!」
勢いよく吹き飛ばされたマキナは、背中からビルの壁に激突。壁に大きなクレーターを作り上げると、前に倒れるような感じで、ドサッ! とアスファルトの地面に崩れ落ちた。
「痛ってぇ……! って、おい!」
頭にパラパラとコンクリートの破片を浴びつつ、マキナが痛みを堪えてゆっくり起き上がっていると、突然ブラドが踵を返して、マキナがいる方向とは全く違う方向へと走っていった。
おそらく今のブラドは理性を失っている。マキナの前から走り去ったのも、衝動のまま暴れるためだろう。とはいえ、手当たり次第に街を破壊されても困る。
急いで立ち上がったマキナは、すぐにブラドを追いかけようとしたものの、ブラドは猛スピードで夜束駅前を走り去ってしまい、完全に姿が見えなくなってしまった。
「チッ……! 手遅れになる前に早く何とかしないと」
舌打ちをしてそう呟いたマキナのもとに、美羽や田中さん、如月や御影たちが慌てた様子で集まってくる。
「先輩! 今のって、もしかして……」
「ああ。吸血鬼だ」
「ええっ!? 吸血鬼っていうより、ほとんど怪獣じゃない……! あんなの、一体どうするつもり!?」
「そ、そうだよ……あんな怪獣みたいなの、いくらマッキーでも……」
「何か手はあるのかい?」
美羽たちの表情は暗い。残り僅かとなったホムンクルスたちと戦っている協会の特殊部隊や、夜束市の魔族たちも騒然としている。おそらくは。巨大な黒い狼に変身したブラドの姿を見て、絶望しかけているのだろう。
とはいえ、まだ手は残っている。
御影の問いかけに、「ああ!」と力強く答えたマキナは、カードケースから1枚のカードを取り出し、ベルトのバックルにスライドさせる。
『召喚————蝙蝠の機獣』
電子音声が鳴り響き、夕焼けの空に現れた巨大な魔法陣から、全身が機械のような体をしている4メートルくらいの大きな蝙蝠が出てきた。
バットフライヤーは、「ギャオーッ!」と蝙蝠らしからぬ鳴き声をあげながら、大きく羽を広げて空中で1回転すると、急降下して地上に着地する。
「うおぉぉおおおっ! かっこいい!」
「いやいや……まさか、こんなのまで召喚するなんて……! アンタ、一体何者なの……!? ははっ……!」
バットフライヤーの雄姿に如月が目を輝かせ、田中さんが何故か辟易としているなか、バットフライヤーの背中に飛び乗ったマキナに、美羽が声を掛けてきた。
「先輩、その……わたしも……」
美羽は途中で言い淀んで口を紡いでしまったが、言いたいことは分かる。例え力が及ばなくても、退魔師として、夜束市の平和を乱すブラドのことを放っておけないのだろう。
マキナとしても、必死に頑張ってくれた美羽の気持ちに応えてやりたい。
だから、マキナはバットフライヤーの背中から、美羽の方へ向かって手を差し伸べる。
「美羽ちゃん。一緒に行こう!」
「ふぇっ……!? い、いいんですか?」
「ああ。俺は悪魔のヒーローで、美羽ちゃんは退魔師。2人とも、この街の平和を守るのが仕事だ! だったら、2人で協力して吸血鬼を倒すのは当然じゃないか!」
「先輩……ありがとうございます!」
感激したように礼を言ってから、美羽はマキナの胸に飛び込んできた。そんな美羽をマキナは抱くような感じで優しく受け止めると、バットフライヤーの背中にそっと降ろしてやる。
「よいしょっと! 美羽ちゃん。ここからが正念場だ! 絶対に夜束市の平和を守り抜くぞ!」
「はい!」
美羽が力強く頷いたのを確認したマキナは、召喚した使い魔に大声で叫ぶ。
「バットフライヤー!」
これだけで、バットフライヤーは全てを悟り、「ギャオーッ!」と鳴いてから、羽を広げてオレンジ色の空へと羽ばたいていく。
「今この街を守れるのは君たちしかいない! 2人とも頼んだぞ!」
「マッキー! それに美羽ちゃん! あんなヤツ、ギッタンギッタンのボッコボコにしてやれー!」
地上からエールを送ってくれた御影や如月たちに、マキナが「ああ。任せろ!」とサムズアップを返したところで、空への上昇を終えたバットフライヤーが、もう1度「ギャオーッ!」と鳴いて、猛スピードで前進する。
コォォオオオッ! と風を切って見る夕焼けの空はとても綺麗で、このまま美羽と2人で景色を楽しみたいところだが、残念ながらそうもいかない。視線を地上へ移したマキナは、すぐに県道を疾走しているブラドの姿を見つけた。
今日は土曜日で、平日よりも交通量は少ないハズだが、ブラドが車を踏みつけて破壊しながら疾走しているせいで道路は大混雑。車から降りて逃げ惑う人たちもいて、大きな騒ぎになってしまっている。
「先輩。街が大変なことに……」
「ああ。かなりマズイな……これ以上余計な被害を増やさないためにも、早くブラドを倒さないと!」
ブラドが理性を失って暴れている今の状況では、例え人々を避難させても、その間にブラドが移動して無駄足になってしまう可能性が高い。だったら、少しでも早く元凶であるブラドを倒して、被害を最小限に食い止める方が得策だろう。
「バットフライヤー!」
マキナの声に反応したバットフライヤーは、急降下すると、県道沿いのビルや建物を避けつつ、ブラドの周りを旋回。2、3週してから、ブラドの正面で「ギャオーッ!」と翼を広げ、体当たりをする。バットフライヤーの体当たりを喰らったブラドは、後ろへ吹き飛ばされそうになったものの、踏ん張って「グルァァアアアッ!」と雄叫びをあげると、飛ぶような勢いで前に出てきて、バットフライヤーに頭ごと体をぶつけてきた。
「きゃっ!」
「おっと! 美羽ちゃん大丈夫か?」
「は、はい! すみません……!」
「いや、気にしなくて良い。それよりも、結構揺れるから、しっかり掴まってて!」
衝撃でバランスを崩して腰にしがみついてきた美羽を、マキナが片手でキャッチして支えている間も、バットフライヤーとブラドは、お互いに体をぶつけ合って戦いを続ける。怪獣大決戦もかくやという感じだ。
そんな2体の戦う姿に、車から降りて逃げ惑う人々や街の住人たちが、困惑を顕にしながらざわめく。
「きょ、巨大な蝙蝠が狼の怪物と戦って……!?」
「お、おい! あれを見ろ! 巨大な蝙蝠の上に人が!?」
「違う、人じゃない。悪魔だ……悪魔が、巨大な蝙蝠の上に乗って操っているんだ!」
「あれが噂の悪魔……」
街の人たちを避難させてもキリが無いのは仕方ないが、かといって、逃げないで立ち尽くされると巻き込んでしまう恐れがあるので、非常に困る。
ブラドと激しくぶつかり合うバットフライヤーの背中の上で、マキナがどうしたものかと悩んでいると、美羽がマキナの足にしがみついたまま、街の人たちに向かって大声で叫ぶ。
「ここは危険です! 早く逃げてください!」
「えっ? 女の子……?」
「悪魔の隣に女の子がいるぞ!」
「っていうか、あの2人……何かイチャついてるように見えるんだが……気のせいか?」
だが、美羽が叫んだのは逆効果だったかもしれない。街の人たちは目を丸くして、余計に立ち止まってしまっている。
美羽も、自分が叫んだのはマズかったと感じているのだろう。ちょっと涙目だ。
「うぅ……先輩……」
「ま、まあ、仕方ないよ……ははっ……」
街の人たちに誤解されるのは嫌だが、美羽なりに良かれと思ってやってくれたことなので、あまり文句は言えない。マキナが苦笑したのとほぼ同時に、バットフライヤーがブラドの攻撃を喰らって、足場となっている背中が大きく揺れた。そのせいで。美羽が「きゃっ!」と腰に強くしがみついてきたので、マキナは、片手で美羽を優しく抱き寄せて、彼女の体をしっかりと支えてやる。
「お、おい! やっぱりそうだ……!」
「あいつら、あの状況でイチャついてやがる……!」
「って、ことは……悪魔のヒーローって、アレか? もしかして……!」
「「「変態だったのか!?」」」
街の人たちのどよめきが、より一層大きくなり、大勢の人々が一斉に叫んだ言葉を聞いて、マキナは思わず「ぶほぉっ!」と肺から変な空気を漏らした。
いやいや、これはマズイ。誤解が断定になりつつある。このままロリコン認定されてしまったら、マキナは変身して街を歩けない。もとから目立つつもりはないが、それでも嫌なモノは嫌だ。
弁解する余裕がないマキナをよそに、ブラドとバットフライヤーが激しくぶつかり合い、地上では、ざわめく大勢の人々の中で、黒いスーツを着たサラリーマン風の男がメガネをクイッと上げた。
「年端もいかない少女をたぶらかすとは、何という外道! まさに悪魔だ!」
「ちょっ……!」
アイツ…… 何言ってんの!? っていうか、お前ら全員早く逃げろよ!
主に精神的な意味で、どんどん悪化する状況。しかも、街の人たちが逃げないせいで、ブラドと戦っているバットフライヤーが上手く力を発揮できない。そんなこんなで、マキナが困っていると、夜束駅前の方から、御影や如月たち、協会の特殊部隊や夜束市の魔族たちがやってきた。
「まったく……やけに押されてると思ったら……仕方ない……!」
「みんなー! ここは危険だから、早く逃げてー!」
嘆息する御影の隣で如月が避難を促すが、街の人たちは「えっ!? ネコ耳!?」「ネコ耳娘がいるぞ!」「こっちはトロールだ!」「何かよくわかんが、化け物みたいなのがいっぱいいる!」と、ざわめくばかり。
そんな街の人たちを田中さんが、「ああ、もう! アンタたち、早く逃げなさいよ!」と言いながら、次々と掴んで投げ飛ばしていく。その近くでは、協会の特殊部隊が「お前たち、早くここから離れるんだ!」と言って、空に向かって威嚇射撃をし、街の人たちが我先にと猛ダッシュでその場から逃げている。
手を拱いていたマキナとしては有り難いが、何ていうか非常にカオスだ。騒ぎが余計に大きくなったような気がするのも、きっと気のせいじゃないだろう。
とはいえ、御影や如月たちが街の人たちを逃がしてくれた。せっかくの、このチャンスを無駄にするわけにはいかない。
「バットフライヤー!」
マキナの声に呼応するかのようにバットフライヤーは、ブラドの体当たりをかわしつつ、空高く上昇した。そこから、さらに急降下して体ごとブラドにぶつかりにいく。だが、バットフライヤーの攻撃は、横へ飛び退いたブラドに簡単にかわされてしまう。
「くっ!」
攻撃をかわされたバットフライヤーは、そのまま空を滑空すると、もう一度急上昇し、身を翻してから、ブラドに向かって体当たりを行う。だが、1歩後ろへ飛び退いたブラドに攻撃は当たらない。それどころか、相手が後ろへ下がったことで、その場で急停止を余儀なくされたバットフライヤーに、飛ぶような勢いで前に出てきたブラドの体当たりが炸裂する。
「うおっ!」
衝撃で足元がグラつき、マキナが美羽を抱きしめつつ、地上へ落ちないように踏ん張っている間に、バットフライヤーは、後ろへ吹き飛ぶのを何とか耐え抜くと、巨大な蝙蝠の羽を振りかざしてブラドを殴りつけた。僅かに体勢を崩したブラドは、「グルァァアアアッ!」と雄叫びをあげると、口を大きく開けて襲い掛かってくる。巨大な牙が閉じるギリギリのところで、バットフライヤーが後ろへ下がって攻撃をかわすと、ブラドは必死に喰らいつこうとして、何度も前に出てきて噛みつこうとしてくる。
それらを全てかわしつつ、バットフライヤーは、羽での殴打や近距離からの体当たりで反撃するものの、相手にダメージを与えるまでには至らない。一度上昇して、急降下からの体当たりを行ってみるものの、簡単にブラドにかわされてしまう。ブラドに攻撃をかわされたバットフライヤーは、そのまま空を滑空しながら上昇していく。
その背中の上で、マキナはため息を吐いた。
「まいったな……このままじゃ、埒があかない」
「先輩……吸血鬼を倒すための、何か良い方法とかはないんですか?」
「うーん……あるにはあるんだけど……それには、まずアイツの動きを何とかしないことには……」
実際のところ、ブラドを一撃で倒せそうな手段ならある。だが、それを使うとなると、魔力を最大限まで高める必要があるし、バットフライヤーの急降下からの体当たりみたく、ブラドにかわされてしまう可能性の方が高い。はっきり言って、あまり有効な手段とは言えないかもしれない。
「吸血鬼の動きを封じれば、なんとかなるんですよね?」
「ま、まあ………たぶん」
「わかりました。その役目、わたしにやらせてください」
「えっ? 美羽ちゃんが?」
「はい。わたしが残りの魔力を全部使って吸血鬼の動きを封じます。ですから、わたしが魔力を高めて術を使うまでの間、先輩とこうもりさんには、吸血鬼の気を惹いてもらいたいのですが」
美羽もマキナと一緒にバットフライヤーの背中に乗っているので、気を惹くも何もないと思うが……。
正直なところ、美羽が何をやりたいのか分からない。だが、美羽の目は真剣だ。だったら、ここは真摯に答えてやるべきだろう。
「わかった」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに微笑んだ美羽は、マキナの腰から手を離すと、凛とした表情をしつつ、深呼吸をしながら静かに魔力を高めていく。そんな美羽の肩に手を回して、しっかりと体を支えたマキナは、自分の使い魔に声を掛ける。
「バットフライヤー!」
マキナの声に反応したバットフライヤーは、「ギャオーッ!」と蝙蝠らしからぬ鳴き声をあげると、急降下しながらブラドに向かって突っ込んでいく。バットフライヤーの攻撃は、横へ飛び退いたブラドにかわされてしまうが、相手の気を惹くことが目的なので問題ない。バットフライヤーはそのまま身を翻すと再びブラドに向かって突っ込んだ。当然これもブラドにかわされ、近距離でのぶつかり合いを交えつつ、空に上昇してから急降下。相手を翻弄しながら気を惹くための戦いを繰り広げていく。
とにかく今は、美羽が魔力を高め終えるまで、ブラドが他の場所へ移動しないように気を惹くのが先決だ。攻撃をかわされても、相手を翻弄出来ればそれで良い。
空中からバットフライヤーが突進し、それをかわしたブラドが反撃してくる前に、空高く上昇。敵を翻弄するだけなら、バットフライヤーにとっては、うってつけの仕事だ。
こうして何度も同じような攻防を繰り返しているうちに、美羽は魔力を高め終えたらしい。顔を上げてマキナを見つめると、大きな声でこう言った。
「先輩! 吸血鬼の足もとを目がけて、突撃してください!」
「了解!」
美羽の肩から手を離したマキナが頷くと、それに反応したバットフライヤーが地上へ急降下。すぐに地上に辿り着くと、バットフライヤーは、地面すれすれのところを滑空しながら、ブラドの足もとを目がけて加速する。
一瞬でお互いの距離が近くなり、ブラドが、バットフライヤーを飛び越えるために、ジャンプしようとした。
その瞬間――――!
「退魔術! 烈風刃――――大太刀四連!」
印を結んだ美羽から放たれた巨大な4つの風の刃が、飛び始めたブラドの足を全て切り裂く。全ての足を切断されたブラドは、大きくバランスを崩したらしく、声にならない悲鳴をあげると、地面に倒れ落ちた。当然起き上がってくる気配もない。
「まさか、本当にブラドの動きを封じるとは……!」
「ハアッ……ハアッ……」
思わず感嘆の声を漏らしたマキナの隣で、見事にブラドの動きを封じた美羽が、崩れ落ちるようにしてバットフライヤーの背中に両膝をついて四つん這いになった。それとほぼ同時に、バットフライヤーが、地面に横たわっているブラドとの追突を避けるため、弧を描くような感じで空へと上昇する。
「美羽ちゃん大丈夫か?」
「はい……! 魔力を使いきって疲れただけなので、大丈夫です……それよりも、先輩は早く吸血鬼を……!」
「ああ! 後は任せてくれ!」
美羽ちゃんは役目を果たしてくれた。だったら、今度は俺の番だ!
そう心の中で叫んだマキナは、雲を突き抜けて上昇したバットフライヤーの背中の上で、ベルトのカードケースから1枚のカードを取り出して、バックルにスライドさせる。
『必殺技――――悪夢の破壊』
電子音声が鳴り響き、マキナが腰を落として右足に魔力を集中し始めたのと同じタイミングで、宙返りをしたバットフライヤーが、猛スピードで、ほとんど垂直に地上へ駆け降りる。
「ひゃうっ!?」
地上へ降下する勢いで美羽が飛ばされそうになって、バットフライヤーの背中にしがみついている間に、マキナは右足に集中させた魔力を爆発的に高め、バットフライヤーが呼応するように空で急停止した。
その反動で地上へ飛ばされたマキナは、背後にソニックブームを発生させながら、蹴りの体勢を作って急降下。地面に横たわって「グルルッ!」と唸っているブラドの心臓を狙って、胸の辺りに蹴りを炸裂させると、そのまま相手の体を貫こうとするが。
「グルァァアアアッ!」と雄叫びをあげて、抵抗しようとしているブラドの体を上手く貫くことが出来ない。蹴りの体勢のまま、マキナが視線を足もとにズラすと、切断された断面から、黒い靄のような触手がウネウネと出てきて、失った足を再生し始めているのが見えた。
「くっ!」
このままではマズイ。悪夢の破壊は、マキナが使える最強の必殺技。しかも、保険をかけてバットフライヤーの加速力まで上乗せしている。もし、このまま攻撃が失敗して、足を再生されてブラドに動かれてしまったら、本当に打つ手が無くなってしまう。そうなれば、美羽や御影や田中さん、如月や他のみんなが、頑張ってここまで繋いでくれたチャンスが無駄になる。
「うぉぉおおおっ! 負けるかぁぁあああぁぁあああっ!」
マキナは、体内に流れる全ての魔力を右足に集中させた。蹴りにさらなる力が込められ、相手の体を貫こうと加速する。だが、ブラドを倒すには、まだ力が届かない。僅かに足が再生して、無理やり起き上がろうとしているブラドと、お互いに拮抗状態のままだ。それでも、絶対に負けるワケにはいかない――――。
蹴りの体勢のまま、必死にブラドの体を貫こうとするマキナの周りで、如月や田中さんたちが叫ぶ。
「いっけぇー! マッキー!」
「そんなヤツ、とっととやっつけちゃいなさい!」
さらには、県道で街の住人たちを避難させてくれた協会の特殊部隊や夜束市の魔族たちも、「頑張れー!」「この街の平和を守ってくれー!」とマキナに声援を送ってくれる。
そんな中、空で浮遊しているバットフライヤーの背中から、「先輩がんばってぇぇえええ!」と必死に叫ぶ美羽の声が聞こえた。美羽の声援を受けたマキナの鼓動がドクン! と高鳴り、体から魔力が湧いてくる。
「これは……!?」
何が起こったのかは分からないが、これならいける!
一瞬戸惑うマキナだったが、すぐに気を持ち直すと、体から湧いてくる魔力を右足に集中させる。
「おおおおおおおっ! せいっはぁああああああっ!」
力を込めた右足から、メリメリッ! とブラドの体の肉を抉って沈んでいく感触が。その後すぐに、マキナはブラドの肉体を突破し、右足がアスファルトの地面に炸裂。ドッパアアアン! という轟音が鳴り響き、盛大な土煙と一緒に、心臓を潰されたブラドの体が大きな爆発を巻き起こした。
炎が燃え盛り、爆風が周りのアスファルトと地面をめくり上げていく。そんな中、マキナは油断せずに戦闘の構えを取ったまま、爆発四散したブラドが再生してこないか、しばらく様子を窺ったが、その気配は全く無い。夜束市を騒がせた吸血鬼を完全に倒したようだ。




