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デモン×ジャスティス  作者: ヒコ
第1章 悪魔のヒーローと小さな退魔師
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第19話 到着! 悪魔のヒーロー

「うへぇっ……」


 車から降りたマキナは、安堵の息を吐きつつ脱力した。

 綾音さんの運転は、とてもじゃないが上手いとは言えない。急ブレーキに急発進は当たり前。マキナがシートベルトを出来ていないにも関わらず、曲がり角では急ハンドルを切る始末。おかげで、マキナは車の中をゴロゴロと転がり回った。

 そんなマキナに綾音さんは、


「あんまり動かれると鬱陶(うっとう)しいので、じっとしていて下さい」


 冷たい言葉を放つだけで、運転を改めようとはしなかった。正直なところ、綾音さんが運転する車には、今後は出来るだけ乗りたくない。

 戦う前から何だか異様に疲れたマキナは、頬からアゴへと(つた)う汗を拭いつつ、夜束駅前の状況を確認する。

 夜束駅前では、神魔管理協会の特殊部隊と思われる武装をした人間が数名と、トロールや蜥蜴人間(リザードマン)といった夜束市に住んでいる魔族や人外たちが、ホムンクルスと戦闘を繰り広げている。まあ、ゴブリンやコボルトに至っては、どう見てもホムンクルスに追い回されているだけにしか見えないが。

 戦況はあまり芳しくないようだ。戦っている特殊部隊の人間や魔族の数より、倒れている人間や魔族の数の方が多い。このままだと長くは持たないだろう。

 夜束駅前で協会の特殊部隊や夜束市の魔族や人外たちが、ホムンクルスと戦いを繰り広げているなか、


「どこを見ているんです!」


 黒い狼の怪人の姿をしたブラドが、こちらに顔を向けて目を見開いている美羽に襲い掛かった

 敵の攻撃に気付いた美羽が、体捌きやフットワークを駆使して、ブラドの攻撃を次々とかわしていくのを目にしたマキナは、戦いに参加しようと足を1歩踏み出すが、


「こ、ここは立ち入り禁止だ! 早く立ち去りなさい!」


 横からジャキっとライフルを構えるような音が聞こえて立ち止まった。何事かと思って音のした方へ視線を移すと、協会の特殊部隊の人間が1人、おろおろしながらこちらへ銃口を向けて立っている。

 そういえば、夜束駅前に着く直前で、道に並べられたバリケードの前に、この人らしき人物が立っていて、綾音さんが()き殺しそうになっていたっけなぁ。


「えっと、すみません。急いでるんで、ここを通してもらえたらなぁ……なんて……ははっ……」


 出来るだけ角が立たないように、マキナは苦笑しながら両手を挙げて頼んでみるが、特殊部隊の人間は銃を構えたまま首を横に振る。


「ダメに決まってるだろ! さっきも大人数で押しかけられて突破されてるんだ。今度は絶対に突破されるワケにはいかないんだよぉ……うぅっ……」


 言葉の最後の方で、特殊部隊の人が泣きそうになっているのを見て、大人数で突破したのは、おそらく夜束駅前で戦っている魔族や人外たちで、その後に、追い討ちをかけるように綾音さんが車で突破したので、この人は仕事にならず、よっぽど悔しかったんだろうとマキナは察する。

 とはいえ、マキナとしても、こんなところで時間を無駄にしたくない。この人には悪いが、ここはアゴか鳩尾(みぞおち)辺りに1発入れて、大人しく眠ってもらうか。

 そう考えて、マキナが特殊部隊の人の方へ体ごと振り向いたところで、運転席から綾音さんが降りてきた。

 綾音さんは、特殊部隊の人の傍まで歩み寄ると、スーツの内ポケットから、身分証らしきモノを取り出して提示する。


「私は神魔管理協会の九条綾音という者です。すみませんが、そこのクソ虫を行かせてやってくれませんか」

「は、はあ……ですが、夜束駅周辺は、強力な魔族が暴れているせいで、現在(いま)とても危険な状態でして……」

「はい。それを何とかするために、このクソ虫を連れてきたんです!」


 綾音さんは、困惑する特殊部隊の人に詰め寄ると、「ですよね! クソ虫」と同意を求めてきた。


「ま、まあ……そうだけど……」


 鬼気迫る綾音さんの物言いにたじろぎながらマキナが頷くと、特殊部隊の人も諦めたのか、構えているライフルを下ろしてくれた。


「はぁっ……わかりました。わかりましたよ……早く行って下さい」

「と、いうことで、夜束市(この街)と美羽さんを頼みましたよ! クソ虫」

「はい! 任せて下さい!」


 マキナは、特殊部隊の人と綾音さんに親指を立ててサムズアップのポーズで答えると、夜束駅前の戦場と化している場所へと走る。

 数秒で、協会の特殊部隊や夜束市の魔族や人外たちが、ホムンクルスの集団と戦いを繰り広げている場所まで走ってきたマキナの前に、数体のホムンクルスが立ち塞がる。


「邪魔だ!」


 目の前のホムンクルスの壁を突破するべく、マキナは正面のホムンクルスを走りながら殴り飛ばし、残りのホムンクルスたちをバーゲンセールの主婦みたいに掻き分けて進んでいく。


「な、何だアイツ!」

「俺たちが苦労している白い化け物をいとも簡単に……」


 押し退けるだけで、ホムンクルスたちを簡単に蹴散らしていくマキナの姿に、特殊部隊の人間たちが、驚愕の声をあげる。その間に、ホムンクルスの壁を突破したマキナは、夜束駅前をさらに突き進み、美羽に攻撃しているブラドに向かって勢いよくジャンプ。空中を移動しながら、ブラドに抱きつくような感じで体当たりをしたマキナは、ブラドともつれ合うようにして地面を転がりながら、ブラドの体を放り投げた。

 宙を舞ったブラドの体が、アスファルトに叩きつけられたのとほぼ同時に、体を起こして立ち上がろうとしたマキナのもとに、美羽が駆け寄ってきてマキナの体に抱きついてくる。


「先輩! 来てくれたんですね」

「ああ、遅くなって悪い」


マキナが、そっと抱き寄せて優しく頭を撫でると、美羽は首を小さく横に振った。


「そんなことないです……先輩が来てくれて本当によかった……わたし、みんなが手伝ってくれてるのに、危険な目にあわせているだけで……何もできなくて……」


 泣きそうな声を出した美羽の言うとおり、夜束駅の周辺では、およそ30体のホムンクルスが暴れている。その中で、特殊部隊の人間や夜束市の魔族や人外たちが、道路に倒れて(うめ)いている。とても悲惨な状況だ。

 おそらくは、美羽もブラド相手に、相当な無理をしたのだろう。美羽の姿は結構ボロボロで、体中に出来た細かい傷や擦り傷が、壮絶な戦いをしていたことを物語っている。

 これがもし、ブラドの近くで倒れている田中さんや如月、御影たちだけなら、すぐに全滅して街に大きな被害が出ていたかもしれない。たぶん美羽だけでも、結果は変わらなかっただろう。そんな絶望的な戦いの中で、ギリギリ踏ん張ってくれている美羽や他のみんなには、感謝の気持ちでいっぱいだ。


「美羽ちゃんや、他のみんなが頑張ってくれたおかげで、街に被害がほとんど出ずに済んだ。ありがとう」


 マキナと美羽が再開して、言葉を交わしている間に、地面に倒れているブラドが立ち上がった。


「おのれ……! もしかしたらとは思っていたが、まさか本当に邪魔しに来るとは……」


 こちらを睨むブラドを見据えつつ、美羽を体からそっと引き離して、マキナも立ち上がる。


「ああ、お前に好き勝手させるワケにはいかないからな」

「ふざけるな! 私は人間どもを皆殺しにして、魔族と幼女だけの理想の楽園を作ろうとしているんだぞ! 言ってみれば救済者! そんな私に向かって何が好き勝手だ! このお邪魔虫が!」

「……」


 いやいや、その理想の楽園自体が、個人的な趣味が入ったふざけたモノなのだが。

 狂人相手にマキナが黙っていると、ブラドの近くで倒れている田中さんがよろよろと立ち上がった。


「うっさいわね……! 誰もアンタなんかにそんなこと頼んでないでわよ……」


 続いて如月と御影も立ち上がる。


「そうそう……! キミの勝手な思い込みで、私たちの居場所を壊すようなマネをするな……!」

「全くだ……! こんなヤツのせいで、魔族の管理体制を厳しくするなんて、僕たちだってゴメンだ……!」


 周りからも、「そうだ!」「そうだ!」という声が聞こえてきて、ブラドの顔が苦渋の色に満ちていく。


「ぬうぅっ……! 私の理想を理解しようとしないクズどもが……!」


 夜束駅前では、劣勢でありながら、魔族や人外たちが協会の特殊部隊と一緒になってホムンクルスの集団と戦っている。みんな自分たちの居場所を守るために必死だ。

 美羽と夜の街をパトロールした時は、この街の魔族や人外は、人の迷惑を考えずに行動しているバカばっかりだとマキナは頭を悩ませていたが、それは各種族の習性的なモノも関係しているので、ある意味仕方のないことなのかもしれない。でも、実際に自分たちの住んでいる街に危機が訪れそうになれば、こうして駆けつけてくれている。みんな夜束市(この街)での生活が大切なのだろう。

 だからこそ、マキナは美羽や他のみんなに聞こえるように、こう口にする。


「みんな! 俺たち全員で、この悪夢を終わらせよう!」


 マキナの言葉に賛同してくれたのか、顔を上げた美羽が、目に涙を浮かべつつ、満面の笑みを見せる。


「はい!」


 先程まで泣きそうになっていたのがウソだったかのように、返事をした美羽の表情は、とても晴れやかだ。

 正直なところ、ホムンクルスの数が減った今なら、マキナ1人でも、ブラドを含めて敵の全てを倒せるかもしれない。白衣を着た少年と大柄な男の実力がまだ未知数だが、教会で戦った時の記憶を頼りにシュミレートしてみると、ギリギリ何とかなりそうな感じだ。まあ、それ以前に、あの2人の姿が見えないので、もしかしたら、戦いに参加してこないかもしれないが。

 だからといって、マキナ1人で戦うつもりなんてない。せっかくみんな頑張ってくれたのだ。ボロボロの状況でキツイかもしれないが、この場にいる全員で、戦いに勝利して街の平和を守り抜くべきだろう。

 

「仕方ないわね! こうなったら、とことんやってやろうじゃないの!」

「にゃはは! 私も最後まで付き合うよ! マッキー」 


 田中さんや如月が賛成の言葉を述べると、周りからも、「「「おおっ!」」」」という同意の声があがった。


「おのれ! ザコどもが……! 貴様ら全員まとめて地獄に送ってやる……!」

「いいや! 処刑(はいじょ)されるのは、お前の方だ! ブラド!」


 苦いモノを噛み潰すように言ったブラドに不敵な笑みを浮かべたマキナは、1歩前に出てから両手を開いて腰の横で構えると、変身ベルト『デモンドライバー』を作成するために、意識と魔力を集中しながら高めていく。

 目覚めてから異常に(みなぎ)っていた力は、美羽と再開してからさらに溢れ出し、今では爆発しそうな勢いだ。それらをマキナの能力(スキル)創造(クリエイティブ)で形に変えていく。

 変身ベルト『デモンドライバー』を腰に顕現(けんげん)させたマキナは、ベルトの左側に備え付けてあるデッキケースから、変身用の赤いカードを取り出し、ドライバーの能力を発動するための詠唱(スペル)を唱えつつ、バックルにカードをスライドさせる。


「変身!」

超変身(オーバーチェンジ)ーーーーッ!』


 電子音声が鳴り響き、デモンドライバーから発せられた魔力の光に包まれて、マキナの肉体が変化した。黒いボディスーツみたいな手足に、胸には生物的な赤い装甲。蝙蝠(こうもり)をシルエットにした感じの、フルフェイスマスクのような頭部。そして、羽の形に合わせた黄色の複眼。


「お、おい、アレって、まさか……!」

「あ、ああ……間違いない!」

「やっべ! 俺、初めて見た……!」


 悪魔の姿に変身したマキナを見て、周りでホムンクルスと戦っている特殊部隊の人間や魔族たちが、ざわめき始める。


「えっ? ウソ……久遠君って、悪魔のヒーローだったの?」

「うん! そうだよ! マッキーが、街で噂になってるヒーローだよ!」


 どうやら、田中さんも知らなかったらしい。驚く田中さんに、如月が答えてニコニコしている。

 マキナの思惑とは違うが、絶望的だった場の空気が何だか軽くなっている。みんな少しだけ余裕を取り戻したみたいだ。だったらーーーー!

 マキナは、夜束駅前で戦っている特殊部隊の人間や魔族たちを見回すと、再びブラドに視線を移して戦いの開幕を宣言する。


「さあ、最終決戦を始めようか!」

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