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デモン×ジャスティス  作者: ヒコ
第1章 悪魔のヒーローと小さな退魔師
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第16話 集結

 夜束駅前の広い道で、吸血鬼(ヴァンパイア)が、ショットガンで攻撃している黒い服装の人に、襲い掛かろうとして、腕を振り上げた。美羽は、疾走(しっそう)しながら、吸血鬼に向けて、手で印を結ぶ。


「退魔術! 雷撃衝(らいげきしょう)


 魔力操作によって、収束された大量の電撃が、一筋の閃光(ひかり)となって、吸血鬼(ヴァンパイア)に直撃。吸血鬼は、(わず)かに体勢を崩して、動きを止めたが、美羽の攻撃が効いた様子はない。


「ん?」


 そのまま、何事も無かったように、走って近づいてくる美羽の方を向いた。

 だが、それで良い。自分の攻撃が通用しないことなんて、すでに分かっている。重要なのは、攻撃を効かせることじゃない。吸血鬼(ヴァンパイア)の注意を自分に惹き付けること。


「小娘が! 貴様も私をコケにする気かぁぁあああ!」


 怒声を発した吸血鬼(ヴァンパイア)が、腕を振り下ろしてきたタイミングに合わせて、空高くジャンプ。空中で、前転しながら吸血鬼の頭上を飛び越えて、アスファルトの地面に着地する。


「おのれ……!」


 美羽が振り返ったの同時に、吸血鬼も振り返って、攻撃を仕掛けてきた。美羽は吸血鬼の攻撃に備えて、半身の体勢で構える。


「おとなしく私に殺されろおぉぉおおお!」


 吸血鬼(ヴァンパイア)が振り下ろしてきた腕を美羽はバックステップで回避。次に吸血鬼が薙ぎ払ってきた腕を頭を低くすることで空振りさせる。そこから、さらに吸血鬼(ヴァンパイア)が繰り出してきた無数の攻撃を、美羽は後ろに下がりながら、最小限の動きだけで全てかわしていく。

 これらの動きは全て、アパートの裏庭で組手の稽古をした時に、先輩が使っていたモノ。先輩みたいに、相手の攻撃をかわしながら、綺麗にカウンターを入れるのは難しいが、()けるだけなら、美羽でも何とか出来る。

 吸血鬼(ヴァンパイア)が繰り出す攻撃を次々とかわしていく美羽に、吸血鬼が、勢い良く腕を振り下ろしてきた。美羽は、後ろへ大きく飛び退いて、相手から離れた場所で着地する。空振りした吸血鬼の腕が地面を叩いて、その周辺のアスファルトを豪快に砕いた。それを見た美羽は、冷や汗が出るのを感じつつ、吸血鬼と対峙(たいじ)して構える。

 先輩なら、最小限の動きでかわして反撃するかもしれないが、美羽は()けるだけで精一杯。正直なところ、敵の攻撃を間近(まぢか)で避け続けるだけでもかなり怖い。

 でも……! それでも、


「先輩が駆けつけてくれるまでの(あいだ)、わたしが頑張って、吸血鬼(ヴァンパイア)の足を止めないと!」


 そう自分に言い聞かせた美羽は、アスファルトの地面を疾走しながら、勢い良く飛び上がって、


「はあっ!」


 全力の回し蹴りを放つ。だが、吸血鬼(ヴァンパイア)が体を反らして後ろへ飛んだせいで、美羽の蹴りは、相手に当たらずに空を切った。着地した美羽は、ホムンクルスの集団と黒い服装の人たちが戦っている真っ只中に降り立つ吸血鬼を追いかけて疾走。吸血鬼との距離を一気に詰めると、相手の腹に掌底(しょうてい)を叩き込む。

 手応えはあるものの、美羽の攻撃は、やはり効いていない。相手の反撃を予想した美羽が、バックステップをして、後ろに下がると、吸血鬼が一気に間合いを詰めてきて、連続で攻撃を仕掛けてくる。美羽は、それらを全て最小限の動きだけでかわしていくが。

 吸血鬼が横に薙ぎ払った腕を体勢を低くすることで空振りさせてから、美羽が相手の背後に回り込んだところで、吸血鬼が後ろ回し蹴りを放ってきた。美羽は咄嗟(とっさ)に腕を重ねて、吸血鬼の攻撃を防ごうと試みる。だが、吸血鬼の蹴りが予想以上に強力で、美羽は、そのままの体勢で後ろへ大きく吹き飛ばされてしまい、アスファルトの上で何度かバウンドしてから、ゴロゴロと転がってしまう。


「うぐっ……!」

 

 その場で(うずくま)りそうになるほど腕や体が痛い。でも、今は痛がってる場合じゃない。

 美羽は痛みを(こら)えて起き上がろうとしたのだが。痛みのせいで体が上手く動かない。

 そんな美羽を取り囲もうとして、周りにいた複数のホムンクルスたちが近づいてくる。

 結局は、そのままホムンクルスたちに囲まれてしまい、痛みのせいで起き上がれずにいる美羽に襲い掛かろうとして、1体のホムンクルスが腕を振り上げた。


「――――ッ!」


 このままじゃ、やられる!

 そう思って、美羽は歯を食いしばったが。


「させるか!」


 後ろから御影さんの大きな声が聞こえたのと同時に、銃声が何度か響いて、腕を振り上げているホムンクルスの体に銃弾が炸裂。体から沢山の火花を散らしたホムンクルスは、アスファルトの地面に倒れて消滅した。

 だが、よろめきながら立ち上がった美羽を取り囲んでいるホムンクルスは、他にもまだ沢山いる。今度は数体のホムンクルスが美羽に襲い掛かろうとして、一斉に腕を振り上げた。その時――――!


「ちょっと待ったぁぁあああっ!」


 叫び声が聞こえて、美羽が空の方へ視線を移すと、背中から翼を生やした女性が急降下してきて、ホムンクルスの1体を蹴り飛ばした。


「えっ? 田中さん……?」


 あまりにも意外な展開に、ついていけずに唖然としている美羽を他所(よそ)に、華麗に着地した田中さんは、周囲を取り囲んでいるホムンクルスたちを次々と殴り飛ばしていく。その途中で、田中さんは、こちらをチラッと見てから、すぐに前方のホムンクルスを殴り飛ばすと、ため息を吐きながら、こんなことを言った。


「まったく、もう……目が覚めたら、外から緊急警報みたいな放送が聞こえてくるし、夜束市の裏コミュニティサイトで確認したら、吸血鬼(ヴァンパイア)が駅前で暴れているって書いてあるじゃない。しかも……」


 周囲を取り囲もうとしてくるホムンクルスたちを次々と殴り飛ばしながら、田中さんは言葉を続ける。


「小学生の退魔師が吸血鬼ヴァンパイアと戦っているけど戦況は不利。このままだと、魔族や人外(私たち)の居場所が、吸血鬼に壊されるかもしれない。これを知って、夜束市の魔族や人外たちはどう思う? なんて書いてあるのよ。そんな風に(あお)られたら、色々と気になって、駆けつけるしかないじゃない」

「ネットに……?」


 美羽が吸血鬼(ヴァンパイア)と戦っているのを知っている人物で思い当たるのは、シャルちゃんくらい。もしかしたら、シャルちゃんが、戦力増強のために、ネットの掲示板に書き込んだのかもしれない。

 そんなことを考えていると、美羽の周りから、夜束駅前でホムンクルスの集団と戦っている黒い服装の人たちのざわいついた声が聞こえてきた。


「な、何だアイツらは!?」

「新手の敵か!?」

「いや、ちょっと待て! 何か様子がおかしい!」


 美羽が、気になって振り返ってみると、天啓学園高等部の女子の制服である紺色のブレザーを着た猫耳のお姉さんや金属バットを持ったゴブリンさん、ターボ婆ちゃんや他にも複数の魔族や人外たちが、ホムンクルスの集団と黒い服装の人たちが戦っている場所へと駆け付けてきて、ホムンクルスや吸血鬼(ヴァンパイア)が操っている魔族や人外たちと戦い始めた。


「えっ? なにこれ・・・・・・?」


 次から次へと起こる予想外の展開に、美羽は頭がついていかずに呆然としてしまう。それは、黒い服装の人たちも同じようで、ホムンクルスたちに銃を向けたまま戸惑っている。


「な、何で魔族が俺達の加勢に……?」

「一体どうなってやがる!?」

「知るか! とにかく、俺達は与えられた任務をこなすだけだ!」

「あ、ああ……! そうだな……!」


 だが、黒い服装の人たちは、すぐに気持ちを切り替えたのか、ゴブリンさんが金属バットでホムンクルスを何度も殴っている横から銃を連射して、ホムンクルスに銃弾を撃ち込んだり、夜束駅前を時速100キロメートルくらいのスピードで走り回っているターボ婆ちゃんの姿に困惑して、動きが止まっているホムンクルスにショットガンを撃ったりして、対応し始めている。


「……」


 混沌とした状況について行けずに、未だに立ち尽くしている美羽とは大違いだ。さすがは大人というべきか。他の黒い服装の人たちも、駆けつけてきた魔族や人外が戦っている隙を上手くついて、ホムンクルスたちに攻撃を加えて立ち回っている。

 そんな中――――。


「か、掛かってこぉい! シャーッ!」


 両手の爪で、ホムンクルスを威嚇している猫耳のお姉さんと目が合った。

 ホムンクルスが、こちらに目を向けているお姉さんに襲いかかる。


「あっ! わっ! ひゃっ! ……っと!」


 猫耳のお姉さんは、ホムンクルスの攻撃を危なっかしい感じで()けると、相手の顔を両手の爪で何度も引っ掻く。そして、ホムンクルスが顔を押さえて、(もだ)え苦しみ始めたところで、走って美羽のもとへとやって来た。


「やっほー! 私たちも、美羽ちゃんと一緒に戦うよ! にゃはは」


 軽い言動とは裏腹に、猫耳のお姉さんの体は少し震えている。


「なん、で……?」


 このお姉さんとは初対面で、いきなり名前を呼ばれたのは変な感じがするが、美羽は退魔師なので、夜束市の魔族や人外たちが自分のことを知っていても不思議じゃない。それよりも、猫耳のお姉さんや田中さんも含めて駆けつけてくれた魔族や人外たちは、夜束市で生活しているだけの住人にすぎない。田中さんが言ったように、ネットの掲示板に書かれていたとしても、退魔師からすれば、ただの一般人である魔族や人外たちが、怖い思いをしながら無理に戦う必要なんてどこにもない。それなのに……何で?

 疑問を口にした美羽に、猫耳のお姉さんはニコッと微笑みながら答えてくれた。


「私たちのような魔族だって、自分たちの居場所が無くなったら困るからね。だから、居場所を守るために来たんだよ」

「……居場所を守るため……?」

「そう! 私たち魔族も人間と同じように、この街で生活しているからね。学校で友達と何気ない会話をしたり、買い物に出かけて思いっきりはしゃいでみたりさ」


 お姉さんが喋っている途中で、ホムンクルスが襲い掛かってきたので、美羽はホムンクルスのお腹に肘を突き刺してから、掌底(しょうてい)で吹き飛ばした。その隣で、お姉さんは「そりゃぁ……」と言葉を続ける。


「魔族の中には、習性のせいで、人に迷惑をかける魔族もいるけど。それでも、自分たちの居場所が無くなって良いなんて誰も思ってない。それに、小学生の美羽ちゃんが頑張ってるって掲示板に書いてあるんだもん。他の魔族たちも、自分たちの居場所を守らなきゃって触発されて、集まって来たんだよ! きっと!」

「そう、なんですか……?」


 まだ、いまひとつピンとこない美羽の横を猛スピードで通り過ぎながら、ターボ婆ちゃんが返事をした。


「当たり前じゃ! 人間の子供がみんなの居場所を守ろうとして必死に戦っておるのに、こんな時くらいは、ワシらのような存在が街のために動いてやっても、誰も文句は言わんじゃろ!」


 ターボ婆ちゃんが、美羽の横を走り過ぎながら、複数のホムンクルスを跳ね飛ばす音を響かせていると、猫耳のお姉さんが立っている場所の向こう側で、ホムンクルスを金属バットで殴っていたゴブリンさんが、こちらを向いて話しかけてきた。


「あんまり力にはなれないかもしれないけど。俺も頑張るよ!」


 再びホムンクルスを金属バットで殴り始めたゴブリンさんの近くでは、トロール同士の取っ組み合いが繰り広げられており、その周辺では、黒い服装の人たちが銃でホムンクルスを攻撃している。他にも、頭から犬の耳を生やしたコボルトのお姉さんがナイフを振り回して、ホムンクルスや吸血鬼(ヴァンパイア)が操っている魔族をけん制したり、ピクシーと呼ばれる妖精の集団が、ホムンクルスの周りを飛び回って翻弄したりして、夜束駅前で行われている戦いは、人間と魔族とホムンクルスが入り乱れて非常に混沌としている。

 けど、駆け付けてくれたみんなも、自分たちの居場所を守るために必死だ。それは、退魔師である美羽と同じか、もしくは、街の平和を守りたいという美羽の漠然とした想い以上に、目的が明確なぶん、駆け付けてくれたみんなの方が必死なのかもしれない。

 美羽がそんなことを考えていると、田中さんのムッとしたようなような声が聞こえてきた。


「ちょっと美羽ちゃんとそこの猫耳女(ねこみみおんな)! アンタたちもボケッとしてないで、ちゃんと戦いなさい!」

「あ、はい! すみま……せん?」


 注意されてハッとした美羽が声のしてきた方へ目を向けると、田中さんは現在進行形で複数のホムンクルスたちを殴り飛ばしている。その姿を見て、田中さんが1人いれば、戦力的に充分なんじゃないかとさえ思えてきた美羽は、「ははっ……」と苦笑した。そんな美羽のすぐ(そば)では、猫耳のお姉さんが、左側から襲い掛かってきたホムンクルスの攻撃をかわしつつ、相手の顔を手の爪で思いっきり引き裂きながら、


「猫耳女じゃなくて、私の名前は如月(きさらぎ)千尋(ちひろ)だぁ!」


 目を三角にしてムキーッ! と怒りの声をあげた。その途中で、美羽の右側から1体のホムンクルスが襲い掛かってきたので、美羽は体を回転させつつ、ホムンクルスのお腹に肘を打ち込んで突き飛ばす。

 夜束市の魔族や人外たちが駆け付けるという予想外の事が起きて呆然としてしまったが、美羽の本来の目的は吸血鬼(ヴァンパイア)の足止め。本当なら、退魔師である美羽が吸血鬼を倒して街の平和を守らないといけないのだが、力が足りないせいで、それが出来ない。だからこそ、マキナ先輩が来てくれるまで、自分が戦って時間を稼がないといけないのだ。

 胸に手を当てて深呼吸することで、気を引き締め直した美羽の周りでは、田中さんと如月さんが。さらにその周りでは、御影さんを含めた黒い服装の人たちやゴブリンさんたちが、ホムンクルスや吸血鬼(ヴァンパイア)が操っている魔族たちと戦っている。

 美羽も正面に見える複数のホムンクルスたちに向かって走り出す。ホムンクルスたちの向こう側では、吸血鬼(ヴァンパイア)が変身した黒い狼の怪人が、こちらを睨んだまま(たた)んでいる。


「みんなの居場所を守るためにも、わたしが中心になって頑張らないと!」

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