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デモン×ジャスティス  作者: ヒコ
第1章 悪魔のヒーローと小さな退魔師
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第11話 吸血鬼×開戦

 窓に板が張られて、日の光がほとんど差し込まない薄暗い部屋の中で、ブラドは怒声を発した。


「クソッ! 何故誰も私の意見に賛同しない!」


  自分は、この夜束市を人間たちの手から奪い取って、魔族と人外が支配する楽園に作り変えたいのだ。そして、幼女をペットや愛玩奴隷として可愛がり、年を取ったら食料として喰う。まさに一石二鳥。最高のサイクルだ。それなのに、何故誰もこの理想を理解しようとしない。何故誰も自分の言葉に耳を貸そうとしない。

 せっかく、スマホを人間から奪い取って、この街にいる魔族や人外のことを調べて接触したのに、自分の意見に賛同してくれたモノは1人もいない。死体の人形が増えるばかり。その数は10を超える。


「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!」


 何度も同じ言葉を叫びながら、机や椅子といった自分の周りにある家具を投げ飛ばす。それでも、ブラドの怒りは収まらない。

 自分が魔力を与えて動かす人形など、コレクションとして価値のある幼女だけで充分だ。何の価値もない死体が増えても意味がない。まあ、せっかくなので、無価値な死体も、夜束市で破壊活動をする時の捨て駒として使ってやるつもりだが。

 どうせなら、ちゃんと意思のある魔族や人外を使って、自分が王として君臨したい。それなのに、この話をすると誰もが自分に敵意を向けるか、侮蔑の言葉を投げてくる。

 何故だ! 何故誰も自分を認めようとしない。何故自分の思い通りにならない。何故っ! 何故っ! 何故っ!


「ああぁぁあああぁぁあああぁぁっ!」


 ブラドは奇声をあげながら、自分の体を掻き毟る。体中の至るところから血が滲んでいるが、それでも掻き毟るのをやめない。

 部屋の扉が開いて、白衣を着た金髪の少年が顔を覗かせた。


「あははっ! 凄い壊れっぷりだね」


 楽しそうに笑いながら部屋に入ってくる少年の後ろには、黒いスーツを着た大柄な男の姿が。少年とは対照的に、男は嫌なモノでも見るようにブラドを睨んでくる。


「こんな狂人に薬を分け与えるなんて、博士は何を考えて……」

「せっかく、新商品の試作品が出来たんだよ。どうせなら、試したいじゃない。だから、薬をあげたんだよ」


 男の言葉を遮るように口を開いた少年に、ブラドは見覚えがあった。


「あなたはっ! …………あなたのせいでっ!」


 ブラドは少年に爪を突き立てようと襲い掛かったが、少年が指を鳴らした瞬間床が爆発した。床に大穴が開いて、無数の木材の破片が、ブラドに被弾する。


「うぉっ!?」


 思わず顔の前で腕を組んで後ろへ下がった。


「あははっ! いきなり襲い掛かってくるなんて。恩知らずもここまでくると清々しいね」


 愉快そうに笑う少年をブラドは睨んだ。


「何が恩知らずですか! あなたの薬が大したことなかったせいで、私は悪魔のヒーローに殺されかけたんですよ!」


 そのせいで、コレクションになるハズだった狐の少女を失った。悪魔のヒーローの攻撃から自分が助かるには、狐の少女を盾にしなければならかったのだ。コレクションを潰した悪魔のヒーローも憎いが、少年がくれた薬の無能さにも腹が立つ。

 少年の後ろで控えている男が、ブラドに対して怒りの言葉をぶつけてきた。


「博士を侮辱するなよ! 魔界から逃げてきた亡命者が!」

「はぁっ!? それの何が悪いんですか?」


 魔界には何人もの魔王がいて、その定義も様々だ。国を治めているモノや大勢の魔族を従えているモノ。単に力が強いだけで従者をほとんど持たないモノ。ようは、誰でも魔王になろうと思えばなれるのだ。

 そのせいで、魔界のほとんどは無法地帯で、強者が弱者を食い物にするなんて当たり前。国や魔王同士の争いも頻繁に起きていて、生活はかなり殺伐としている。

 一応は、魔王が政治を行っていて、秩序を保っている国もあるが、そんなのはごく僅か。しかも、そういったところでは、腐った貴族が幅を利かしていて、民衆はロクな生活を送っていない。

 ブラドも人間界にきた当初は支配など考えていなかった。単純に魔界よりも安定した餌場を求めて人間界にやってきたのだ。

 それから、餌は魔族だろうが人間だろうが子供。特に女の子供が美味いことに気付いた。見た目が美しければコレクションにもなる。最高の代物だ。



 だが、数年前に夜束市で暗躍してた時に、前任の退魔師に見つかって、ブラドは街から逃げた。商店街の路地裏で人間の少女を襲っていたら、退魔師を名乗る男が現れてブラドを退治しようとしたのだ。男は強かった。だから、夜束市を離れたのだが、最近になって夜束市の退魔師が行方不明になったのを風の噂で知った。

 退魔師がいないのなら、餌を好き勝手に食い散らかしても大丈夫だと思い、ついでに街を自分が支配してやろうと考えて、夜束市に戻ってきたのだ。

 その時に、目の前にいる2人組と出会い、自分と同じようなことを考えていた人狼(ワーウルフ)と一緒に、キャバクラの席で少年から魔力と身体能力を強化する薬を貰ったのだ。

 悪魔のヒーローについては噂で知っていたが、所詮は人間界で生活している脆弱な存在。一応は同士に誘って断ったら殺せばいい。そう思っていたのだが。結果は、自分が死にかけた。

 少年がくれた薬は確かに魔力や身体能力が上がった。だが、悪魔のヒーローに勝てるほどの効果は無かった。これは、自分が弱いのではなく、少年の薬が大したことなかったからだ。だから、ブラドは少年に怒っている。


「貴様っ……!」


 少年の後ろにいる大柄な男が、ブラドの言動に青筋を浮かべて身を乗り出そうとした。しかし、少年が片手を上げて男を制する。


「まあまあ、人狼も噂の悪魔にやられちゃったみたいだし、吸血鬼(ヴァンパイア)のおにーさんが言う通り、僕の薬が役に立たなかったのは認めるよ」


 自分の非を認めつつも、飄々(ひょうひょう)としている少年の態度に、ブラドはますます腹が立って大声を出す。


「だったら、責任を取れ!」


 大人しく自分に殺されろ。ブラドはそう思ったが、少年は「うーん」と考える素振りを見せてから、白衣の懐に手を忍ばせて、黒色の液体が入った試験管を取り出した。


「まだ研究の途中なんだけど。これをキミにあげるよ」


 少年が投げた試験管をブラドはキャッチする。

 試験管の中に入っている黒色の液体は、毒なんじゃないかと思えるほどに禍々しい。


「これは?」

「その中には、僕が開発した薬と黒狼の吸血鬼(クドラク)の遺伝情報が入っている」

「クドラクの?」

「そう。遥か昔のスラブ諸国に存在した偉大な吸血鬼(きゅうけつき)の情報が詰まってるそれを飲めば、もしかしたら、キミの力は、何倍にも何十倍にもなるかもしれない。まあ、完成してないから何とも言えないけどね。どうする?」


 ニヤリと笑う少年を完全には信用出来ないが、そもそも、ブラドは少年が何を考えて自分に接触しているのかも知らないし、知るつもりもない。それよりも、少年の言ってることが本当なら、悪魔のヒーローが自分の邪魔をしてきても、倒せるかもしれないのだ。だったら、


「良いでしょう。あなたがくれたこの薬を使ってあげますよ」


 ブラドは、試験管のてっぺんに付いてる蓋を親指で弾くと、中の液体を一気に飲み干した。途端に体が焼けるように熱くなり、体の中で何かが混ざり合う感覚に襲われる。


「うあぁぁあああっ!」


 このあまりにも何とも言えない感覚に耐え切れず、ブラドは叫び声をあげながら床の上を転がり回る。

 熱い! 苦しい! 気持ち悪い! 自分の体が、何か別の生物に組み変えられていく!

 電流が走ったような感覚に襲われ、体が盛大な痛みを発して痺れる。


「おおぉぉぉおおおっ!」


 そして、また体が焼けるように熱くなり、体の中で何かが混ざり合う感覚に襲われる。

 何度も何度も同じ感覚を繰り返し、ブラドの精神が事切れそうになった瞬間――――! 体の中で何かが弾けた。


「————ッ!?」


 その不思議な感覚に、ブラドは戸惑いながらも自分の手を握り締めた。思わず口の端を吊り上げながら、勢いよく起き上がる。


「フハハハッ! 良い! 実に良い! 最高の気分だ!」


 体中から力が漲ってくる。悪魔のヒーローが相手でも簡単に勝てそうだ。


「へぇ。まさか、こんな簡単に適合しちゃうなんてね。キミを選んで正解だったよ」


 感心するように言った少年の耳元で、大柄な男が何かを囁いて、少年も小声で返す。


「あの薬を渡して本当に良かったんですか?」

「ああ。ボクとしてはデータが取れれば何でも良いからね」


 2人がが何を話しているのか分からないが、そんなことはどうでも良い。それよりも、この力があれば人間たちを皆殺しにして、夜束市を手中に収めるのも難しくないかもしれない。そうなれば、この街に住む魔族や人外たちも自らの愚かさに気付いてブラドを王として(あが)めるだろう。

 ブラドは額を押さえながら、口の端を吊り上げて高らかに笑う。


「アーッハッハッハッ! 早速街に出て、私の力を見せつけてやりましょうか」


 今なら、太陽の光を浴びても問題ないだろう。この力を使って、人間どもを血祭りに上げてやる。

 






 マキナと美羽は、閉鎖された教会の前に来ていた。2人とも稽古後にマキナの部屋で制服に着替えてから、すぐにアパートを出て、夜束駅から歩いて30分くらい。田んぼや畑が多く見られる住宅地の中にある教会へとやって来たのだ。

外から見た感じだと教会の敷地は広く、木の(つる)が絡まった高い塀に囲まれていて、マキナたちの目の前に立っている大きな門が行く手を阻んでいる。


「だいたい3メートルってところか」


 門は鉄格子(てつごうし)のような作りになっているので、無理やり広げて中に入れないこともないが、それだとマキナ自身が新しい怪談話を作ってしまいそうなので、ここは大人しく飛び越えた方が得策だろう。

 なんて、マキナが考えていると、美羽がジャンプして門のてっぺんで華麗に着地する。

 その姿を何となく目で追っていたマキナは、門のてっぺんで器用に立っている美羽を見て固まってしまう。スカートの中を下から覗き込む形で、パンツが思いっきり見えてしまっているのだ。

 相手が小学生とはいえ、これは何だかマズイ気がする。

 マキナがそっと顔を背けようとしたところで、美羽が振り向きつつ下を向いて、声をかけてきた。


「先輩。教会に入るんですよね?」

「あ、ああ、そうなんだけど……」


目のやり場に困っているマキナの様子に美羽も「あっ!」と気が付いたらしく、慌ててスカートのお尻の部分を両手で押さえて苦笑する。


「え、ええっと……すみません。すぐに下ります」


 頬を朱色に染めつつ、両手でスカートを押さえたまま門から飛び降りた。察しが良くて助かる。

 美羽が教会の敷地内に入ったのを確認してから、マキナは上を向いて地面をグッと踏み込んだ。そのまま一気に門を飛び越えて、教会の敷地内の地面に着地する。門を超えたところは、短い並木道のようになっていて、その先の、芝生が敷き詰められた広場の中にある大きな礼拝堂が存在感を示している。

 他に目ぼしい建物も見当たらないので、ブラドがいるとしたら、礼拝堂で間違いない。さっさと先に進みたいところだが、その前に。

 気まずい思いをさせてしまったかもしれないので、マキナは美羽に向かって謝罪の言葉を述べる。


「ごめん。変な気を遣わせちゃったね」

「い、いえ……わたしの方こそ、先輩に気を遣わせて、すみませんでした……」


 美羽が顔を真っ赤にして俯いたので、これ以上は何を言っても気まずくなるだけかもしれない。そう考えてマキナは先を急ぐことにした。


「と、とりあえず、先に進もうか」

「は、はい。そうですね」


 お互いに、「ははっ……」と照れ笑いを浮かべてから、2人で並木道を歩いて、広場に出たのと同じくらいのタイミングで、礼拝堂の扉が開いて、中からブラドが出てきた。広場に足を踏み入れたブラドに続いて、白衣を着た少年と大柄な男。そして、ミイラ男やオークといった10体以上の魔族や人外が礼拝堂から外へ出てくる。

 時刻は午後3時を過ぎたばかり。吸血鬼(ヴァンパイア)にとって、天敵とも言える太陽の光が地上を明るく照らしている。普通なら、体に水ぶくれが出来たり、太陽の光に皮膚が焼かれたりして苦しむはずだが、ブラドからは、そんな様子が全く感じられない。


「先輩……」


 本来なら、あり得ない光景に美羽が困惑している。マキナも何が起こっているのか分からずに、呆然と立ち尽くしてしまう。そんな2人に、ブラドが両手を大きく開いて声をかけてきた。


「おや! これはこれは、悪魔のヒーローと美しいお嬢さんじゃないですか」

「ブラド……吸血鬼のお前が何で、太陽の光を浴びて平然としてるんだ?」


 聞きたいことは幾つかあるが、マキナは、とりあえず一番気になることを質問してみた。これには、ブラドではなく、白衣を着た少年が答える。


「ボクがあげた薬の効果だよ。まさか、体質が変わるなんて思いもしなかったけどね。ははっ」


 少年は飄々としているが、その様子からは、どことなく狂気が見え隠れしているように感じる。

 マキナは付け入る隙を与えないように、警戒しながら少年を睨んだ。


「お前は?」

「ボクはパラケルスス。ちょっとした目的のために、吸血鬼(ヴァンパイア)のおにーさんに協力してる者だよ。例えば、こんな風にね」


 醜悪な笑みを浮かべた少年は、白衣の懐から試験管のようなモノを取り出し、地面に勢いよく投げつけた。試験管が割れて、中の液体が染み込んだところを中心に、地面からボコボコと音を立てながら、白い全身タイツを被った人間のようなモノが無数に沸いて出てくる。

 その異様な光景に、マキナは思わず顔をしかめた。


「何だ? こいつらは……」

「な、なんか、気持ち悪いです……」

「あははっ。気持ち悪いなんて酷いなぁ。こいつらはホムンクルス。ボクが作り出した人工生命さ。スゴいでしょ」


 少年やブラドたちの周りで、およそ200体くらいのホムンクルスが(うごめ)いている。そのせいで、少年やブラドたちの姿がほとんど見えない。

 このまま戦闘になれば、ブラドたちに加えて、大量のホムンクルスとも戦うことになる。少年やホムンクルスがどれくらい強いのか分からないが、現状だけで判断するとかなりキツイ戦いになりそうだ。


「美羽ちゃん。やれそうか?」

「な、なんとか頑張ってみます!」


 構えて戦闘態勢に入った美羽の額には、大量の冷や汗。状況的にマズイと感じたら、美羽だけでも逃がした方が賢明かもしれない。

 そう考えながら、マキナは両手を開いて腰の横で構えた。意識と魔力を集中させて、変身ベルト『デモンドライバー』を作成。ベルトの左側に備え付けてあるデッキケースから、変身用の赤いカードを取り出す。


「変身!」


 デモンドライバーの能力を発動するための詠唱(スペル)を唱えてから、バックルにカードをスライド。


超変身(オーバーチェンジ)ーーーーッ!』


 電子音声が鳴り響き、デモンドライバーから発せられた魔力の光に包まれて肉体が変化した。黒いボディスーツみたいな手足に、胸には生物的な赤い装甲。蝙蝠(こうもり)をシルエットにした感じの、フルフェイスマスクのような頭部。そして、羽の形に合わせた黄色の複眼。

 マキナが悪魔の姿に変身したのと同じくらいのタイミングで、ブラドが叫んだ。


「さあ、この(あいだ)の借りを返すとしましょうか!」


 ホムンクルスや魔族たちが一斉に動き出し、こちらへ迫ってくる。


「いくぞ! 美羽ちゃん!」

「はい!」


 マキナと美羽も敵を迎え撃つために走り出す。閉鎖された教会の広場で、第2ラウンドの戦いの幕が開いた。

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