プロローグ1 目覚め
意識が朦朧としている。
ここは一体どこなのだろう?時折ゴポゴポと響く音と共に泡が自分の視界を遮る。
泡があるということは今は水の中なのだろう。しかし、妙なことに息苦しくない。なぜだ?
頭がうまく回らない。
考えがまとまらない。
思考が定まらない中、状況に変化があった。音が聞こえる…それは徐々に近づき、次第にそれが足音だと気付いた。何とかだるい頭をゆっくりと足音のする方へ向ける。
ここで初めて気づいたがどうやら私はガラスで出来た円柱型の入れ物に入っているようだ。そして中は飴色の液体で浸され、時折下から泡が浮き上がる。
水中である故、視界が少々歪んで見えるが足音の主がガラスの向こう側に写る。人が二人、片方は既にそこにいたのか机に向かって座っている。そしてもう一人が足音の発生源だろう、机の人に歩み寄っていた。白衣を纏っていた二人は幾分か話した後立っていた方が私に視線を向け、驚きの表情を見せた。
立っていた方が座っていた方を連れて少々興奮気味に早足で寄ってきた。二人は私の顔を覗きながら一人が顔をガラスに近づけて言った。
「驚…たな。こん…早…目覚める…て」
声が響いて綺麗に聞き取れなかったが二人の顔が少し確認できた。先程から私を興味深そうに覗いてる方は眼鏡をかけた中年の男だ。茶色い髪はオールバックにしていて歳のせいか所々に白髪が混ざっている。
もう一人は男の一歩後ろで何か四角い物を手に持ちながらそれに向かってブツブツと口を動かしていた。彼女、もしくは彼は中性的な顔立ちで肩をちょっと超える長さの髪を後ろで束ねてあった。
二人はしばらく現状況の私では理解不能な話、細胞がどうとか色々複雑そうな単語が聞こえてきたが、徐々に意識が遠のいていく。瞼が非常に重くなり、頭もどんどん重力に逆らえず下がる。
そんな私の状況に気付いた男がまた喋りかけてきた、今回はハッキリと聞こえる。
「さすがに少々早すぎたか。まぁ君が本当に成功すれば私たちの娘を頼むよ」
よく分からないが、とりあえず分かりましたと心の中で了承しながら私は意識を失った。
――一体どれ程眠っていたのだろうか?
目を開け周りを見回すが、眠りについた時と同じ場所のようだ。
今回は意識がはっきりとしていて体が動かせるのだが――
やばい息ができない!
前回とは違い私は普通に水の中にいるように肺が酸素を求めて咽せる。とりあえず現状 を打破するべく体を動かそうとするが思うようにいかない。焦りを感じつつ危険な意味で意識が飛びそうになった瞬間、周囲にあった液体が勢い良く吸い出され始め、何とか空気を肺に入れる事ができた。
全て液体が吸い出されると私は飲み込んでしまっていた液体を吐き出ししばらく呼吸を整えるのに時間が掛かってしまう。
咳き込みながら何とか立ち上がる。
いや、私は立ち上がった筈なのだ。しかし全然視界が上昇しなかった、さっきまで寝そべっていたなら今はむしろ屈んでいるでいる程度にしか上昇していない。自然に立ち上がったつもりだったが、そこで初めて体の違和感に気付いた。
何だか、四つ足で立っているんだが……。
尻尾も付いてるし、しかも二本……。
その日から私、ノーヴェン・ゴールドバーグは猫の体で生きる事になった。
初連載の開幕。
生まれ変われるなら家猫になりたいな。