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PhantomEden (ファントムエデン)  作者: 神薙シュウ
5/5

ep1-2 読込 (reload)

随分と古めかしく、

少し欠けてしまったサイフォンから、

ふわふわとコーヒーの香りが漂う。


その隣には先ほど洗われたばかりの、

まだ水滴が光っているお洒落なカップ。


壁や床は、この街では植物園の中でしか見ることが出来ない、”本物の木材”で出来ている。


ここはマキナの住む4E階層の下にある

スラム、3E階層の隅のすみにぽつんと立っている喫茶店「Träumerei(トロイメライ)


表向きにはおしゃれで珍しい喫茶店。

ということになっているが、

実際はポラリスのアジト兼情報収集の拠点といった所だ。


「カレンさん、ミルクティーとスペシャルパフェお願いします!」


給仕をしている少年ベルンハルト・ベッカー通称ベルはこの店のマスター、カレン・アスタナーシャに客からの注文を告げると、カレンはこくりと頷いた。


この時間に店に来ているのは2人の常連さんだけだ。男性と女性、一人づつ。


二人はほとんど毎日決まって同じ時間にやって来て、毎日同じ物を頼む。


とはいえ、二人は特に知り合いなどなわけでもなく、それぞれが別の席に座っているし、

話している所は見たことがない。


ちなみに女性の方は…

「ねぇ、あいつはまだ来ないの?女性を待たせるなんてどういうつもりよ」


と、まぁ、店に来る理由は至極簡単。

恋人待ちなのである。


「なんか今日は空きって言ってたんですけど、1時間前にルーチェさんと一緒に急に飛び出して行っちゃったんですよ」


完成した特製パフェを運んできたベルンハルトが答えると、女性は「何よそれ、デートより優先するなんて」とむくれながらパフェにスプーンを刺す。


チリンチリンと店の鐘がなり、入って来たのは長身の男性、コウだった。


「たーだいま。って、オレが一番か?」

「おかえりなさい…、先生」


ミルクティーを淹れながらカレンが返すと、

コウも手を軽くあげ応える。


「まァ、他の2人もそのうち帰って来るだろ」


コウがそう言った途端、再び鐘が鳴り、

今度はルーチェが入って来る。


「あー疲れた。なあカレン!おれ頑張ったからプリン・アラモード作ってくれよ!ルーチェ仕様のやつ!」

「また食べるんですか…?つい昨日食べたばかりなのに…?」

「だって疲れたんだぜ!?おれ超頑張ったんだからデザートくらいいいじゃん!」

「じゃあ貴方もちゃんとお金払って下さい…。あれ本当は高いんですから…」

「えー!なんでだよ!」


などとカレンとルーチェがやいやいと騒いでいると、再三鐘が鳴り、息を荒げたファウストが飛び込んできた。


武器である槍は3つに折りたたんで腰のケースに終われている。


「っはぁ、はぁ…。メアリーいるかよぃ!」

「遅いじゃない!!デートの時間何時で、どれだけ遅刻してきたと思ってるのよ!」

「悪かったって!仕事が急に入って!」


必死に理由を説明するファウストに大股で近づいた女性、メアリーはファウストの左手を掴むと、

「ほら、さっさと行くわよ!時間ムダにしたくないもの」

とそのままファウストを引きずり店から出て行ってしまった。


「…なんつーか、相変わらずだなあの2人」


コウが呟くと周りも苦笑したりコクコクと頷く。


「まぁ、いいんじゃないですか?ほら、パフェは完食してあるし、代金もちゃんとおいてってくれてますし」


ベルの言葉で先ほどまでメアリーが座っていた席を見ると、確かについ先ほど出したばかりのパフェはキレイになくなっており、お代が置いてあった。


「毎回思うけどよ、一体どんなペースで食ってんだよ…。いっつもちょっと目を離したらなくなってるよな…」


呆れて呟いたルーチェは、

それより何があったんですか…?とたずねるカレンの言葉で、そうだった!と思い出したように先ほどまでの事件の詳細を話始めるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…って訳で、喧嘩売ってきた奴らを返り討ちにして帰って来たんだよ」


一通り話し終えたルーチェに、先ほどからのんびりとミルクティーを飲んでいた男性が声をかける。


「よくまぁ~、警察(メビウス)になんて逆らうよなアンタ達。ど~りで警報がなりまくってたワケだ」


なんとも間延びした喋り方をする男である。


「また盗み聞きかよ、趣味悪ぃな」


ルーチェが呟くと、「こんなとこで話してるのが悪いんです~」などと返してくる。


「まァまァ、コイツは信頼できるヤツだし、気にしなさんなって」

「本当かよそれ、だって見るからに…」

「見るからになんだよ~、酷くない!?」


信用できない、といった顔をしているルーチェと傷ついた!とあからさまにワザとらしい顔をする男を見て、コウは「コイツも政府を恨んでる事には変わりないから大丈夫さ」と軽く流す。


「それで、次はどうするんですか…?」

「ですよ!結局図書館じゃ情報見つからなかったんでしょう?」


図書館に行けば何かしら情報を得られると踏んでいたが、収穫はゼロ。

次の一手を進めるための情報が無いのが現状だ。


「ソレなんだよなァ。とりあえず、上も警戒が強まってるだろうし、しばらくは下で情報を集めるしか無いんじゃない?」

「だな。何処ぞの誰ぞも彼女に拉致られてしばらく帰って来ねぇだろうし」

「じゃあオレはちょいと出かけて来る。足の手当てついでに闇医者に話聞いてくらァ」

「おー、いてら。おれもその辺回ってくる」

「私は店番していますね…」

「ボクもカレンさんの手伝いしてます。これからかき入れ時の時間なので」


ひとまずは休息も兼ねて、それぞれに情報を集めるという事でこの場は解散となった。


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