ep0-1 始動 (Farce)
皆さまはじめまして、神薙シュウともうします。
この度は拙い作品 PhantomEden のページを開いていただき、本当にありがとうございます。
この作品は有名なTRPG Paranoia と友人からのアイデアを元に、わたくし神薙シュウの夢と希望と願望とそのほかなんやかんやを詰めてお送りいたします。
さて、ぶっちゃけましてこの作品、暗いです。
どのくらい暗いかと言いますと、お気に入りのキャラクターがつぎの作品でリストラされた時
くらい暗いです。
と、冗談はさて置きまして、
あなたと出会えたのも何かの縁、もしくは運命だったのかもしれません。
どうぞ、ごゆっくりと我が PhantomEden の世界をお楽しみくださいませ。
神薙シュウ
今日も今日とて、平凡な1日が始まる。
いつものように母さんに起こされて、
栄養が完全に調整されているけれど、
美味しくもマズくもない朝食を食べたら、
毎日聞きすぎて何を言われるか覚えてしまったお小言、
「忘れ物してない?用事が終わったら、
寄り道しないですぐに帰って来なさい。絶対にスラムなんか行かないのよ。最近また、ポラリスとか言う犯罪集団と、政府直属の…メビウス、だったかしら?の闘争が激しくなっているんだから、巻き込まれるわよ」
と言う言葉に、適当に返事を返し家を出る。
それがボク、ユミト・アーベライトの日常。
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最小不幸都市「リィズ」
ボクの住んでいる街はそう呼ばれている。
街は最小不幸評議会、通称「ラフィール」
とその直属の治安維持組織、
秘密警察「メビウス」統治していて、
彼らのおかげで人々は文字通り、”幸せ”に暮らしている。
街のほとんどの場所に、悪人を見張る監視装置があり、犯罪や騒ぎは秘密警察によってすぐに対処されるし、社会主義の名の下、100%の税率を収めるかわりに、ボク達は完全な福祉や医療を受けることができ、ほとんど全ての施設を自由に利用できる。
教科書に載っていた「天国」とやらに
一番近い街だ。
しかし、
まだ全てが完全とはいうことが出来ない。
なぜなら、この街のスラムを寝床にしている「ポラリス」という犯罪集団が街を荒らして議会を、いや、この街の仕組みそのものを潰そうとしているからだ。
この街には2種類の人間がいるのだと、ボク達は小さな頃からならう。
一つはマキナ。これはボクを含めた街のほとんどな人たちで、いくつもの国を滅ぼす原因になった野蛮な”感情”を手放す代わりに、街でより暮らしやすくなる様な能力、例えば、情報を好きな場所から得られたり、五感を鋭くするといった力を操れるようになった人間。
もう一つは、プリウムと呼ばれる人達。
彼らはボクたちマキナが捨てた”感情”を持っていて、戦いや争いを好む、マキナの敵。
彼らは荒れたスラムに住み、能力も使えるがマキナほど完成な扱いは出来ない。
「ボラリス」はこの悪人の集まりで、もう随分と前から治安維持組織と衝突を繰り返し、街の不幸を生み出している。
もちろん、プリウムの人たちも政府に申請さえすればマキナになる為のプログラムを受けることができるのだが、ほとんどのプリウムはプログラムを受けようとしないどころか、自分達の行動が正しいと主張し、不完全な能力を使い、反抗をし続けている…
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タブレットで課題のレポートを打っていたユミトは、うーん、と一つ伸びをした。
ここは議会が経営している公共の図書館だ。
書籍は全て電子化され、小さなチップに収められている。そのチップが入ったケースにはホログラムであらすじや概要が映し出されている。
もちろん、この中にはマキナのみが入れるため、中で騒ぐものもおらず、かかっている音楽だけが妙に大きく聞こえる。
「さてと…。この先どうしようかなぁ…」
ある程度レポートの内容をまとめたものの、これではどちらかと言うと感想文だ。
とは言え、チップに収められた内容も、最近ニュースで言われている程度の情報しか入っていないため、これ以上は調べようがない。
「ポラリスの奴らが悪い事は知ってるけど、どんな事してるかの情報が全く無いんだよね…」
あーぁ。とユミトは机に伏せ、ため息を吐く。
「おォ~、政府とポラリスについてのレポートか。よくまァそんなややこしい内容書くもんだ」
「だっ、誰ですか…?」
思わず声を上げたユミトに、「し~っ」と黒い革手袋をした指を口元に当てたやたら背の高い男は、ユミトが慌てて口を押さえるとその手を下ろし囁くように話す。
「まァ、俺が誰かってのはどうでもいいんだが。その内容のレポート、やめといた方がいいんじゃないの?多分、今書いてる以上の情報なんて見つからないぞ」
なんせ、ニュースで流れてる以上の事は一般市民には、極秘にされてる内容だからなァ…。
そう言いながら肘をつく大男に向かって、ユミトはタブレットを打ち込む姿勢になり、尋ねる。
「あの、市民が知っちゃいけないって、どういう意味ですか?」
「いや、どうって…、そのまんまだよ。知ったら不幸になる内容だったら、政府がわざわざその情報を流したりしないでしょう?まァつまりはだ、ポラリスの奴らはそういった不幸になる情報に関わってるワケよ。だから、その内容はやめとけ。どう関わってもロクな目に合わないぞ」
そうやって言いたい事だけいった大男は、じゃあな、と席を立ち軽く手を振ると、図書館から出て行ってしまった。
「…なんだったの?あの人…」
嵐のように表れ、去っていった男を見送り、ふと机を見ると先程までは無かった、この街では滅多にお目にかかれない
”紙の本”が置いてあった。
図書館の本は全て電子化されているのだから、ここの本ではないだろう。
ということは先程の男の物という事だ。
「ちょっ、えっ、どうしよう…」
今すぐ追いかければ追いつくかもしれない。
そう思いユミトが立ち上がった拍子に本がパタリと床に落ち、開いた。
慌てて拾い、ちらりと中を見ると、どうやら絵本らしいその本には、緑色の地面のある外で少年と少女が目から水、昔の言葉で涙と呼ばれるらしいものを流している。
そんな絵だった。
「…なにこれ?ファンタジーの絵本?」
あの明らかにおじさんと言える様な男性が、絵本…?
そこまで考えて、
もしかしてそれほど大切にしている物なのかもしれない。という事に気づき、急いで図書館から出て追いかけようとした矢先に、
一斉に放送がかかった。
”居住地区 7E-47にて犯罪組織の
構成員と警察の交戦が発生。
善良な市民の皆さんは至急、室内に避難し
警報解除まで野外に出ないでください。
繰り返します…”
7E-47、そこはこの図書館から数ブロック、徒歩で5分もかからない地区。
そして…
「…ボクの家の地区だ…!」
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周りの大人の制止すら振り切り、
急いで7E-47ね地区へとユミトは走る。
地区の人々は既に室内にへと逃げ込んだのか、いつもとは違いひと気のない地区を走ると、騒がしい音が近づいてくる。
ユミトは今までの生活の中で見つけてきた裏道を抜け、自分の家を目指す。
家まであと少し、路地を出たすぐそこというところで、突然後ろから何者かに肩を掴まれた。
「…おいおい、少年。
こんなトコ来ちゃダメでしょう。
アンタ、さっきの放送聞いて無かったワケ?」
聞き覚えのある声に振り向くと、やはり、先ほどいきなり話しかけてきた男がユミトの肩を掴んでいた。
「この地区にはボクの家があるんです。
放してください…!」
そう言いながら肩に置かれた手を振り払おうとするが、思っていた以上に力を込めているのかビクともしない。
「いやいや、放さないよ。
アンタの家族は中にいるんだろ?だったら今のアンタよりは少なくとも安全なんだから、アンタもほら、警報解除されるまで大人しくしてなさいよ」
口調は先ほどと変わらないが、わざわざしゃがんで目線を合わせる男の紺色の目が真剣な色をしている事に気付いたユミトは、仕方なく振り払うのを辞め、それを確認すると男も手を肩から放した。
「あの…、そういうあなたは何でここに
いるんですか?あなたが言った通り、
ここは交戦中の地区ですよ?」
自分は家族が心配で来たが、この男はこの地区に住んでいないはずだ。もしそうなら今までに一度のくらい会っているはずだ。
その質問に少しだけ悩んだ男は
「まァ、確かに。俺の方が場違いな場所にいるわな。ってワケで…、帰る」
とキッパリと言うとクルリとユミトに背を向け歩き出す。
その長い上着の裾を咄嗟にユミトが掴んだために、一瞬前のめりになった男は背を向けたまま立ち止まり、どうかしたか?と訪ねる。
ユミトは少しだけ躊躇ったのち、口を開く。
「怪我…してますよね。あなた」
「…あらまァ。俺が怪我してるように見える?」
驚いたような、そうでも無いような口調で男は問う。
「えと…、いいえ。怪我してるようには
見えないんですけど、
さっき会った時はしなかった血の匂いが
あなたからするんです」
ボクの能力は嗅覚で、他のひとよりも匂いを嗅ぎ別けるのが得意なんですよ。
そう答えると、あァ、なるほど。ど~りで。
と男は頭を掻いた。
「警報が解除されたらうちに来てください。
すぐ側ですから。大した手当は出来ないですけど、いけない物もありますし」
そう言って本を差し出そうとしたタイミングで、警戒解除の放送が鳴り響いた。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
ですか、まだまだ物語は始まったばかりです。
何故少年の地区で交戦が起こったのか!?
謎の男の正体は!?
なぜ男は絵本を持っていたのか!?
今日の晩御飯どうしよう!?
などと謎だらけな本編ですが、この世界観を理解していただく事が出来たでしょうか?
少しでも楽しんでいただき、次回もお会いできれば光栄です。
それでは次作が上がるまで、しばしの間お別れいたしましょう。
つぎに出会える事を願って。
神薙シュウ