第七話 ある事件の、真相には必ずドラゴンがいる
ある事件の、真相には必ずドラゴンがいる
今のところ、俺が立てた仮説は一つ。
こないだの暴動は、誰かの策略的陰謀の一種だと俺は思う。
あの男は、ナミナ曰く、英雄の匂いがするんだそうだ。
そんな男があんなわかりきった暴動を起こすわけがない。
なら、それを促したのは一体誰なのか。
まず一点、そいつは女子より強い。
これはわかりきったことだ。そうでなければ、あの男が信用するわけでもない。
二点目、そいつは男子、つまりあの男に信用されるだけの価値のあるやつ。
この二点から出される答えは、主に修羅神仏。
魔王や姫の座を狙う奴ら、そして最強と謳われるドラゴン。
この三種類に絞られるだろう。
「なあ、ナミナ」
「なんじゃ?」
「お前より強いドラゴンはどれくらいいる?」
ナミナは少し考え、
「うむ、いないな」
と、真顔で言ってきた。
「……そうか」
コイツの答えに信ぴょう性は皆無だが、今は信じるしかない。
それなら、相手がドラゴンだった場合こちらが優勢ということになる。
「じゃあ、逆に聞く。お前の勝てない敵はなんだ?」
「お前じゃ」
うわぁお。
俺はドラゴンから直々に最強のお墨付きをもらっちまったよ。
じゃない。
「そうじゃない。お前が勝てないものは何だ? あるだろう? 魔王とか、神様とか」
「うむ、我はそういうのは倒してしまったからの。我こそ最強じゃ」
……なんという、最強発言。心配したこっちがバカみたいだ。
そうか。こいつは本気で最強のドラゴンなんだな。
いつも移動手段みたいなことしか頼んでなかったけど、そうか、こいつは強いのか。
まあ、いい。そんなことは今は関係ない。
と、そこで強制的に思考を止められた。
目の前にカレンがいたからだ。
「どした?」
「ちょっと、愚痴を聞いてくれますか?」
唐突に、カレンがそう伝えてくる。
「で? 何の愚痴なんだ?」
俺はあれ以上考えても何も出ないと踏んで姫様の愚痴とやらを聞いてみることにした。
ちなみに、ナミナは席を外してもらっている。
「その……実は、さっき暴動の主犯である男から話を聞きました。それで、私の国は私が思っていたよりも悪いのだと感じたんです」
そうか。あの男は話す方を選んだか。
「それで? カレンはどう考えてるんだよ」
「私は! こ……このままでもいいと思っていました。男子は不潔だと皆が言っています。男子からはもっと税を取るべきだと……。でも、あの方の言葉を聞いたとき、思ったんです。ああ、男の方も私たちと同じ人間なんだと。そうしたら、思えてきたんです。そんな人たちから税を集り、刈り取ろうとする人達の中に私も含まれてしまっていたんだと」
そこまで話して、カレンは少し間を開ける。
そして、
「私がしてきたことは、間違っていたんでしょうか?」
涙を流し、かすれた声で問いかける。
俺ではなく、彼女が作ってきた街に。
「……」
俺の答えがコイツを悲しませるかもしれない。
だが、何も言わなければこいつは苦しむだけだ。
なら、ならばコイツのために悪者になろうじゃないか。
人は、悪を作って自分を保つことができる。
逆を返せば、人は何かを悪者にしなければ生きていけないのだ。
それが、たとえ俺でも、コイツの重荷を下ろすことができるのなら、悪者になろう。
「知らないな」
俺は冷たく返した。
「え……?」
「俺はお前はこの街のために何をしたのか。この国のために何を犠牲にしたのかを俺は知らない。知ったこっちゃない」
「で、ですが!」
「それに、お前は本当にどう思っているんだよ」
「だ、だから、それは、このままではいけないと――」
「それはお前の意見か? 他者の意見か?」
「……」
カレンは口ごもる。
今のは少し意地悪だったか。
だが、ここでもう一度考えさせるのも悪くはない。
こいつは他者の考えを重んじすぎるところがある。
この国はお前のものなんだ。変えようと思えば変えられるんだ。
それをお前には知ってもらいたい。
「私は……この国を誰もが幸せに暮らせるところにしたいです。誰も苦しまず、誰もが笑顔でいられるようなところにしたいんです」
やっと、答えが見えたようだな。
「そうするには、まず何を変えるべきだ?」
「はい。まずはこの国を変えるべきです。皆の考えを、男子を追放しようとする者たちを変えるべきです。でも、そんなことができるんでしょうか」
俺は手のひらでカレンを撫でる。
「お前はどういう立場だ? お前はみんなより前にいるんじゃないか? 先導者が迷っちゃ、みんな路上で迷いっぱなしだぞ?」
「……」
「間違えたと思ったら正せばいい。変えたいと思ったらどれくらいの時間をかけても変えるべきだ。お前にはその力がある。先導者は、民を、みんなを引っ張っていく力がある。確かに、お前の考えについていくやつは少ないかもしれない。でも、いつかはみんなついてきてくれる。その時まで、お前は迷わず前に進めばいいんだよ」
それだけ、言い残し俺は窓を見る。
そこには、空を飛ぶドラゴンがいた。
羽がなく、足もない。黒い蛇のようなドラゴンが静かに俺たちを見つめていた。
あれか。あいつが今回の事件を引き起こしたドラゴン。
俺は窓まで近づき、勢いよく開く。
「省吾様! 何を!」
「お前が理想の国づくりを実現するために苦労するなら、勇者はそんな姫を苦しめようとする敵を倒すだけだ。それに、俺も見てみたくなった。みんなが手を取り合って、笑っているような国を。だから、作れよ。お前が思い描いた国を。そこに俺も連れていけ。そのための障害は……俺が全て打ち砕いてやるからよ」
そう言って、俺は窓から飛び降りる。
下にはドラゴン化したナミナがいた。
「行くぞ。初めての戦闘に。俺を怒らせると何をするかわからないところを見せつけてやる」
次回、ドラゴンと……戦えるのか?