第五話 ある集団が、俺たちの街にやってきた
ある集団が、俺たちの街にやってきた
生まれて今日まで、ここまでの寝苦しさを感じたのは初めてだ。
大きなベット、そこに寝るのは普通一人だ。
だが今回、俺の横には二人の人物がいる。
俺をこの世界に呼び出し、勇者とした人物、姫様だ。
可愛い寝息を立てながら気持ちの良さそうに寝ていた。
もう一人は、俺のパートナーであり、姫様の敵でもあった凶悪なドラゴン(?)だ。
今は人型になっているので中学生の女の子にしか見えないが、一度ドラゴンとなると流石ドラゴンとしか言えなくなる。
そして、その二人に挟まれている俺、霧凪省吾はついこないだまで家でカップラーメンを作っていた極一般人である。
「さて、俺なりに解説してみたのだが……今何時だ?」
低血圧の俺がここまでさっぱりとした起き方をしたということは随分と遅いのだろうが、現在の時刻が気になる。
「今は午前十一時ございます」
そう答えるのは、昨日の夜、俺に専属メイドとして任を任されたナルカである。
「そうか。で? お前はいつからそこにいた?」
「最初からです。昨日の夜からここに立っておりました」
平然と答えるナルカ。
そうか。昨日からずっとそこに立っていたか。
「よし、まず寝ろ。お前は生活リズムを作るところから始めようか」
俺は痛くなりつつある頭を抱えながらそう言うと、
「はい。分かりました」
ナルカは俺の寝ているベットに寝転がり、静かに寝息を立て始めた。
「……俺はどうやら選択を間違えたらしいな。はぁぁぁぁ」
俺らしくもない深い溜息だ。
ダメだ。ここに来てから俺らしさが保てない。
まあ、そうじゃないと面白くないんだけどな。
「さて……ここから出る方法を考えるか」
俺は自慢の頭の回転を活かし、脱出方法を考え始める。
それが俺の初めての夜明けの行動だった。
「さあ、聞こうか。なんでお前たちは俺のベットで寝ていたんだ?」
結局叩き起すに駆けた俺は、それを実行に移した。
「わわわ、私はその……勇者様のお疲れをお取りになろうと思いまして……」
姫は耳まで真っ赤になり、小さくつぶやく。
「姫様、それは女子がしていいことじゃない」
「その、姫様と呼ぶのはやめてください。申し遅れました、私はカレン・ナイザー。この国の姫をやっております」
「本当に遅いな。俺の名前は知ってるな? カレン」
「はい。……や、やっぱり殿方に名前を呼ばれるのは恥ずかしいですね……」
そう言って頬を赤らめカレンは深くうつむく。
その顔に俺は不覚にも動揺を見せてしまった。
可愛い。一目見ただけでそう思った。
だが、それは俺にとってはどうでもいいことで、
「ふぅ」
すぐにその動揺も消えていった。
「ダ・カーポ。お前にも名前があるのか?」
「クッ、ダ・カーポではない! ……ないわけではないが、その、笑うなよ?」
なんだ。この反応、流行ってるのか?
「わ、我の名前はナミナ・ダ・ハーカ。アジ・ダ・ハーカの子孫だ」
恥ずかしそうに身をよじりながら言うその姿に俺は久々に、
「く、くくく……あはははは!」
笑ってしまった。
「なっ、笑うなと言っただろう! 笑うな! 笑うなよぉ!」
涙目で必死に訴えるナミナ。
俺は息を整え、ゆっくりと言う。
「すまんすまん。だがしかし……くくく」
「くぅぅぅぅ~!! なんで笑うのだ!」
「可愛いと思ったんだよ、お前」
「へ?」
ナミナは拍子抜けな声を上げて俺を見る。
「ななな、何を言うんだお前は!!」
顔を真っ赤にしたナミナ。
俺はナミナの頭に手を置き撫でる。
「いいんじゃないか? ドラゴンも人間もこんな感じで」
この言葉はナミナに向けての言葉ではない。
俺の前にいる姫、カレンに向けた言葉だ。
どうも、カレンはナミナと仲が悪い。それも毛嫌いしているフシがある。
俺はそれが嫌だった。
人と人が喧嘩するのには興味ない。どうぞしてくださいだ。
だが、せっかくこんな生物がいるのに仲良くしないでどうするのだ。
「私は、ドラゴンが嫌いです。許せないんです」
「ふうん、だから?」
俺はそれを切り捨てる。
許せない。結構なこった。だがな、そんなのは関係ないんだよ。
「私の親をドラゴンが殺したのです!」
「だからなんだ。それがこいつなのか?」
「……それは、わかりません。ですが――」
「カレンの親を殺したのはドラゴンだろう。だけどな、こいつじゃないんだったら仲良くしてほしいんだ。これから仲間になるんだから。お前を守る力になるんだから」
俺の言葉がカレンを口ごもらせる。
かわいそうなことをしていることはわかっている。
ドラゴンを恨む気持ちも十分にわかる。だが、このままではいけない。
なんだか、そんな気がするのだ。
「……私は――」
「すまなかった。私の同族がお前にひどいことをしたのは認めよう。それを知った上で謝ろう。すまなかった」
ナミナが謝った。
格好はとても上からだがそれでも精一杯の気持ちで謝ったのだ。
「……そんな、あなたがこの街を、親を殺したわけでもないのに」
カレンは涙を流しながら、言う。
「私はこの国は好きだよ。こんなに綺麗な国は見たことがない。森は唄い、川は喜び、人は活き活きとしている。素晴らしい国だ。私はこんな国が好きなんだ」
ナミナの嘘のない言葉、素直な言葉が優しく包む。
「……はい。私の、自慢の国なんです」
躊躇いながらも、カレンは笑顔で言った。
俺は小さくため息を着く。
これで、一件落着か。
そう思った矢先、
「姫様! 街に、街に盗賊がきました!」
不穏な空気はとうとう姿を現すのだった。