第四話 ある場所で、俺は結論を聞く
ある場所で、俺は結論を聞く
今現在、俺はお城の一部屋で食事をしていた。
俺は軽快にナイフとフォークを動かし目の前のステーキを食べる。
「どうした、ダ・カーポ? 食べないのか?」
「うるさい。我は、私はダ・カーポではないダ・ハーカだ! ……笑うなよ? 私はこういうのが苦手なんだ」
まあ、ドラゴンがナイフとフォークを使うところなんて見たこともないし、見たくないな。
「手で食えばどうだ? ドラゴンなんだし」
俺が提案するとダ・カーポは、
「お前がそれを使っているのに私が手だと恥ずかしいではないか!」
と、顔を赤くして叫ぶ。
いやいや、こういう場所で叫ぶのも結構マナー違反で恥ずかしいんだぞ?
俺の密かなツッコミは届くはずもなく食事は進む。
俺は横目で姫様を見ると何やら意を決したような顔だった。
……そろそろか。
俺たちは食事をしにここに来たわでけではない。
話し合いだ。
ここからは情報が行き交う、情報戦。どこまでの情報が手に入るか。手に入れるかの勝負だ。
「姫、聞きたいことが三つある。いや、増える可能性もあるが主なのは三つだ。いいか?」
「ええ、なんでも答えます」
俺の中で質問が選択されていく。
「まず一つ目、俺はこの世界に歓迎されていない。つまり、俺はミスで呼ばれたんじゃないか?」
冷静な表情で俺は問う。
すると、姫はうつむき申し訳なさそうに顔を歪める。
「ええ、ですがミスではありません。私の力不足だったんです」
力不足、なるほど。
「俺を呼ぶために儀式か何かしていたようだが、あれはなんだ?」
「あれはあなた様が言う通り儀式です。他世界から勇者様をお呼びするための」
まあ、ここが俺がいた日本じゃないことは見てすぐにわかることだな。
だが、気になる。その儀式、本当にミスだったのか?
「なあ、取り敢えず聞く。その儀式は何を呼ぶものだ?」
「え? 勇者様ですが――」
「違う。もっと細かくだ。最強の剣士とか、魔術師だとか」
「えっと。よくはわかりませんが、私は願いました。この国を救ってくれる勇者様をお招きしたいと」
そうか。
俺は微笑む。
「なら、それはあながち間違っていないかもしれないぞ?」
「え? ですが――」
「そんな事より、二つ目だ。この世界には男子は存在するのか?」
俺の二つ目の問が飛ぶ。
戸惑いながらも姫は答える。
「いいえ。男性は存在します」
「男子は弱い存在。そうだな?」
これまでの過程で仮定してきたものをぶつける。
「……ええ。男性は我々女性からすると、力はなく貧困です」
やっぱりか。これでこの城に女子しかいない理由がわかった。
なるほど、この世界はそういう設定なんだな。
面白い。実に面白いぞ、これは。
「さっきも言ったが、お前の召喚の儀式は間違っちゃいない。なぜなら、俺の世界では女子が弱く、男子が強い世界だったからだ。その世界から強い者を呼び出そうとしたんだ。必然的に男子が呼び出されるだろうな」
俺はナイフで切ったステーキを口に運びながら言う。
「ですが、あなた様は――」
「ああ、それな。あなた様って呼び方はやめてくれ、俺は霧凪省吾だ」
「省吾様は言ってはなんですが力はありません! これでは、我々の目的は――」
姫の返しに俺はナイフとフォークを皿に置き、静かに言う。
「確かに、俺には力はない。だけどな、俺のパートナーは力がある」
俺は隣にいた、ダ・カーポの頭に手を置く。
「こいつは確かにアホだが「何!?」それに見合うだけの力を持っている。それに、俺はその為にここに呼ばれたかもしれない」
「と言いますと?」
「俺はコイツのパートナーになるために、ここに来たかもしれないんだ。理由なんて知らん。ただ、そう思うんだ。俺とこいつは出会うべくして出会った。そして、契約した。ただそれだけだ」
再びナイフとフォークを手に取りステーキを食べ始める。
姫は少し表を突かれたような顔をするが、俺には関係ない。
これが俺の本心。それを伝えられたのだからもうそれでいい。
「そう、ですか。もしかしたら、私は勘違いをしていたのかもしれません」
「何をだ?」
「私が未熟なせいで、この国にも、あなた様……省吾様にも迷惑をかけたと思っていたのです」
なんだ。そんなことか。
俺はともかく、国は大損害を受けただろうな。何せ、勇者が男子なんだから。
「ですが、省吾様の考えは私たちの考えの斜め上を行きます。ドラゴンと契約なされる勇者など聞いたこともありませんでした」
「ああ、俺も初めて聞いたよ。普通、ドラゴンはラスボスだからな」
俺はつまらなさそうに答える。
実際、面白くはない。この話に俺が付き合う理由などないのだから。
「では、最後の質問を聞かせてください」
姫が気を取り直して聞く。
「ああ、最後はちっとばかし、大事になりそうだけどな。……俺はここから帰れない。そうだな?」
俺は呆気なく言ったが、聞いた側は動きが止まる。
そして、同時に焦り始める。
「その反応は当たりだな。まあ、分かっていたことだ。気にするな」
「……その、わ、わ、わ」
「わ?」
「私でよければ体中どこでも襲ってください!!」
……は?
俺は考え込む。
今の話のどこにそんな方に行く話題があった?
それとも何か? こいつはダ・カーポみたいに馬鹿なのか? 天然なのか?
答えも、自慢の仮定作成もできない。
今の姫様の返事は俺では到底理解しきれないものだった。
「……よくわからないが、なんでだ?」
「その、えっと、か、帰れないんです。省吾様は今からずっとこの世界で暮らさなくてはならないんです。で、ですから、その、わ、私とこ、婚約をして、一生を過ごすのもいいかとお、思いまして……」
わからん。
コイツの考えていることが全くわからない。
俺の知りうる女子たちが口にする言葉のどれとも一致しない。
それもそのはず、ここは異世界、そこの姫様だ。
俺の理解が云々よりも、生活感が違いすぎる。
「ダメだ! こいつは我のものじゃぞ!!」
俺と姫を間にダ・カーポが割り込んでくる。
いつから、俺はお前のものになったんだよ。
「……っ! 何を言いますか! 勇者様は姫とけけけ、結婚すると決まっていましゅ!」
盛大に噛んだな。めちゃくちゃ大事なシーンでこの姫様噛みましたよ?
姫は例外なく、真っ赤っかになる。
俺が頭を抱える中、女子たちの戦いは始まっていく。
男子の理解を超越した女子二人が、男子争奪戦の幕を開け用とする中。
闇はだんだんと俺たちに近づいてくるのだった。