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やる気のない召喚勇者  作者: 七詩のなめ
最終章 勇者、最後の仕事
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第二十四話 ある勇者の、最悪なお別れ

ある勇者の、最悪なお別れ


「今回の事件、食べ物が無くなることだが……犯人は俺なんだ」

俺はマイクを片手にそう言った。

もちろん、俺ではない。だが、こう言うことに意味はあった。


昨日の夜

「お前は人に恨みを、持っているのか?」

俺は何気なく、ドラゴンに質問をした。

ドラゴンはすぐさま口を開く。

『当たり前だろう。我は神だぞ。人々に崇められ、称えられるべきものなのだ。だが、崇拝する者はいなくなった。我を誰として見ることはなくなったのだ。怒りを起こさないわけがあるまい』

俺を奥歯を強く噛み締める。

最悪な仮定が、まさに当たってしまったからだ。

俺が考えた仮定。それは、『人間の生活のせいで自然界を壊され、体に変化を起こさなくては生きていけなくなった生物たちの中に変化を起こせなかった者たちの恨みがあるのではないだろうか』だ。

目の前のドラゴンは俺が考えていた仮定とは少しズレるが、内容は同じだ。

要は、人間のせいで恨みを持った生物がいれば俺が考えた先の仮定に突き当たるということだ。

俺が考えたもう一つの仮定。

恨みを持った者たちの反撃、及び暴動。

これが起きてはカレンが考えている、実現しようとしている世界は一生できない。

少なくともカレンが生きている間には。

そんなこと、俺には関係ない。だが、カレンが作り出そうとしている世界は俺が望んだ世界でもあるんだ。

それをぶち壊されるのだけはやめてもらいたい。

「もう一つ聞く。お前は恨んでいるから街の食べ物を奪っているんだな?」

『もちろんだ』

なんかもう、小学生かって言いたよ。

だが、この問題は解決できる。

つまりは、人間に崇拝されればこの怒りは収まるんだから。

「わかった。街のみんなに言ってお前を崇拝でもなんでもさせる。だから、この場は去ってくれないか?」

『ならぬ』

「なんでだ?」

『人は嘘をつく。信用が無い者たちをなぜ、信用できる?』

そういうことかよ。

俺は考える。何かいい手はないか。この場を確実に、安全に突破できる策はないか。

「何か、何かかけるってのはどうだ?」

『何かとはなんだ?』

「なんでもいい。お前の好きなものでいい」

だから――。

そう言おうとすると、ドラゴンがそれを遮るように、

「生贄だ」

そう言ったのだ。

生贄。言葉の通り、生贄なのだろう。

『この国の姫だ。それが用意できなければ――』

「待ってくれ」

俺は言葉を遮る。

ダメだ。カレンを要求に入れるな。

何か、何か他に手放せるもの……。

……あ。

あるじゃないか。ここに。

俺は自身の心臓を鷲掴みにする。

「俺じゃ、俺じゃダメか?」

『ん?』

「勇者の俺じゃダメか? 勇者を殺したドラゴンになれるぞ?」

そう、要求に差し出したのは俺自身の命。

悪魔との契約ではないが、命を要求に出せる。

それに、

「それに俺を殺せば余計な戦争は起こさなくても済む。そう根回しはする。明日からお前はこの街のシンボルであり、勇者を殺した英雄にだってなれる。だから、俺でいいだろう?」

もちろん、この一瞬ではそんなことは考えていなかった。

だが、今はこの場を切り抜けるのが最適だったのだ。

だから、俺は俺を差し出して、この場を切り抜ける。

『……後悔はないのか?』

「ハッ! 後悔なんて、生まれてこの方しっぱなしだよ』

二ヤッと、力のない笑みを浮かべる。

ドラゴンは俺の思いを受け取ったかのように振り返り、

『では、明日。お前はこの世界からいなくなる』

それだけ言い残して消えていった。


そして、今に至る。

「今回の事件、食べ物が無くなることだが……犯人は俺なんだ」

これが俺が考えた策。

この街の恨みを一身に受け、その身をドラゴンに切らせるという素晴らしく最悪な策だ。

こうすることによって、ドラゴンは街の事件の元凶を消し去った英雄となる。

そして、俺は最悪の烙印を押された勇者となる。

だが、これでいい。これで、俺の役目は終わりだ。

世界に適応できなかった歯車は壊れるしかないんだよ。

俺が罪の告白をした瞬間、空に大きな蛇が現れる。

ナーガだ。

もうお迎えかよ。

俺はマイクを捨て、カレンに向き直る。

「カレン。唐突で悪い。俺はお前が嫌いだ」

「え?」

「可愛くて、儚げで、それでも明日に希望を持っているお前が、俺は大嫌いだ」

俺はきっと間違っているんだろう。

だけど、これでいいんだ。

消える奴を胸に思っていても辛いだけだ。

だから、だからこそ、俺はこいつに嫌われる必要があるんだ。

カレンの目には涙が溜まっていた。

それは今にも流れそうで、だが、それを必死に我慢していて。

ごめん。ゴメンな。

だけど、これでサヨナラだ。

振り返り、俺はドラゴンの元に行く。

「省吾!」

「省吾!!」

運悪く、ナミナとヴリトラが来てしまった。

だが、俺は振り返らない。

今喋れば、きっと俺は迷う。

生きていたいと思ってしまう。

だから、喋らない。

「よう、ドラゴン。いや、ナーガと呼ぶべきか?」

『ふん、死ぬ奴に名など呼ばれたくわないわ』

俺とドラゴンは一瞬見つめ合う。

そして、

『本当にいいのだな?』

「ああ。それに、生贄を所望したのはお前だぜ?」

いつものように笑う。

ドラゴンは少し考えてから、シュンっと甲高い音を上げて、鍵爪で俺を切り裂いた。

一瞬の浮遊感。

次の瞬間、背中に地面が来ていた。

思いもよらない激痛が俺の体を蝕む。

「グッ」

だが、一回では死ななかった。

俺がもう一回攻撃しろと言おうとすると、

『やり直したことを済ませてこい。どうせ、お前は死ぬ』

それだけ言い残して、ドラゴンは俺を殺さずにどこかに飛んでいってしまった。

激痛に叫びを上げていると、頭を持ち上げられていた。

頬に、かすかに暖かい雫が当たった。

「何故じゃ、なんでお前がこんなことにならなくてはならなかったのじゃ!!」

ちくしょう。なんで、お前がここにいるんだよ。

俺に話しかけてくるのは、最初のパートナーのナミナだった。

ナミナは涙で顔をクシャクシャにして、俺の名前を叫ぶ。

俺は諦めたように全身の力を抜き、少しだけ笑った。

ははっ。やり残したことか。

俺はゆっくりとナミナを見てから、

「なあ、ナミナ。最後の話を、しようか」

弱々しく、そう言ったのだ。

フィナーレまで残り一話!!!!!!

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