第十九話 ある告白の、その行方は――?
長らくお待たせしました!
ある告白の、その行方は――?
どうやら、俺は告白……というものをされたらしい。
昨日の花火大会の夜。
星空と花火が照らす神社の下。
俺は、カレンに結婚を申し込まれた。
これは……。
「夢だな」
俺は当然のように言い切る。
だって、そうだろう? 俺は結婚を申し込まれるようなやつではない。
かっこよくもないし、あいつの為になにかしたわけでもない。
それなのに、結婚を申し込まれるわけがない。
つまり、あれは俺の妄想で、夢という結論が現れる。
だが、そうなると疑問が起き上がるのだ。
その疑問とは、俺がカレンを好きなのか、ということだ。
妄想するほど、夢になるほど、俺がカレンを好きになっているのか。
それもありえない。
なぜなら、心に何千回と聞いた結果でもある。
俺はカレンを好きではない。
親しい人であることは自覚してはいるが、好きな相手かというとそうでもない。
なら、昨日の夜のことは現実? それとも、夢?
俺は天井を見つめながら、自問自答を始めてしまう。
俺の悪い癖だ。
こういう時、自分でもアッと驚く方法を思いついてそれに習って解決するのだが、今回に限ってはそうもいかない。
アイデアが浮かばないのだ。
「さて、どうするか。まあ、することは決まっていないんだが」
「何を一人で言っているのじゃ。お前はかわいそうな人なのか?」
「ねぇねぇ、遊ぼぉよー」
まるで自分の部屋にいるようにナミナは腕を組み立っており、ヴリトラに限っては布団に入ってきている。
「あのなぁ。俺が悩んでるようには見えないのか?」
「見えん」
「見えないよぉ」
「はぁ」
俺は短いため息をする。
こいつらはきっと特殊なだけだ。
そうだと信じたい。でないと、俺が変になってしまう。
「それはそうと、お前祭りの時、どこにいたのじゃ?」
ナミナが少しばかり怒ったふうに聞いてくる。
「あ? ……じ、神社だ」
そうだよ、な?
「そうかそうか。それで? そこにはカレンがいたんだな?」
「あ? いたかもしれないし、いなかったかもしれない。あんまり覚えてないんだよ」
「つまり、カレンが有頂天になっていることに関して、お前は関係ないと言いたいんだな?」
ナミナが確信をついてくる。
そういえば、朝からカレンの様子が少しハイになっていたのは認める。
だが、なぜそこで俺が出てくるんだ?
「お前、まさかとは思うが、カレンのテンションになんで自分が関係するのかなどと今更に思っているわけないな?」
「あ? 関係があるのかよ」
「はぁ、これだからお前は……」
なぜか、ドラゴンにため息を着かれた。
なんだろうな、このムカつきは。
「お前は自覚が足りなさすぎるぞ。カレンは誰がどう見てもお前に恋していると思うがな」
「……は?」
カレンが、俺に鯉してる?
鯉?
「ちなみに、魚ではないぞ?」
「あ、ああ。分かってる」
あっぶねぇ。真面目に鯉かと思った。
じゃあ、なんだ?
「お前に恋心を抱いていると言っているんじゃ!」
ナミナが完全にキレかかっている。
なんでそんなに怒ってるんだ?
「つまり、カレンが俺に恋してて、俺に告白してきたっていう夢物語は現実で……ダメだ、まとめると恐ろしすぎることしか思いつかないぞ」
結論。
カレンは俺に告白していた。
そして、俺はそれに応えることはできなかった。
今のカレンの有頂天から見ても、俺から断られることは想定はしていないだろう。
つまりだ、俺が断った結果起こる俺への損害は測りきれない。
これは……。
「まずいんじゃないだろうか?」
「今更気づきおって……我は助けないぞ?」
その言葉を聞いて、俺は鼻で笑う。
「フッ……俺はいつだって一人で解決してきたんだ。今回だって一人でやるさ」
だが、解決論は全く見えない。
つまり、俺に勝機はない。
「むぅ、二人で難しいこと言ってないで、遊ぼぉよー!」
ヴリトラは俺の首容赦なく飛びかかり、ギュッと抱きしめる。
幼女に抱きしめられるのは嬉しい。だが、死ぬくらいならやめてほしいものだ。
「まったく。お前は学ぶというものを――」
「わかってるさ。信頼は確かに必要だ。だけどな、今までひとりでやってきた俺がいきなりそんなことはできないんだよ。少しずつやってくからさ。今回ばかりは俺にやらせてくれよ」
ヴリトラを抱きかかえながら、俺はナミナに言う。
コイツには生きていくために必要な要所を教えてもらった。
だけど、それを使うかは俺に合わせてもらいたい。
俺は人と付き合うのが苦手だ。
信頼なんてものは持っていなかった。
使って、利益を得る。それが俺のやり方だった。
そうじゃダメなのは知っていた。だが、俺には直せなかった。
だから、ナミナには感謝している。
これは本当だ。
俺はナミナを心から感謝している。
だからこそ、俺はコイツのパートナーをやめないだろう。
コイツといると、なんだか楽しそうだ。
これも一種の恋心というものなのだろうか。
……いや、違うな。
これはもっと別の何か、もっと大事なもの。
例えるなら、
「――因縁とでも言うのかな」
「ん? どうしたんじゃ?」
「いやいや、なんでもないよ。さて、朝食でも食うか」
俺は歩き出す。
目的もないまま、ふらりふらりと歩き出す。
昔と違うのは俺の横には仲間がいることくらいだろう。
いや、仲間という『大きな存在』がいることか。
俺は笑う。
そうかそうか。俺は欲しがっていたんだな、昔から。
――――こんな、仲間のいる楽しい生活というやつを。