第二話 ある時、気づけばそこは牢屋だった
ある時、気づけばそこは牢屋だった
俺はある日、カップラーメンを作っていた。
と思ったのだが、まさかの異世界に飛ばされてしまった。
そこではお姫様が勇者を呼び間違えて俺を呼び出し、ドラゴンとの遭遇、カップラーメンでドラゴンを使役した俺はまあ当然の如く牢屋に入れられていた。
「と、簡単に説明してみたんだが、悲しいな、この状況は」
俺の横には人に変身したドラゴンが座っていた。
「ふむ、だから人間は怖いんだ。物珍しい生物を怖がり、隔離していたいというのだから」
ドラゴンは意味ありげなことを言って一人で納得していた。
なるほど、なら俺はその物珍しい生物を使役した特異者ってことか。
それなら納得がつく。
「だが、早々にどうにかしないとな。この状況は些かいいものとは思えん」
俺は顎に手をつき考え始める。
「なんじゃ、貴様には何か考えがあるのか?」
ドラゴンが俺にひっついてくる。
ちなみに、ドラゴンはメスだった。つまり、人の姿になったら女なのだ。
もうひとつ言うと、まだ生まれて十何年しか経っていないらしく、体は中学生並みだった。
何を言いたいのかというと、俺は今変質者顔負けの行動だ。
「すまん。少し離れてくれ、気が落ち着かん」
俺は熱くなった顔を背けそう言う。
「ん? なんじゃ、我に見蕩れたか? 正直なやつじゃな」
言葉は年寄りくせぇのに声は子供ってタチが悪い。
はぁ、落ち着け。状況を判断しろ。
ここは牢屋。頑丈な鉄で囲まれた部屋だ。
「なぁ」
「ん? なんじゃ?」
「お前の力でこの鉄、溶かせないか?」
「それは無理じゃな。これは龍避けの鉄じゃ。我の攻撃なんぞ、食らいもせん」
そうか。なら、俺たちはここから物理的には出られないのか。
ここは牢屋、てことは人が監視しているはず。
俺はすぐさま外を見る。
寝ているやつが一人、起きて本を読んでいる奴が一人。
ここからじゃ鍵は奪えない。
どうしたものか。
この鉄を広げられたらドラゴンが出るスペースを作ることもできそうだが……。
「なあ、硬いものとかないか?」
「ん? なら我のウロコを使うといい。これは固くていい素材だと人が言っていたことがある」
そう言って、ドラゴンは自分のウロコを派がし渡してくる。
「そうか」
俺はドラゴンのウロコをもらい。それを鉄に打ち付ける。
すると、少しばかり鉄が凹んだ。
ん? でもおかしいな。この鉄は龍避けなんじゃないのか?
炎を避ける鉄、物理的には通じる。つまり……
「なぁ、お前ちょっとドラゴンになってこの鉄にぶつかってみてくれよ」
「だから、その鉄は龍避けだと――」
「でも、お前からもらったウロコはこれに跳ね返されなかった。ならいけるだろ、きっと」
「なぜ我はこんなやつを主人に選んだんだ」
ドラゴンは頭を抱えながらも元のドラゴンと化し、勢いよく鉄の柵へぶつかった。
すると、柵は壊れ穴が開く。
「やっぱりな」
「まさか、知っていたのか!」
「違うよ。考えた。そして、仮定したんだ。これはドラゴンの攻撃、つまり炎や何かを防ぐものだってな。だから、物理的な攻撃は通じるって思った」
俺は牢屋を出ながら淡々と言う。
「貴様、天才か?」
「いや、人間だ。ただのな。人を舐めるなよ? 人は神から考えることを許された生物だ。新たな物を作り出すことを許された存在だ」
そう言って牢屋は出たもののどうしたらいいものか。
そこから先は考えてない。まずは姫様に会いに行かないとな。
「おい、憲兵」
俺はさっきの衝撃で起きていた憲兵に声をかける。
「ななな、なんだ!」
「そう固くなるな。姫様の場所を聞きたいだけだ」
「おおお、教えると思うか!?」
「ああ、思うよ。後ろのドラゴンを見たらな」
俺はまだドラゴン化しているのに指を差す。
すると、
「ひひひ、姫様はししし、城だ!」
それだけ聞いて俺は憲兵を恐怖から解き放った。
『貴様、腹黒いな』
「ドラゴン様に言われたかないね」
『そのドラゴンと呼ぶのはよせ、我にはアジ・ダハーカという偉大な名前が――』
「はいはい、ダ・カーポわかったよ」
『だ、ダ・カーポではない!』
「わかったよ、カーポ」
『だから、それ以上訳すなぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!』
現在位置は城内、姫様がいるところにだんだん近づいている。
ダ・カーポは少女の体型に戻り、俺の横を歩いている。
「しかし、なんて人は不便なのだろうか。空も飛べぬとは」
「それは神が与えたミスだな。俺もできれば飛んで移動したいよ」
こんなに馬鹿広いところを歩いて移動なんてやってられるか。
城の中にいた人達は皆、ダ・カーポを見て逃げ出していった。
残ったのは姫だけだ。
「さて、問題はここからどう説明したものか」
姫様の部屋の前と思われるドアを見て俺はつぶやく。
さっきの憲兵もそうだが、ここはなぜか女子しかいない。
男子が一人もいないのだ。
「それも気になるが、まず一点。俺はたぶんミスでここに呼び出された。二つ目、ここはファンタジー世界だ。三つ目、これは仮定だが、もしかしたらこの世界で強いのは女子なんじゃないか?」
俺は今ある情報の中で疑問点だけを抽出し、整理した。
結果、俺はある仮定が出来上がる。
「これはもしや、俺は帰れない状況にあるんじゃないか?」
それを確かめるため、俺は姫のいるドアを開いた。
そこには、何十人もの騎士がいた。
うん。これは計算外だ。
「おい、貴様」
「なんだ、ダ・カーポ」
「これも計算の内か?」
「そう思うか?」
「……貴様、やはり馬鹿だろう」
「ふん。なんとでも言いやがれ」
数秒後、俺とダ・カーポは騎士たちに捕まえられ、壇上に上げられるのだった。
勇者がなんかめっちゃ頭の回転が速いのはどうかと思った瞬間です!