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やる気のない召喚勇者  作者: 七詩のなめ
最終章 勇者、最後の仕事
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第十八話 ある昔話の、出発点

ある昔話の、出発点


ある少年は言った。

「昔話を、してもいいか?」

それに対して、我は頷きながら言う。

「ああ、気が済むまでするがいい」

少年は見たこともないくらいに弱々しく、勇者とは思えないほど純粋な少年に見えた。

「俺には妹がいた。家族というものがあった。生活はそれなりにいいものだったんだ」

少年は語る。

震える声で。

言いたくもないだろう、話を語り始める。


                □■□■□


俺は周りの奴らとは少し違った。頭が、良すぎたんだ。

自慢だが、俺は小五で大学の問題をスラスラと解いてしまうほどの頭を持っていたんだ。

だからだろう、俺は周りから好かれてはいなかったのだ。

靴を隠されたり、大切なものを水浸しにされたことなんて数え切れないくらいあった。

だが、それは全て知能が低い人間の行動だと、俺自身が切り捨てた。同い年の人を自ら遠ざけたのだ。

自分の考えがわからないのは周りが知能が低いから、自分は悪くない。そう言って、俺は自分を正当化した。

まあ、小五の子供の考えそのままだ。

そんなコミュニケーションの取り方をしていたら、自然と周りに人がいなくなっていった。

俺も、それを自然と受け入れていて、大きく拒絶した。

世界すべてがどうでも良くなった。

だが、世界はそんなこと許さなくて、俺の頭脳は大きな企業で使われることになった。

若干十五歳で、俺は大企業の重要人となった。

それからは、俺は色々なものを作った。

半永久的に稼働するエネルギーポンプ。

太陽の延命措置など、俺は人類に貢献する数々の作品を手がけ、名は世界に渡った。

しかし、俺は対照的に世界を嫌いになった。

ああ、結局頭か。

俺は頭でしか必要とされていない。

そういう気持ちだけが日々積み重なる毎日。

俺は世界からの脱出を考え始めていた。

だが、それは真理に反するもの。

どうやったってできないものの一つだった。

世界が俺を変えたのではなく、世界は俺を腐らせた。すり削り、型にはめ込み、強要させた。

俺が思ったことは、消えたいの一言。

こんな世界から。

こんなループから。

こんな考えをする自分から。

結局、俺は逃げていたのだ。

世界から。

ループから。

自分から。

人に世界を変える力はない。

世界に人を変える力はない。

人は人に、世界は世界に変えられる。

いつだって、人は周りを見て行動して、自分もそうしなくちゃいけないと思い込む。

無意識の強要に知らずに変えられる。

それを知ってしまった俺は、すでに人を信じられなくなっていた。

人はなんて弱いものなのだと思ってしまった。

それを変える力は、俺にはない。

俺は、世界の歯車では既になくなっていたから。

世界に強要を諦められたから。

ああ、なんて俺は弱いのだろう。

結局、この答えに行き着いた。

人とは弱い。

愚かで、傲慢で、横暴で、そして、惨めだ。

そんなことを考える俺も、また人間だ。

愚かで、傲慢で、横暴で、そして、惨めな人間だ。

つまり、俺はどこまで行っても弱いし、どこまで行っても愚かなんだ。

だから、俺はこんな人間が嫌いで、こんな自分も嫌いだ。


                  □■□■□


少年の想いは重い。

これほどのことを悩む者が他にいるだろうか?

否、いないだろう。

人間とは何か。世界とは何かを追求したがゆえに出た答え。

それはとても重く、少年には過酷な現実だっただろう。

だが、我には何も言えはしない。

ただ、聞くのみ。

「すまなかった。変なことを言ってたな」

少年は立ち上がる。

何事もなかったかのように。

まるで、いつもそうしているかのように。

我は微笑む。

「じゃが、お前らしい難しい話じゃったよ」

少年が願ったのは聞いて欲しいのただ一つ。

それを我は果たした。

そして、その趣旨を汲み取ったかのように、少年は笑った。

「……ああ、お前には難しかったかもな」

いつもの笑い。

目の前の少年は、既に勇者としての何かを取り戻していた。

これは第十一話の詳細といったところでしょうか。

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