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やる気のない召喚勇者  作者: 七詩のなめ
第二章 二人の勇者の分岐点
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第十六話 ある勇者の、戦略的勝ち方

ある勇者の、戦略的勝ち方


俺は今、街の噴水に来ていた。

なぜかは言わなくてもわかるだろう。

そう、勇者がいるからだ。

卍廼が、いるからだ。

「やあやあ、勇者くん。本当に来るとは思ってなかったよ」

「やあやあ、駄勇者。本当に来てやったよ」

反撃でもするように俺は言い返す。

卍廼は二ヤッと笑い、俺を見据える。

「ふふ、君は面白いね。俺が出会ってきた人たちはもっと恐れてたよ、俺をね」

そうかい。

俺はそういうのは面倒だからしないんだ。

恐れたところで、どうしようもないからな。

「だけど、君は本当に馬鹿だね。自分の強さもわからないなんて。本当に俺に勝てると思うのかい?」

今度は俺が笑う。

「ああ、勝てるね」

そう、勝てる。

俺はこいつに勝てる。

「くくくく。君は本当に面白いね。でも、そういう君を見ていると殺したくて、殺したくて、殺したくて殺したくて殺したくて、堪らないよ!!」

卍廼は内ポケットから剣を取り出した。

「来いよ。殺したいんだろ?」

俺が手招きすると卍廼は笑って言う。

「そんなに死にたいのかい? まあ、いいけど。ドラゴンちゃんは元気? 来ないってことは来ることを伝えてないのかな?」

俺は動揺さえせず、淡々と話す。

「いんや、伝えたよ。お前に勝つってこともな」

「フッ、いいね。じゃあそろそろ……死んでよ」

一瞬、目の前にいたはずの卍廼が消え、気づいた時には腹に剣が突き刺さっていた。

卍廼はニヤニヤと笑いながら、俺に語りかける。

「ほら、君は弱いだろ?」

勝ち誇りながら、雄弁に話すその格好は、俺には勇者には見えなかった。

「フッ、どうしたよ、道化師。その程度か?」

二ヤッと笑った顔を上げ、俺は卍廼を見る。

卍廼の顔はみるみる青白くなっていく。

「ど、どうして!!」

卍廼は剣から手を離し、俺から遠ざかっていく。

「簡単さ。俺がお前より弱いからだ」

剣は俺から透き通るように地面に落ち、その存在を小さくしていく。

「ど、どういう……」

「それこそ、お前が言っただろう? この剣は『お前より強い奴にしか効かない』ってな」

まるで、思い出したかのように卍廼はハッと顔を上げる。

「で、でも! 君は勇者だろ!? なんで、なんでそんなに弱いんだよ!!」

俺は呆れて何も言えなかった。

勇者だから強いなんて誰が決めた?

強くなくちゃ勇者じゃないのか?

違うな。

「お前は根本的に勘違いをしてんだよ。勇者だから強い? そんな方程式はない。弱くたって勇者は勇者だ。それに、お前だってさっき言ったろ? 自分の強さもわからないのかって」

そう、こいつは最初から何も見えてなどいない。

何も分かってなどいない。

勘違い。それがこいつをここまで突き進めた。

なら、終わらせるのも勘違いだろう?

「さあ、どうする? お前はもう勝てないぞ? 自分より弱い奴にお前は勝てはしない」

「な、何を言っているんだ? 君は俺より弱いんだ。弱い奴を倒すのは強い奴の特権だろう?」

だからこそ、こいつは勘違いによって俺に負ける。

卍廼、お前は知らない。

お前を恨んでいる奴がどれだけいるかを。

俺に協力してくれる奴がどれだけいるのかを。

「みんな、仕事だぞ」

俺が言うと周りの家から人、人、人。

人がたくさん出てきたのだ。

「おっしゃ!! みんな行くぞ!!」

この街の住民全員が卍廼を取り押さえるために突撃する。

「な、なんだ、これはぁぁぁぁああああ!!!!」

卍廼は叫びながら怒りの叫びを上げていた。

それを見ていた俺の横に男が立った。

「こんなもんか。どうだ? 役に立ったかな」

「ああ、役に立ったよ、アガレス」

アガレスは笑って腕を組んだ。

取り押さえられた卍廼に俺は静かに近づく。

「どうした、弱い奴を倒すのが強い奴の特権なんだろう?」

上から見下ろしながら卍廼を見る。

卍廼は怒りで顔を歪め、こちらを見ていた。

「結局さ、お前は間違ってんだよ。強い奴が弱い奴を倒す。当たり前かもしれないけど、絶対じゃない。弱い奴が強い奴を倒すことだってできるんだ。お前は、それを知らなかっただけだ」

「ふざ、けないでもらおうか!!」

卍廼は住民ごと立ち上がろうとする。

そして、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

街の住民を吹き飛ばし、卍廼は再び俺の前に立ってみせた。

「強い奴は弱い奴に負け――」

巨大な衝撃音とともに卍廼は俺の視界から消えた。

土煙が立ち上り、視界を奪われる。

土煙が収まると、そこには巨大なドラゴンがいた。

「ドラ、ゴン?」

『貴様、勝手が過ぎるのではないか?』

卍廼はドラゴン化したナミナに踏み潰されており血反吐を吐く。

「ガッ……なん、で」

卍廼は恐怖に顔を染め、ドラゴンを恐れながら見る。

俺は卍廼が落とした剣を手に取り卍廼に向ける。

「俺はさ、お前みたいなやつを見てると殺したくて、殺したくて、殺したくて殺したくて殺したくて、しょうがないんだよ。わかるか? チェックメイトだ」

そう言って俺は剣を振り下ろした。

「あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

悲鳴を上げて卍廼は気絶してしまった。

俺はため息とともに寸止めした剣を元に戻す。

「結局さ、俺もお前も、大差ないんだよ」

この声は聞こえてはいないだろう。

だが、この思いだけは伝えたかった。

人は間違える。

間違えて、後悔して、明日へ進む。そうやって生きていく。

コイツだって間違えたし、俺だってきっと間違える。

人生に間違いは付き物なのだから。

「さてナミナ、帰るか」

『そうじゃな。ヴリトラがお前がいないと叫んでおったぞ』

「そうかい。そりゃあ、大変だな」

俺は笑いかけた。

この世の全てに。

俺を信じてくれた者たちに。

俺が信じたパートナーに。

ああ、きっと。


これが俺の勘違いなのだろう。



主人公は……人間不信ですか!!

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