第十四話 ある勇者の、救済劇
ある勇者の、救済劇
ある一室に重い空気が吹いていた。
我、そしてこの国の姫のカレンは重々しい空気の中、考え込んでいた。
考えているのは省吾の事。
省吾はヴリトラが切られてから丸一日部屋に引きこもってしまった。
勇者がそんな中、城には一通の手紙が届いた。
差出人は、卍廼。もうひとりの勇者。
手紙の内容は一騎打ち。
否、ただの戦争。
勇者が言うには重々しい内容だった。
だが、問題は敵が最強の人間という事だ。
我も迂闊には手が出せん。
現勇者は塞ぎ込んでしまっている。
これだから、人間は弱い。
特に省吾は特別に弱いのだ。
「ふぅ」
我はため息をつく。
結果から言おう。
ヴリトラは自らの術で回復をし、今では体も動かせるようになった。
つまり、生きている。
それはきっと、省吾も気づいている。
あいつはきっと卍廼に勝つ方法を模索しているのだろう。
だが、省吾は気づいてはいない。
自分が、どういう立場なのか。
「さて、我も一仕事をするとするかの」
「どこに、行くんですか?」
姫が我に問う。
「ふん。貴様に知ったことか」
「省吾様のところに行くのでしたら、やめてください」
「何故じゃ?」
「ドラゴン、あなたたちは人を傷つける。今行っても、省吾様を傷つけるだけです」
姫の言葉に、我は笑った。
「何が、おかしいのですか?」
姫が怒りの目で我を見る。
なぜ?
何が?
全てじゃ。全てがおかしいのじゃ。
省吾が傷つく?
そんなことはない。
だって、省吾は……。
「ククク」
「だから! なぜ笑うのです!!」
テーブルを叩き、立ち上がる姫。
表情は怒りで埋め尽くされ、我に向かってそのオーラが飛んでくる。
「お前は本当に省吾が傷つくと思っているのか?」
「はい?」
「もし、そうならば片腹痛い。笑わすのも大概にしたらどうだ?」
「あ、あなたは……」
「やつは傷つきはせんよ。たかがドラゴンの一匹や二匹で。やつはそういう人間だ」
「何が、言いたいのですか?」
「簡単じゃ。やつは今現在進行形で、あの卍廼を倒す方法を模索しているのじゃ。ドラゴンの一匹の不足など、計算内に埋め込んで、それでも探しているのじゃろうな。じゃが、この時間までかかるとは思えん。だとしたら、答えは一つ。やつは計算内にあるものを埋め忘れているのじゃ。それは、人間が誰しも持っているもの。やつには到底理解できないようなもの」
「そ、それは?」
「信じることじゃ」
我が言うと、姫は唖然とした顔になった。
「やつは人を信じようとはしない。それは今までのことで分かっていたことじゃ。やつは人に自分を信じ込ませ、その上で人を使った。本当にやつはうまかったよ。人の使い方が、ドラゴンの使い方が」
これは、我も最近知ったことじゃが省吾は本当にすごいやつじゃ。
気づかないうちに操られ、魅了される。
ドラゴンを魅了する人間など、省吾くらいじゃろう。
じゃからこそ、今は我が動かなければならん。
「じゃから、我は省吾にそのことを伝えに行くだけじゃ。あとは、省吾がどうにかするじゃろう」
それだけ言って、我は部屋を後にした。