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やる気のない召喚勇者  作者: 七詩のなめ
第二章 二人の勇者の分岐点
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第十二話 ある勇者の、破綻的損害

ある勇者の、破綻的損害


今朝、ナミナに今更なことを言われた。

『主人よ、そういえばカップラーメンをまだもらっていないぞ?』

俺もすっかり忘れていた。

平和という陽気に促されそんなどうでもいいことは忘れていたのだ。

だから、俺は今、カップラーメンを作っている。

「何作ってるの?」

と、そこにヴリトラが現れ、カップラーメンを見つめる。

そして、うまそうな匂いに釣られてかヨダレがダラダラと流れていた。

「……お前も食うか?」

「うん!」

その返事はとても嬉しそうで、楽しそうなものだった。

対照的に俺は疲れたようなため息を着くのだった。


「どうだ? うまいか?」

椅子に座ったナミナとヴリトラに向かって俺は話しかける。

「ああ、最高だ!」

幸せそうに食べるナミナ。

まあ、お湯入れて三分なんだけどな。

作った甲斐があるってもんだな。

「あはは! 美味しい!」

お子様にも大好評のカップラーメン。

ああ、そうだよな。カップラーメンは最高だろうな。

そんな二人を見て、俺は少しばかり和んでいた。

これでもドラゴンなんだぜ?

どこから見てもカップラーメンを嬉しそうに食べる子供だよな。

ギャップが激しい。

だが、おかしいレベルじゃない。

ドラゴンだって変化したって事だ。

ゲームにいるドラゴンは敵キャラだが、この世界のドラゴンはどうやらそうでもないらしい。

可愛いもんだな、こうしていると。

「むぅ、なんじゃさっきから我を見て」

「いや、アホそうだなと思ってな」

「それは侮辱か?」

「いや、褒め言葉だな」

「やっぱり馬鹿にしているだろう!?」

俺とヴリトラは笑った。

ナミナは怒りながらも笑っている。

ああ、なんて新鮮なんだ。

こんな生活がずっと続けばいいのにな。

つい、そう思ってしまう。

たとえ、ここが俺の世界じゃないとしてもここだけは幸せだといいな。

そう、思えてしまうのだ。

「楽しそうですね、省吾様」

「おお、カレンか。どうした?」

ニコニコと笑顔を見せながらカレンが現れる。

「いえ、少しばかりお暇ができましたので省吾様ならここだと聞きまして」

ということは、俺に会いに来たと。

「あの……省吾様?」

「あ、なんだ?」

「その、今は暇――」

「じゃない」

「じゃないだろうな」

「「……」」

カレンの言葉に答えたのはナミナとヴリトラだった。

しかも、少しばかり怒ったような口調で。

「わ、私は省吾様に聞いているのです!」

「我はお前に言っている」

「私はあんたに言ってるの」

ああ、何かまた変なことになっているな。

なんでこう女は敵を作りたがるんだ?

「ドラゴンが私に言わないで!」

「人ごときが私に指図しないでくれる?」

「そうだ。我は省吾と食事をしているのだ」

涙目になってしまった姫。

ああ、ったく。なんでこうなるんだ。

二匹の息の合ったドラゴンと、ひとりぼっちの姫。

これじゃあ誰の目からも勝負はついているだろう。

「し、省吾様は誰といたいですか?」

助け舟を出すかのようにカレンが俺を見る。

おいおい。ここで俺に振るなよ。

俺はじっくりと悩むふりをしてから、

「取り敢えず、寝る」

「「「なんで!?」」」

いや、今日俺早起きしたし。

俺は盛大に伸びをして、部屋を出ようとした直後、事件は起きた。

「やあやあ、これはどうもまた会いまして、ねえ? 勇者さん?」

背中にゾクッと冷たいものが通った。

振り返るとそこにはあの時の青年、卍廼が窓に座っていた。

もうひとりの、勇者。

「ああ、また、会ったな」

全身の震えが収まらない。

こいつは強い。

弱い俺にはとってもわかる。こいつは相手にしちゃいけない。

「ふふ、そんなに固くなるなって。ね? ドラゴンさん達」

ナミナたちを見て瞬時にドラゴンだと言い当てる卍廼。

やっぱり、こいつは分かるのか。

「はは、面白いなぁ。勇者なのにドラゴンを使役してるなんて。もの好きもいたもんだ」

最後の一言はとても冷たいものだった。

ナミナたちも不用意には動けない。

「何が目的だ?」

冷静に装う俺は卍廼に訪ねる。

すると、

「わかりきっているだろう? 俺は自分より強い奴を倒したいだけだ。そう、君という存在を」

そう言って人差し指を突き立てた先には俺がいた。

こいつ。俺は弱いということを知らないのか?

「てことで、じゃあね」

そう言って目の前から消えたと思ったら、俺の正面に来ており服から抜き取った長剣を俺の真上に振り上げた。

ああ、これは死んだかもな。

避ける時間を与えられず。俺はただ切られるだけ。

そう思っていた。

だが、剣は俺を切らなかった。

目の前で止められたのだ。

「ヴリトラ……?」

そう、ヴリトラの『犠牲』のおかげで、俺は切られなかった。

「ガッ……」

小学生の口から血が飛び散る。

ヴリトラは俺を守るために俺の代わりに切られたのだ。

俺なんかのために。

切られたのだ。

「クソッ!!」

ナミナが一瞬遅れて卍廼に炎を吹きかけるが卍廼は笑ってそれを避けた。

「はは! ドラゴンと戦うのは初めてだ! でも、タイムオーバーだ。この城の騎士たちがみんなこっちに来ちゃってる。流石に弱い奴らを相手にするのは無理だからね。オサラバさせてもらうよ」

そう言って卍廼は窓から飛び降りていった。

俺は、全身の筋肉が緊張で固まりその場に立ってヴリトラを見下ろすことしかできなかった。

ヴリトラは動かない。

血が流れ出し、赤い水たまりを作っていく。

俺は、それを呆然と見つめることしかできなかった。

ここで物語は飛躍する。

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