第十一話 ある勇者の、召喚された理由
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ある勇者の、召喚された理由
俺は城に着くなり料理長にカレールーを渡してすぐにカレンのところの向かった。
卍廼。俺の聞き間違いでなければあいつは自分を勇者だと言った。
それはつまり、カレンがこの世界に呼んだということだろう。
そこで、俺の中に一つの疑問が浮かんだ。
なら、なんで俺がここに呼ばれたんだ?
勇者が存在しているのなら、俺はここに呼ばれることはないはずだ。
なのに、俺はこうしてここに呼ばれ、勇者と呼ばれている。
それはなんでなんだ?
「カレン。早急に話したいことがある。開けてくれ」
カレンの部屋に着くとドアを叩き、カレンを呼ぶ。
中からカレンがゆっくりとドアを開けた。
「お待ちしてました。私も……お話があります」
その顔はいつもより悲しそうで、なにかに罪悪感を抱いているような顔だった。
俺はカレンの反対側に座り、カレンと俺は真正面で顔を合わせている。
「省吾様の聞きたいことはわかっています。今し方、卍廼様が来られましたから」
やっぱり、知っていたんだな。
「なら聞くが、あいつはなんだ?」
「勇者です」
短く、短的に言うカレン。
「そうなのか? 俺にはあいつが魔王にしか見えないぞ?」
「そう見えるのも悪くありません。なぜなら、彼は既に魔王を倒した存在なのですから」
魔王を倒した?
既に?
「ですが、彼は強すぎたのです。知っての通り、この世界では女子こそが最強と言われています。なので、召喚したとき男子だと知った瞬間、私は世界の滅びを確信しました。しかし、彼は簡単に魔王を倒してしまったのです」
おいおい。そんな奴がいるのか?
「彼には所有する武器があります。それは自分より強いものにのみ有効な剣。彼はそれを匠に使いこなし、世界を救ったのです」
ここまで聞くとますます俺が呼ばれたことが疑問だ。
それなら、そいつにこの国を守ってもらえばいいものを。
だが、話はそこで終わらなかった。
「彼は強すぎたのです。そう、彼は強すぎた。故にその力に我を忘れ、この国を滅亡まで追いやった」
力に、飲まれたのか。
「私たちでは手が出せないくらいに暴走した彼は、ドラゴンによって消滅したはずなんです」
「ドラゴン?」
「ええ、その代償に私の親は死にましたが、どの道死はま逃れませんでした」
カレンの表情に曇が見える。
確かに、コイツの親はドラゴンに殺されたと言っていたが、まさかそう言う意味だとはな。
「なぜかはわかりません。ですが、こないだ彼から手紙が届いたのです。近日、私の国を訪れると。何度もダメだと言ったのですが聞いてくれなくて……」
俺は全身の体重を背凭れに移し、天井を見る。
深いため息を着きながら聞く。
「なあ」
「はい?」
「俺は、あいつの代理でしかないんだな」
「……」
返事は帰っては来なかった。
当然といえば当然だ。
別に傷つくとかそんなんじゃない。
ただ、こういうのが新鮮だ。誰にも必要とされないのはなんて久しぶりだろうか。
俺は、こういうのを望んでいたじゃないか。
なのに、
「なんでこんなに悲しいんだろうな」
「えっ?」
「なんでもない。今日は疲れた。自室で寝る。起こさないでくれ」
それだけ言って俺は部屋を出ようとする。
「省吾様!」
「……」
俺はドアの前に黙って止まり振り返りすらしない。
「い、いえ……おやすみなさい」
「ああ」
ドアを開け、部屋をあとにする。
そうだ。俺は誰にも望まれないことを望んだのだから。これは俺が突き通した結果の事なんだ。
自室に戻りベットに寝転がる。
別に眠いわけではない。
ただ、誰にも会いたくなかったのだ。
理由は、ない。ただ、こうしたかっただけだ。
と、俺が天井を見上げていると部屋のドアが開く。
起き上がって見てみると、そこにはナミナがいた。
「すまん。今はひと――」
「何かあったんだろう? それがここなのか、別のところなのかはわからんが。悩むのはいい。だがな、せめてパートナーである我に一言言ったらどうだ?」
俺の言葉を遮ってナミナが言う。
ナミナの目は本気の色をしている。
「別に。俺はいたって普通だ。何にもなかった」
それだけ言って俺は再びベットに寝転がる。
そうさ、何もない。これが普通だ。
「そろそろ、抱え込むのはやめたらどうだ? 見ていて見苦しいぞ?」
その言葉を聞いて怒りがこみ上げてくる。
お前に何がわかる。
俺が生きてきた世界で、俺がどういう立場だったのか、お前に分かるのか!
「いいから、出て行け」
俺は力む体をどうにか抑え、ナミナに言う。
「いやじゃ」
「お前な……」
「我はお前のパートナーじゃ。悩みがあるのなら共有する、辛いのなら一緒に辛くなる。我は、お前の味方なのじゃぞ?」
ふっと、体の力が抜けていく。
俺の、味方?
初めて聞く言葉だ。
俺は今まで誰かに頼ったことなんてなかった。
頼らなくても生きてこれた。
だけど、ホントは辛かった。
人は何でも出来るわけではない。
苦労して、協力して、なんとかできるようになるのだ。
それを、俺は一人でしてきた。
それなりの苦労もした。だが、協力だけはしてこなかった。
いつだって俺は、人を利用するばかりだった。
コイツだって、最初は利用するつもりで使役したのに。
今ではパートナーとなっている。
気づくと、頬に温かいものが流れていた。
涙? なんで俺は泣いてるんだ?
わからない。この感情は、一体なんだ?
瞬間、体が温かいものに包まれていった。
見ると、ナミナが小さい体で俺を抱いていた。
「涙の意味も、お前の苦労も、我にはわからない。だから、教えてくれ。我は馬鹿だが、お前の重荷を持つことくらいは出来るかもしれん。お前は、一人ではないのだぞ?」
その言葉が心を射抜いて、今まで隠れていた感情が溢れ出す。
ああ、そうか。
俺は今日までこの感情になりたくて……。
「昔話を、してもいいか?」
「ああ、気が済むまでするがいい」
俺はハニカミながら、語りだした。
悲しみも、嬉しさも、この世界に来た時の感情も、今の生活も、全てが輝かしい人生だということを。