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やる気のない召喚勇者  作者: 七詩のなめ
第二章 二人の勇者の分岐点
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第十一話 ある勇者の、召喚された理由

お気に入りしてくださっている方々、本当にありがとうございます!

ある勇者の、召喚された理由


俺は城に着くなり料理長にカレールーを渡してすぐにカレンのところの向かった。

卍廼。俺の聞き間違いでなければあいつは自分を勇者だと言った。

それはつまり、カレンがこの世界に呼んだということだろう。

そこで、俺の中に一つの疑問が浮かんだ。

なら、なんで俺がここに呼ばれたんだ?

勇者が存在しているのなら、俺はここに呼ばれることはないはずだ。

なのに、俺はこうしてここに呼ばれ、勇者と呼ばれている。

それはなんでなんだ?

「カレン。早急に話したいことがある。開けてくれ」

カレンの部屋に着くとドアを叩き、カレンを呼ぶ。

中からカレンがゆっくりとドアを開けた。

「お待ちしてました。私も……お話があります」

その顔はいつもより悲しそうで、なにかに罪悪感を抱いているような顔だった。


俺はカレンの反対側に座り、カレンと俺は真正面で顔を合わせている。

「省吾様の聞きたいことはわかっています。今し方、卍廼様が来られましたから」

やっぱり、知っていたんだな。

「なら聞くが、あいつはなんだ?」

「勇者です」

短く、短的に言うカレン。

「そうなのか? 俺にはあいつが魔王にしか見えないぞ?」

「そう見えるのも悪くありません。なぜなら、彼は既に魔王を倒した存在なのですから」

魔王を倒した?

既に?

「ですが、彼は強すぎたのです。知っての通り、この世界では女子こそが最強と言われています。なので、召喚したとき男子だと知った瞬間、私は世界の滅びを確信しました。しかし、彼は簡単に魔王を倒してしまったのです」

おいおい。そんな奴がいるのか?

「彼には所有する武器があります。それは自分より強いものにのみ有効な剣。彼はそれを匠に使いこなし、世界を救ったのです」

ここまで聞くとますます俺が呼ばれたことが疑問だ。

それなら、そいつにこの国を守ってもらえばいいものを。

だが、話はそこで終わらなかった。

「彼は強すぎたのです。そう、彼は強すぎた。故にその力に我を忘れ、この国を滅亡まで追いやった」

力に、飲まれたのか。

「私たちでは手が出せないくらいに暴走した彼は、ドラゴンによって消滅したはずなんです」

「ドラゴン?」

「ええ、その代償に私の親は死にましたが、どの道死はま逃れませんでした」

カレンの表情に曇が見える。

確かに、コイツの親はドラゴンに殺されたと言っていたが、まさかそう言う意味だとはな。

「なぜかはわかりません。ですが、こないだ彼から手紙が届いたのです。近日、私の国を訪れると。何度もダメだと言ったのですが聞いてくれなくて……」

俺は全身の体重を背凭れに移し、天井を見る。

深いため息を着きながら聞く。

「なあ」

「はい?」

「俺は、あいつの代理でしかないんだな」

「……」

返事は帰っては来なかった。

当然といえば当然だ。

別に傷つくとかそんなんじゃない。

ただ、こういうのが新鮮だ。誰にも必要とされないのはなんて久しぶりだろうか。

俺は、こういうのを望んでいたじゃないか。

なのに、

「なんでこんなに悲しいんだろうな」

「えっ?」

「なんでもない。今日は疲れた。自室で寝る。起こさないでくれ」

それだけ言って俺は部屋を出ようとする。

「省吾様!」

「……」

俺はドアの前に黙って止まり振り返りすらしない。

「い、いえ……おやすみなさい」

「ああ」

ドアを開け、部屋をあとにする。

そうだ。俺は誰にも望まれないことを望んだのだから。これは俺が突き通した結果の事なんだ。


自室に戻りベットに寝転がる。

別に眠いわけではない。

ただ、誰にも会いたくなかったのだ。

理由は、ない。ただ、こうしたかっただけだ。

と、俺が天井を見上げていると部屋のドアが開く。

起き上がって見てみると、そこにはナミナがいた。

「すまん。今はひと――」

「何かあったんだろう? それがここなのか、別のところなのかはわからんが。悩むのはいい。だがな、せめてパートナーである我に一言言ったらどうだ?」

俺の言葉を遮ってナミナが言う。

ナミナの目は本気の色をしている。

「別に。俺はいたって普通だ。何にもなかった」

それだけ言って俺は再びベットに寝転がる。

そうさ、何もない。これが普通だ。

「そろそろ、抱え込むのはやめたらどうだ? 見ていて見苦しいぞ?」

その言葉を聞いて怒りがこみ上げてくる。

お前に何がわかる。

俺が生きてきた世界で、俺がどういう立場だったのか、お前に分かるのか!

「いいから、出て行け」

俺は力む体をどうにか抑え、ナミナに言う。

「いやじゃ」

「お前な……」

「我はお前のパートナーじゃ。悩みがあるのなら共有する、辛いのなら一緒に辛くなる。我は、お前の味方なのじゃぞ?」

ふっと、体の力が抜けていく。

俺の、味方?

初めて聞く言葉だ。

俺は今まで誰かに頼ったことなんてなかった。

頼らなくても生きてこれた。

だけど、ホントは辛かった。

人は何でも出来るわけではない。

苦労して、協力して、なんとかできるようになるのだ。

それを、俺は一人でしてきた。

それなりの苦労もした。だが、協力だけはしてこなかった。

いつだって俺は、人を利用するばかりだった。

コイツだって、最初は利用するつもりで使役したのに。

今ではパートナーとなっている。

気づくと、頬に温かいものが流れていた。

涙? なんで俺は泣いてるんだ?

わからない。この感情は、一体なんだ?

瞬間、体が温かいものに包まれていった。

見ると、ナミナが小さい体で俺を抱いていた。

「涙の意味も、お前の苦労も、我にはわからない。だから、教えてくれ。我は馬鹿だが、お前の重荷を持つことくらいは出来るかもしれん。お前は、一人ではないのだぞ?」

その言葉が心を射抜いて、今まで隠れていた感情が溢れ出す。

ああ、そうか。

俺は今日までこの感情になりたくて……。

「昔話を、してもいいか?」

「ああ、気が済むまでするがいい」

俺はハニカミながら、語りだした。

悲しみも、嬉しさも、この世界に来た時の感情も、今の生活も、全てが輝かしい人生だということを。

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