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やる気のない召喚勇者  作者: 七詩のなめ
第二章 二人の勇者の分岐点
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第十話 ある勇者の、存在意義

ある勇者の、存在意義


俺は料理長に言われたものを買いに街に繰り出していた。

街はいつもの賑わいで、皆笑って話していた。

「おう! 勇者さん! これ安いよ!!」

店の店長が俺の顔を見るや声を掛けてくる。

「ああ、今度買いに来るよ」

俺は適当にあしらいながら先を進む。

その後も何度も声を掛けられたが適当にあしらった。

目的のものはカレールー。

ヴリトラが食べたいと駄々をこねるので仕方なく作ることになったのだが、材料がないため駆り出されたのだ。

勇者の俺がすることか?

「久しぶりだな。勇者さん」

ふと、声をかけられる。

振り返ると、男がニコニコと笑って立っていた。

……誰だっけ?

「……」

「おいおい。もしかして、忘れたのか?」

「……」

「マジか……」

何か重い空気が流れる。

いや、俺のせいではないだろう。

きっと、これはこいつのせいだ。そうに違いない。

「俺だ。覚えてるだろ?」

「オレオレ詐欺は電話でのみ使えるんだぞ?」

「あー! なんで思い出さないんだよ! 城でお前の言ったとおり自分を突き通したっていうのによ!!」

城で、俺が言った?

あー、あの時の男か。

「すまん、忘れてた。悪気はないんだ。ただな、覚えにくいんだよ。名前も教えてもらってなかったし」

「あー、そうだったな。俺はアガレス。こないだは世話になった。お前のおかげでまたやり直せるよ」

「ああ、そうか。だけどな、それは俺のおかげじゃない」

え? と、アガレスが聞き返す。

俺は振り返り、足を数歩進めると横目でアガレスを見ながら、

「それはお前の選んだ道だ。お前が選んで、お前が進んで、お前が振り返るべきものだ。俺はなんにもしちゃいない」

それだけ言い残すと俺はカレールーを買いに歩き出した。

そうさ、俺は何もしちゃいない。全てはあいつが選んで、突き進んだ結果だ。

「お前には勝てないな。おーい! なにか手伝えることがあったら呼んでくれ! なんでもするからよ!」

俺は手でそれに応え、その場を後にした。

そうさせないように望むばかりだよ。

面倒なのは、現実だけで十分だ。

俺は再度街の人達と話しながら道を進むと、料理長に頼まれたカレールーが売っている店を発見した。

「あいよ! どうもご贔屓にね!」

「ああ、そうだな」

カレールーを手短にもらい、店をあとにする俺。

てか、なんでカレールー専門店の店長が中国人みたいなんだ?

疑問に思いながら俺はカレールーを片手に道中を歩いていた。

ああ、なんと素晴らしい世界だろうか。

川は唄い。木々は踊り。人々は生き生きとしている。

俺がいた、ニホンとは大違いだ。

川は死に、木々は殺され、人々はいつだって誰かを蹴落とそうと精進する毎日。

人とはいつだって自分というレンズからでなくては人を見ることができない。

自分こそが世界の中心だと錯覚しているのだ。

だが、この世界ではそんなことはない。

皆が皆を信じ、姫というカレンの存在を重んじ、世界が好循環を起こしている。

魂の根源とでも言うべきか。ここは、居心地がいい。

そんなことを考えていると目の前に若い男が立ちふさがった。

「……なんだ?」

「やあやあ、勇者さん」

男は笑いながら俺を見る。

ナンパか? いや、それはないか。

「何の用だ?」

「冷たいなぁ。もっと温かく行こうよ」

いつまでもそのニヤニヤをやめそうになかった。

だが、そんなことはどうでもいい。

そんなことより、この殺気はなんだ?

笑顔の奥から沸き立つような嫌な予感。

こいつは、まずいかもしれない。

見ればさっきまでたくさんの人たちが外にいたのに、今では人っ子一人いやしない。

「お前は……誰だ?」

俺の問いに待ってましたと言わんばかりにニヤつく。

「陀駕谷 卍廼。お前と同じ勇者さんだよ」

男は囁くように俺の耳元に言う。

俺は生唾を飲む。

なんだ、この違和感は。

蛇に睨まれた蛙のようなこの状況は。

これはまずい。世界最大級にまずいぞ。

俺は流れる汗をそのままに男を見る。

「はは、そんなに固くなるなよ。今日は挨拶程度だよ。今後、俺の邪魔をしなければ対立することもないしね。じゃあね」

そう言って男は去っていった。

俺はその場に倒れそうになるのをなんとか耐える。

なんだったんだ、今のは。

挨拶程度? あれが?

体が震えていた。

なぜかはわからない。

ただ、恐怖していたのだ。逃れられない恐怖が俺を縛っていた。

あんなのが勇者だと?

歯を食いしばった。

そして、

「あれは魔王とかそういう存在だろ?」

と、地面につぶやくのだった。

数分するとナミナが俺の帰りに待てなかったのか迎えに来た。

「省吾、ヴリトラが腹が減ったと暴れだした。さっさと止めてくれ、主であるお前が行けば……どうしたんだ? そんなに真っ青になって」

「いや、なんでもない。帰る、か」

立ち上がり、ナミナの背中に乗る。

卍廼。それがあいつの名前か。

俺はその時、再び面倒なことに巻き込まれそうな予感が芽生えるのを感じた。

「何にもなければなければいいんだけどな」

「何をボサボサと言っておるのだ。さっさと帰るぞ」

「ああ、そうだな」

だが、俺の予感は当たらずも遠からずのものだった。

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