第九話 ある勇者の、平穏的日常
ある勇者の、平穏的日常
朝ご飯、それは一日の栄養価を補給するとても大切なものだ。
勇者(仮)の俺もそんなわけで飯を食っていた。
食っていたんだが……。
「ねぇねぇ、これはなんていうものなの?」
小学生みたいな女の子が俺の膝の上にちょこんと座り、俺の服を引っ張りながら聞いてくる。
俺は既にゲンナリとしていた。
こいつは別に誰かの子供とか、妹とかそんなオチではない。
正真正銘こないだのドラゴン、ヴリトラである。
こいつらドラゴンは人とはかなり違う寿命を持っているらしく、人の姿になるとどうしても子供になるらしい。
ちなみに、ナミナは千十五歳だそうだ。
「あー、それは味噌汁だな。味噌っていう腐ったものを水に溶かして温めたものだ」
「腐ったもの!? こんなに美味しいのに!?」
人の食べ物というのが始めてなそうで、ヴリトラは全てものに興味関心を持っている。
それで、今のブームは和食だ。
味噌汁、刺身、お茶漬け、なんでもござれ。
基本好き嫌いのない性格らしく、全ておいしく食べていた。
ピーマンはどうやら苦くて食べられないみたいだが……。
「うっ……これはぴーまん、というやつか? 苦いのはダメなんだ」
そう言って器用に箸でピーマンだけを避けていく。
おいおい。好き嫌いはダメだろ。
俺は自分の箸でピーマンを挟み。
「ヴリトラ、口開けろ」
「あー……ん!?」
素直に開けた口の中に挟み取ったピーマンを押し込んだ。
「んッ! んんん!! んごっ、な、何をするんだ!」
涙目で訴えるヴリトラに俺はハニカミながら言う。
「ほら、食えただろ?」
言うとヴリトラは口の中に指を入れピーマンがないことを確認し、少し考えてから俺に抱きついてきた。
「おお、食えた! 食えたぞ!!」
「ああ、どうでもいいがその指で俺の体に触れるなよ? 触れちゃダメだからな? 触れたら怒るよ?」
それだけ念を押して言ったのにヴリトラはキャハハと笑って触ってくる。
おいおいおい。ソースが服に付くだろうがこれ新品だぞ?
「ふふふ、どうだ? 私はぴーまんを食べれたぞ?」
そう言ってヴリトラは反対側に座っているナミナに向かって誇らしげに言う。
「そうか。なら、次はゴーヤだな。その次は薬草で、最後は青酸カリだな」
ジト目でナミナはそんなことを言う。
てか、最後のはダメだからな?
なぜか不機嫌なナミナとなぜかご機嫌なヴリトラ。
やはり、ドラゴンの心はわからない。
ドラゴンの気持ちとか本出ないかな。
「ふふ、勇者様も大変ですね」
と、そこに来たのはこの国の姫にして、王。俺をここに呼び寄せた張本人。
カレンだ。
「おい。その呼び方はやめろって言っただろ?」
「すいません。でも、省吾様は勇者様ですから」
そう言ってカレンはにっこり笑顔で勇者様勇者様と連呼してくる。
あれ? もしかして怒ってる?
「なあ、カレン。お前もしかしておこ――」
「勇者様? 何か?」
「いや、だから怒って――」
「ん?」
それだけで返されると最早暴走族だよ。
あー、女の子の気持ちって本も出してくれ、早急に。
俺はこの魔の3すくみに頭を抱え、困り果てていると現れた人物がひとり。
「姫様、やはりここにおられましたか。また、やつからの文です」
やつ?
「こら、ここではそのことは禁止でしょう?」
「す、すみません。つい……」
なんか、裏がありそうだな。
まあ、いい。これだけじゃ考えても時間の無駄だ。
「用事が出来たんだろう? 行ってこいよ」
「で、ですが……」
「勘違いすんなよ? 俺はこの国の未来が見たくてここにいるんだ。お前が変えないって言うなら、ここに居る必要はなくなる」
「はい……けれど、私なんかにできるんでしょうか」
また始まった。
コイツの悪い癖だ。
「ああ、お前なんかにできるんだよ。少なくとも、お前はそういう立場にいる」
俺はカレンの頭を撫でてやる。
そうさ。こいつは姫。
なんでもできるんだ。俺とは違って、なんでも。
「はい! すぐに戻ってきますから、待っててください!」
いや、すぐに帰ってなくてもいいんだけどな。
俺は手を振り、送り出す。
けど、なんだったんだろうな、さっきのは。
急を要するものみたいだが、騎士がいつもとはちがう反応だった。
また何か、変なことでも起こるのか?
「はぁ」
俺はため息を着く。
面倒なのはお断りだ。
俺はいつだって楽をしたい。
邪魔をするなら排除するまでだが、ファンタジーではそうはいかない。
いつだって俺の考えの斜め上を行って、俺を驚かす。
そんな世界がどこか心地いい。
まあ、そんな事より、
「ねえねえ、これはぁ?」
「クッ……省吾は我の主人だぞ!」
この幼稚どもの世話が先か。
ドラゴンの小学生化……わたし的にアリだと思うんですが、いかかが?