第一話 ある日、俺は異世界に召喚されました
さあ、やってきました。
やる気のない主人公が描く風景は!
ある日、俺は異世界に召喚されました
カップラーメン、それは人類が創り出した3分クッキングの権化である。
蓋を開け、熱いお湯をかけ、3分待つ。
完成。ただこれだけなのに、なぜか俺はお湯をかけた時点で見知らぬ場所に来ていた。
カップラーメンは手に持っている。
ただ、家のコンロが消えている。
冷蔵庫も、オーブンも、電子レンジも、というか家が消えている。
「……これは何かの物語の始まりか?」
冷静に、淡々と言う俺、霧凪省吾は昨日やっていたゲームの物語を思い出していた。
確か、このあとは姫様が来て、俺にあなたは勇者ですという場面なはずだが、
「ようこそ、あなたは勇者に選ばれたのですよ」
「……やるじゃないか、リアル!」
俺はカップラーメンを片手にガッツポーズを取る。
リアルよ、お前はよくやった。褒めてしんぜよう!
「あ、あの、勇者様?」
「ん? 待て、今歓喜に浸っているところだ」
俺の頬が緩んでいくのがわかる。
目の前の現状に、目の前の不思議さに俺は歓喜していた。
「えっと、早速ですが戦いに出てもらいたいのですが……」
戦い? いいだろう。今の俺ならなんでもできそうな気がする。
戦った経験など、もちろんないが。
「では、この衣装に着替えてください」
と、手渡されたのは女物の服だった。
……待て、どこからどう見たら女に見えるんだ?
「なあ、これって……」
「え? 戦闘服ですが……?」
俺は男だ。断じて可愛い男の娘ではない。あえて言うなら女でもない。
貰った服をまじまじと見ながら、俺は姫みたいなやつに服を返す。
「すまん。俺は男なんだが」
俺がそう言うと姫様は固まった。
あれ? もしかしてタブーだった?
「そん、な。殿方だなんて……嘘です!」
「いやいや、ほんとだよ。俺は男、下にちゃんと付いてるぞ?」
俺がそう言うと姫様は顔を真っ赤にした。
案外、無垢なんだな。
「な、なら、本当に殿方なんですね?」
「ああ、なんかすまんな」
俺が謝ると姫様はとてつもなく困った顔になり、続いて青い顔になる。
「姫様! ドラゴンが! ドラゴンがこちらに来ます!」
ドラゴン?
ドラゴンってあのドラゴンか?
空を見るとそこには大きなドラゴンがこちらに飛んできていた。
「ああ、あなたも逃げてください!」
姫が悲鳴じみた声を上げている。
ああ、普通逃げるだろうな。あんな大きなトカゲを見たら。
でも、ここは異世界、俺の理論が正しければ世界樹○葉があるはずだ。
死んでも、生き返れる!
俺はこちらに近づくドラゴンに自ら近づく。
手に持っているカップラーメンも、三分経って食べごろだ。
蓋を取り、ポケットから割り箸を取り出し、ラーメンを食べる。
「うん。うまくできている。これぞ三分クッキング」
気づけばドラゴンは俺の前に立っていた。その大きさ実に三十メートル。
そして、俺はドラゴンに一言、
「お前も食うか? これ、結構うまいぞ?」
カップラーメンを手渡した。
しばらくの沈黙が辺りを埋める。
そして、ドラゴンが話す。話す?
『ククク、クハハハハ!! お前、我がどういう存在か知って言っているのか!』
「ん? ああ、ドラゴンだろ? RPGには定番だ」
ドラゴンが話すのに一瞬驚きはしたが、そこまでではなかった。
俺はドラゴンなどお構いなしに再度ラーメンを吸う。
『なぜ、我に臆しない! 人は皆臆す存在だというのに!』
「だーかーらー、俺は臆すとか、恐怖するとか、めんどいことはしない。俺の信条は『働かずして勝つ』これだけだ。結果、俺はお前を使役しようとしているんだが、どうだろうか」
そう言ってカップラーメンを再び渡そうとする。
だが、ドラゴンは頭にきたのか、口から火が漏れている。
『き、貴様! 我は偉大な龍、アジ・ダハーカだ!!』
声に総じて、肩から二つの頭が増える。
黒い炎、圧倒的な威圧感。それだけでも押し倒されそうなこの感覚。
ゲームでは味わえない臨場感。
楽しい。こんなことが今までにあっただろうか。否、あるはずがない。
だが、そんなことすら俺にはどうでもよくて、
「そんなことはどうでもいい。食うのか、食わないのか? 早くしろ、のびる」
ドラゴンは俺の一喝に口をパクパクしていた。
どうやら、ドラゴンは随分と俺に驚いているらしい。
『そ、それはうまいのか?』
「ああ、これは人類が創り出した英知の塊といっていい食べ物だ」
『そ、そうか、なら食べないこともない』
ドラゴンはさっきまでの威勢は消え、体も俺と同じくらいのサイズになった。
そして、ラーメンを勢いよく食べ始めえた。
「どうだ。うまいだろ?」
俺は微笑みながら言うと、ドラゴンは顔を背け一言、
『ふん、悪くない味だ』
「そうかそうか。もういらないんだな?」
『そ、そんなことは言っていない!』
まったく、頭が固いドラゴンは困るぜ。まあ、物理的にも硬いんだけどな。
どうやら、使役は完了したようだな。
「なあ、ドラゴン。お前の名前は確か、アジ・ダハーカだっけ?」
『ふむ、如何にも』
「俺は霧凪省吾だ。俺と契約してくれたらその食べ物を好きなだけ食わせてやるぞ?」
『……そんなことで我を使役しようとしているのか? ふん、戯言を――』
「ちなみにラーメンは種類が無数存在するんだか、それはその一つでしかないんだ」
『よし、いいだろう。我は貴様を主人として認めよう』
よし、これで契約成立っと。
なんだよ。こんなものじゃないと思ったのか? しょうがないだろ、タイトルがやる気ないって書いてあるんだから。
「じゃあ、これからよろしくな」
『ふむ』
ドラゴンと人が初めて手を取り合った瞬間だった。
にしても、勇者とドラゴンが手を組むって、なんかおかしくないか?