Gears0「その日」
生けれども生けれども、道は氷河なり
人の生に四季はなく、ただ、冬の荒野があるのみ
流れ出た血と涙は、拭わずともいずれ凍りつく・・・
「G線上の魔王より」
なんと愚かなのか。
人類は、二度と起こすまいと固く誓っていた世界大戦を三度起こしてしまった。
三度目の大戦は、それまでの大戦と違って簡単に終わった。
たった一つのボタンを押しただけだ。
凄まじい威力故各国がこぞって生産し、だが決して使うまいと世界中で監視してきた兵器のボタンを。
その後の光景は、まさに地獄だった。
生物、建物、あるものは溶けあるものは影となり、あるものは瓦礫の山と化した。
生き残った人々もまた死者の如く焼けただれた。
喉の渇きを訴えながら、大切な人々の名前を呼びながら死んでいった。
運良く地下に逃げ込んだ人々もいたが、その数はあまりに少なかった。
それから、何年の時が経っただろうか。
どうやら、全ての文明が失われても人類はしぶとく生きているらしい。
かつての大戦は「ラグナロク」と言う終末の日の名前を付けられ、ただの記録として整理された。
多くの人間は地上に戻った。今では家や建物が建ち、人が住んでいる。
いくつかの国家が作られ、表では協調し裏では他国を出し抜こうとしている。
そんな事情など何も知らない人々は、偽りの平和を享受している。
一方で、地下に残った人々もいた。
地下への愛着、地上への恐怖や安全性・・・理由は様々だ。
しかし現在では、地下は無法者や荒くれ者、収容所から脱走した者の住処となっており、地上での成功と繁栄によって地下は見向きもされなくなってしまった。
いつからか、地上の人々はそこを「アンダーワールド」と呼び忌み嫌った。同時に地下の人々も地上を「フォルスヘブン」と呼び忌み嫌った。
忌み嫌う姿勢が長く続き、それは差別として根付いた。
地上も完全ではなかった。人が住める所をある程度確保しただけで、自然など所々に萎びた草木があるだけだし河川の水は茶色く濁っているのが大半である。
酷いところでは緑色の水や、紫色の水など、生物が飲めばたちまち死に至るものもある。
何より、未だ多くの場所には生物が住めない。それこそ数時間数十分で死に至る場所さえある。
数少ない食料も、大戦前からのものだから当然不味い。しかも食べれば汚染する。
だから普段は食べずにいるか動物を狩るかグロテスクな虫たちを食べるしか選択肢が無い。
汚染物質を体から除去する薬品はあるが、そういったのは軍や大都市が独占していて一般市民にはとても手に入る代物ではない。水、食料、薬品・・・何もかもが不足していた。
そんな中でも、人類は生きている。村ができ、町ができ、国ができた。
そして、今日。
一人の男児が、この世に生まれた。