認識
どうやら俺には特殊な能力があるようだ。
「死ねばいい」と念じることで、念じられた相手は死ぬ。
死因はよくわからないのだが、元々持ている持病が急速に悪化し、死に至らしめると思われる。
そしてその死にゆく人は、自分自身で何らかのメモを残すようだ。さも俺が書いたかのように。
人を殺せる能力。そしてその行為が誰にもわからない。
なんてすばらしい能力なんだろう。
認識できたのは数日前だ。
新幹線の中で、傍若無人に大声で電話しているサラリーマン風の男。
「わし、やっと退院できたんやわ。ちょっと肝臓切り取ったけど、どうってことないわ。ま、酒は控えんとあかんみたいやけどな」
肝臓癌だったんだろう。嬉しかったんだろう。しかし新幹線の中で大声での電話はいただけない。
「死ねばいいのに」
男が電話をしていたのが、新大阪付近。
静かになったなと思っていたら、名古屋で乗車してきた男が、慌てて車掌を呼んでいる。
自分の予約席で寝入っている男。かと思ったら死んでいたようだ。
念じてみると死ぬんだな。
そうはっきりと認識した。
車掌に促され、車外に運び出す手伝いをしたとき、死んでいる男に触れた。
その時、頭の中に電気が走ったような感覚。そして思った「肝臓が破裂している」と。
これは後で知った事だが、司法解剖した医者も驚いたようだ。猛烈なスピードで癌細胞が増殖し、肝機能がマヒ。そして急性の肝不全を引き起こしたようだ。
破裂ではないな。と自分の頭に浮かんだことに若干の違いがある事にも気が付いた。
俺はこの能力を『神のスキル』と呼ぶことにした。