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破滅  作者: 桂歌桂
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はじまりは

なぜこうも他人に対して配慮の無い人間が多いのだ。


イヤホンからの音漏れでの迷惑。

傘を持って歩くときに、後ろに振る迷惑。

電車やバスの座席で、隣の人との間を人ひとりが微妙に座れない間隔をあけて座る迷惑。

電車の入り口に立ち止り奥に入らない迷惑。

エスカレータや階段の降り口で急に立ち止まる迷惑。

歩行喫煙禁止エリアでの喫煙。

後ろを確認せず、急にUターンする迷惑。

新幹線で後部座席に一切配慮しないリクライニングの全開倒し。

電車内でのパソコンのキーボード操作音。

満員電車で足を組んでいるやつ。

満員電車で他人に当たっていることも気にせず、小説や新聞を読むやつ。


言いだしたらきりがない。


自分自身が他人に迷惑を掛けられていると、露骨に不快感を表すくせに、自分自身がかけている迷惑を一切感じていないやつ。


この十数年、他人に対する不満ばかりが募っていた。


なんとなく「そんな奴は死ねばいいのだ」と思っていた。



2011年6月8日

その日俺はJR東西線線各駅停車松井山手行の電車に乗っていた。

神戸駅から混みだした電車は三ノ宮では満員状態。

座席の一番端に座っていた俺は、膝に当たるスカートのくすぐったさに耐えていた。

これは迷惑じゃない。満員電車で座っている人間に、立っている人間の着衣がこすれる事は仕方のない事だ。

しかし隣の女の座り方はいかがなものか。

俺との間は約20cm。その隣との間も20cm。

詰めればもう一人は座れる。

しかも長い脚を組み、前に立つサラリーマン風の男のズボンにつま先が当たっている。

男は迷惑そうに女を睨んでいる。しかし女は一切気付いていない。


こんな女、死ねばいいんだ。


女が突然脇腹を押えて苦しそうにし始めた。

電車は住吉駅に到着した。女は苦しそうに立ち上がると、混雑する車内をかき分け、外に出た。

時間に追われているわけではない俺は、女についてホームに出た。

すると、女はホームに倒れ込むと、そのまま動かなくなった。

すぐに駅員が駆け寄り、女をベンチに座らせる。しかし意識が全く無いようで、力なくベンチからずり落ちる女。

別の駅員に大声で救急車を呼ぶように指示を出すと、最初に駆け寄った駅員は見よう見まねで心臓マッサージを始めた。

心臓マッサージをしながら駅員は俺を見る。「あなたは?」

「いや、降りたら突然倒れたもんで・・・」と戸惑いを隠せず俺は言った。

そのまま去ろうとする俺を、ちょっと待つように言う。

なぜだ。

救急車を呼んだ別の駅員が駆け寄ってくると、最初の駅員が俺をアゴで指すと、その人逃げないように見ててと言いながら、心臓マッサージを続けている。

逃げるつもりはないが、居心地がいいわけでもない。


すぐに救急車が到着したが、既に心肺停止状態のようで、警察に届けるように言われたようだ。


俺は通勤で大阪の新福島駅に行くだけだった。

少々腰が悪い事から、長時間立っているのがつらいため、時間はかかるが確実に座れる電車に乗るようにしている。

その日は平日だったが、会社の創立記念日と言う事もあり、会社自体は休業日だった。しかし今週中にやっておきたい仕事があったため、いつもの時間にいつもの電車に乗っただけだ。

そこで隣に座った女の異変が気になって、つい目的地でもない駅で降りてしまっただけだ。


女の死亡が確認され、念のため警察に事情を聴かれた。

俺が話したすべはこれだった。


数日後、兵庫県警から呼び出され、当日の詳細を何度も何度も確認された。


警察の話によると、女は腎機能障害を持っていたそうだ。腎臓破裂。これが女の死因らしい。

外傷は全くないが、まるで殴られたかのような破裂だったらしい。


「死ねばいいんだ」と思った事と、女が死んだことの因果関係にはまだ気づいていなかった。



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