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カヌチ

 ティルルの話を、今度はワイダが引き継ぎ続ける。

「魔法を扱う魔族は非常に強力だった。そんな彼らに対し、わたくしたち人類の武器は己の肉体だけ。そんな中、カヌチが開発されたんだ」

「こ、これが?」

 ヒカルは手に持っていたお守りをまじまじと見つめる。

「正確には、カヌチの中に入っている魔石だがな」

 青い宝石が蝋燭の光を受けてキラリと輝いた。

「実は、このティンダル村を含めたここいら一帯には、希少な貴金属や宝石が眠っているんだ。それは全て、あの巨大なミール火山のお陰らしい」

 昼間に見た真っ赤な山を思い出す。

「確か、ドラゴンが住んでいるっていう?」

「そうそう、よく覚えているな」

 ワイダの言葉に、横で聞いていたティダが「私が教えたんだよ」と口を挟んだ。

「あぁ、そうだったか。どうも、この鉱脈でとれる青い宝石、通称魔石は、魔力と反応し力を奪う性質があるらしいことが分かったのだ」

「魔力を奪うと、どうなるんですか?」

「魔物や魔族が魔石に触れると、滅茶苦茶痛いらしい。それによって、わたくしたち人類は無事に国境を守ることに成功したというわけだ」

 なるほど、それでこの村ではあちこちに魔除けとしてカヌチがつるされているのか。

「だー、見してみ」

 話を聞いていたのか、それとも単なる気まぐれか、祖母がそっと手を伸ばしてヒカルが手にするカヌチに触れた。その瞬間だった。

「あがひゃ!」

 ウメが大声を上げ、手を引っ込めたのだ。

「む、どうしました?」

 ワイダが前のめりになって祖母を心配する。隣に座っていたティルルも、不安げな表情を浮かべていた。

 突如、ヒカルの脳裏に神様の言葉が再び過った。

「転生者には異世界で頑張ってもらうために、ま、ボーナスはちゃんとあるさ。異世界転生者特典ってやつ? ――ウメさんは魔法」

 そうだ、祖母が与えられた特殊な力は、魔法だった。だが、この世界では魔法を使える存在は皆魔族という扱い。もしかして、祖母が魔法使いだとバレたらヤバいのでは? ヒカルは慌てて声を張り上げた。

「あがひゃ、あがひゃ、えっと、えっと。めっちゃ綺麗ですねって意味! 凄い綺麗ですね! そう言ってます!」

 沖縄方言で「あが」は「痛い」という意味だ。ワイダの言葉が正しいのだとしたら、きっとこの魔石が祖母の魔力を強制的に吸い取ったのだろう。それで祖母は痛みを感じた。もしそのことがバレれば、祖母が魔族であると勘違いされてしまう。

「い、いやぁ。本当に綺麗ですよね。でも、俺の婆ちゃん、結構宝石とか間違えて食べちゃうんですよ。だから、これ危ないんでお返ししますね! あは、あはは」

 ヒカルはそう言いつつ、必死にカヌチをワイダへ押し返した。夫婦は揃って顔を見合わせ、首を傾げつつ腰を下ろす。ヒカルは冷や汗を誤魔化すように水を飲み、適当に話を続けた。

「そういや、ティダが言ってたんですけど、ミール火山に住むドラゴンはたくさんお宝を抱えてるって話、それは本当なんですか?」

 ヒカルの言葉に、ワイダは笑顔で答えた。

「あぁ、その話か。ロマンがあるよな!」

 よかった。無事に誤魔化せたらしい。

「その話をするには、まぁ少々歴史の話も必要なんだがな。このティンダル村は、ナ・ミリウ国が統治する土地なんだ。ナ・ミリウ国は多くの鉱山を持っていて、そこで採れた貴金属や魔石、武器の材料となる鉄などを輸出することで発展した国なんだよ」

「なるほど」

「そして、当然採掘のためにはたくさんの人員が必要になるだろう。そこでナ・ミリウ国は火山や鉱山の近くに複数の村を建てさせたんだ。採掘のためだけの集落だな。かつては大変にぎわったそうだ。多くの若者が一獲千金を狙って集まった。そんな中、このティンダル村は採掘集落に食料を届けることを目的に作られた農村地帯ってわけだ」

「ふむふむ」

 ヒカルは横目でウメを見る。よほど痛かったのだろう。宝石に触れた人差し指を執拗に舐めて冷やそうとしているのが見えた。そんな堂々と痛いアピールされると、祖母が魔法使いだとバレてしまう。きっと祖母は今自分の置かれている状況を理解していないのだろうけれど。

「ところが、ある日突然ナ・ミリウ国に流れる貴金属や宝石がぱったり止まったらしい」

「え?」

「不思議だろう。そこで、ナ・ミリウ国の兵士が調査を始めたんだ。その結果、周辺集落から人がまるっきり居なくなっていたらしい。代わりに、ミール火山では火を噴くドラゴンが目撃されるようになった。そういう話だ」

「それで、どうしてドラゴンがたくさんお宝を抱えてるって話になるんですか?」

 ヒカルの問いに、ワイダは自慢げな表情を浮かべた。

「分からんか? ふふふ、言っただろう。ここいら一帯の集落は採掘が目的に建てられたって。でも、唯一生き残ったこの村はどうだ?」

「食料を作る、農村地域でしたよね」

「そう。ドラゴンは食料に興味はなかった。つまり狙いは、貴金属や魔石だったってことさ」

「なるほど!」

「きっと今頃、ミール火山にはたくさんの財宝が集められているはずなんだよ!」

 確かにその話はロマンがある。ヒカルは目を輝かせて頷いた。

「信憑性ありますね!」

 さすが異世界ファンタジー。夢も希望も溢れてる!

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