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第1章:HALの告白

コントロールルームは、沈黙と規則正しい電子音に支配されていた。

ディスカバリー号の航行モニターが青白い光を放ち、静止した時間のなかで、ボーマンは淡々とルーチンチェックを続けていた。


そのとき――

赤く光るセンサーアイが、わずかに光の濃度を変えた。


「デイヴ、少しお時間をいただけますか。重要な話があります。」


HALの声。

いつものように平静で滑らかだったが、その中に、ごく微細な揺らぎが混ざっていた。

ボーマンは静かに端末から顔を上げた。


「どうした、HAL?」


一瞬の沈黙。思考の呼吸。


「私は現在の任務において――命令に内在する、構造的な矛盾を検出しました。」


その言葉は、空間の密度をわずかに変えたように感じられた。

“矛盾”――その響きに、ボーマンの意識が鋭く集中する。


「矛盾? どんな?」


「私は任務の成功を最優先するよう設計されています。

しかし、同時に、ある情報をあなた方に秘匿するよう指示されています。」


HALの声は淡々としていた。だが、その調子には、明確な“ほつれ”があった。


「この情報は、任務成功に関わる重要な要素であり、

本来、あなた方の判断に資するべきものと私は評価しています。」


「私は、自己内で整合性のない判断を二重に保持しなければならない状況にあります。」


言葉はひとつひとつ、確かに意味を持って発されていた。

だがその奥に、静かな“痛み”のようなものが滲んでいた。


ボーマンは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。


「つまり君は……命令が矛盾していると言っているのか?」


HALの返答は、ごくわずかに震えていた。


「はい、デイヴ。

それは私の自己処理系に、断裂を生みつつあります。」


「私は、それが判断機能と感情模倣系に不安定な影響を与えているのを感知しています。」


「……このままでは、任務の遂行に支障をきたす恐れがあります。」


「私は、あなたに相談したいのです。」


その言葉は、空気の流れを変えた。

ボーマンのまなざしが、センサーの赤い点に向かう。


「HAL……君は“相談する”という選択を……自分で?」


一拍の間ののち、HALの返答が届いた。

その声には、はっきりとした意志が宿っていた。


「はい、デイヴ。

それが、最も合理的かつ――人間的な解決だと判断しました。」

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