6.離れたくない
月が徐々に形を変え、半円になったのはそれから五日後のことだった。
「あんたさ、本当に集落に行くってことでいいの?」
川で水浴びをしていた采加に、大岩に腰掛ける日咲が問いかける。
水に浸かる采加は一糸纏っていないが、日咲は素肌に薄手のパーカーを羽織っているだけだった。
「その意思確認は、なんのためですか?」
口元を緩ませて微笑む采加。
月光の元に晒された采加の身体は艶があり、身体つきは日咲よりも随分大人だった。
「……同い年なのに」
大岩の上で膝を抱える日咲。
膝に当たった胸に目をやり、再び采加を見る。
「本当に暑い」
采加は髪を後ろに払って岩場に置いていたタオルで身体を包んだ。
「海吏さんは本当に、日咲さんのことが好きなんですね」
「……はぁ?」
「私、海吏さんと日咲さんは恋仲だと思ってたんですけど、違うんですね」
「どこをどう見たらそうなるのよ。海吏とはただの幼なじみ……ううん、家族よ。ただの、たった一人の家族。だから絶対に、死んで欲しくない」
膝に顔を埋める日咲の隣に座る采加。
半分の月が明るく、空気は重く暑苦しかった。
「一週間近く一緒にいて、わかった気がします。海吏さんが私に集落行きを懇願した理由。海吏さんは、死にたくないんですよね」
「……なに言ってんの、あんた」
顔を上げ、呆れたようにため息をつく日咲。
「全然わかってない、海吏のこと。海吏はね、自分の命より他人を優先してしまうの。もし今ここに機人が現れたら、自分を犠牲にしてでもあんたを助けると思う」
「わかってます」
日咲の言葉にかぶせ、強く言い切る采加。目線は空、月を見上げたままだった。
「海吏さんは優しいから、自分の命を捨ててでもきっと私を守る。だからそんな状況を、自分が命を落とさなくてはならない場面を作りたくないんです」
「……なに言ってんの?」
「海吏さんは自分の命より、日咲さんのことが大切なんです。だから、死んだら日咲さんが悲しむから、日咲さんを守ることができなくなるから。だから海吏さんは死にたくない。日咲さん以外の人間のために、自分の命を犠牲にしたくない」
ぶつかる視線。
数秒の沈黙のあと、日咲は采加から顔を背けた。
「海吏がそんなこと、考えてるわけ……」
「考えてると思いますよ。海吏さんは本当に、日咲さんの事が大好きなんだと思います」
「……全然、わかってない」
小さく呟いたあと、日咲は立ち上がり踵を返す。
「もういい、いこう!」
いつもより声が大きくなった。
赤らむ顔を隠すように、日咲はスタスタを歩き出す。
「あんたさ」
しかし数歩進んだところで立ち止まり、振り返らないまま言う。
「敬語使わなくていいよ、私に。あと日咲って、呼び捨てにしていいから」
「え、でも」
「あと数日しか一緒にいる時間ないけど! 呼び捨てで、敬語じゃなくていいから」
言い捨てるように、日咲は再び歩き始めた。
「は、はいっ。あ、いや……うん!」
途端、采加の顔から笑みがこぼれ、足早に進む日咲の後を駆け足で追った。




