33.ありがとう
間に合わせの隠れ家は十分ほどで完成した。
大人二人が辛うじて入れる程度の小さな穴。
作業の途中、頻繁に息を整えていた海吏は、穴を掘り終えると同時に地面に腰を下ろした。
「太陽が真上にある、昼の十二時あたりか」
手をかざしながら日の光を見つめる。
眩しそうに目を細めながら空を見上げる采加と、真っ直ぐに太陽を見つめる日咲。
「主、俺ともう一度、会話をしてくれるか?」
突然の問いに日咲、そして采加も海吏の方を向く。
海吏は天を仰いだまま話を続けた。
「機人となった俺が感情をうまく出せず、人間らしい会話ができなくなっていることは理解している。でも、主を傷つけたいわけじゃない。俺のせいで主が苦しむなら改善したい、もう一度話をしてくれ」
「会話って……あ、洞窟にいたときの」
「会話もまともに出来ない俺はいらない、と言われた」
「いや、あれは……酷いこと言ってごめんね」
「酷いのは俺だろう? 主は悪くない。俺の最優先プログラムは主の命を守ることだが、必要なら他のことにも手を貸すと言っただろう。主のためになるならば俺は、自身の性格だって改善する」
「海吏……ありがとう」
微笑む日咲。
そして二人の様子を見つめていた采加が、日咲の左手を掴んだ。
「私だって、日咲のためなら何だってする」
「采加……」
「その弱い頭で何かを成せるのか? おまえが?」
「弱いのは頭じゃなくて力って言ってるよね!」
日咲を挟んで口論する采加と海吏。日咲は思わず笑い、二人の手をぎゅっと握った。
「時間の無駄だな、早く隠れて寝てろ」
海吏に押し込まれ、日咲と采加は身を寄せ合うようにして地下の穴に入り込む。
「そうだ、おまえにも言っておくことがあった」
天井を封じる前に、ひょこっと顔だけ出した海吏が采加に目をやる。
「な、なに……?」
「囮りというのは勇気がいる。恐怖心もあっただろうに、長時間耐えたことは称賛に値する。なにが言いたいかというとつまり、あの時は助かった、ありがとう」
捲し立てて喋り、話が終わるとすぐに海吏は天井を塞いだ。
「…………い、今それ言う?」
顔を真っ赤にした采加が天井を叩く。
「ちょっと、ねぇ! あけて! 言い逃げなんてずるいよ!」
しかし頭上からは何の反応もなく。
「あははっ」と声を上げて笑う日咲の声が、地下に響いた。




