31.逆光が眩しい
「私たち機人は悪意に対して敏感なの。あなただってそうでしょ?」
「あぁ、だからか。おまえが現れてから、苛立ちが募って仕方ない」
柄を指で弾き、海吏が飛び立つ。
レイラはふふっと笑いながら、レイピアの先端をくるくると回した。
「動悸が激しい、の間違いじゃないかしら? あなた、私に恋してるのよ」
「……自意識が強すぎて頭おかしくなってるのか?」
海吏は日本刀の柄を握っているのと反対の手で鎬を撫で、両手で持ち直して刃をレイラに向けた。
「同じ攻撃ばかりね、おバカさん」
レイラのレイピアから稲妻が走る。
海吏は日本刀を横に向け、鎬の部分で稲妻を受け止めた。
バリバリバチっと、稲妻の光が弾ける。
「あら? 通電しない……その刀、電気を通さない素材に変えたの?」
不思議そうに首を傾げるレイラが、もう一度、レイピアの先を振るう。
放たれた稲妻は再び海吏の日本刀に取り込まれた。ぶつかって弾け飛んだのではない、電気の筋が日本刀の鎬に吸い込まれていったのだ。稲妻を回避した海吏が、刃をレイラに向けて振り下ろす。
レイラは慌ててレイピアを握り直し、攻撃を防いだ。
火花が散り、海吏そしてレイラもその場から弾き飛ばされる。
「……なるほどね、刀の一部に導電素材を使って、他への被害を防いでるのね」
地面に着地したレイラと、木の枝に飛び乗った海吏。
レイラが海吏の手元を見ると、黒いグローブが巻かれていた。それを以て体への通電を抑えているのだろう。
「んー、防御率としては良策なんだろうけど、地味過ぎるわ」
うふふっと笑いながら、レイラは海吏を見上げる。
「ちょっとお話していいかしら?」
「……なんだ?」
「あなた、戦いに慣れてない? 才能はあるのに、能力の使い方が下手過ぎるのよね」
「慣れてないも何も、まともに戦うのはこれが初めてだ」
「あら? あらあらあら? 初めて?」
「機人として生まれてまだ一週間も経ってないからな」
「一週間? あら、そうなのね。一週間……」
微笑むレイラが腕を下ろし、レイピアの矛先を地面に着ける。
「ねぇ、戦うのやめない?」
「何故?」
「才能あるわ、あなた。きっとこれからどんどん強くなる。私、女の子が好きだけど強い男も好きなの。あなた、今日死ぬには惜しい存在よ」
「そうか。今日死ぬことはないから安心しろ。だが戦いをやめるのは助かる。殺さずに倒す、という作業がどうも難しかった」
「よかった、終わりにしましょう。それじゃあ、その女の子たちをくださいな」
「……何故? 戦いをやめるんじゃなかったのか?」
「戦いはやめるわ、必要ないもの。でも人間を殺すのは私たちの義務でしょ?」
「なるほど、それなら交渉決裂だ」
日本刀を右手に持つ海吏が右手で鎬を撫で、飛び上がった。
「あら、残念」
言葉とは裏腹に笑顔を浮かべるレイラが矛先に風を起こす。しかし、稲妻の攻撃は先程防がれたことを思い出し、別の方法をとろうと地面を蹴る。
「えっ……なにこれ?」
レイラの右足はトラバサミに挟まれ、飛ぶことが出来なかった。足を振り上げてトラバサミごと外そうとするが、地面に強く括り付けられているため叶わない。
「采加が時間を稼いでる間に仕掛けておいた」
背後から海吏の刃が襲う。
レイラは左の脚を振り上げ刃を押し返すが、地面に脚をついたところで別のトラバサミが今度は左の足首を捕らえた。
「なに……こんなに」
その時になって気がついた。
あたり一帯の地面がトラバサミに覆われていた。
おそらく、どこに足をついても捕まっていただろう。
「肉食べたい時に使う道具だ」
「こんな物、分解して消せば……」
レイラがトラバサミに触れ、その存在を消そうとするが、シンとしたまま動きはない。
「どうして……鉄で出来てるんじゃないの、これ?」
「色はそうだがな」
海吏は地面に手をつきながら他のトラバサミを消していき、レイラの前に歩み寄った。
「俺は未だ、機人の能力の全てを把握していない。わかっていることは、機人の能力とは、身体及び大気中の物質を分解して再構築し、新しい物体を作り出せるということ。いわゆる錬金術みたいなものだな」
「そうよ、だから才能の他に頭の良し悪しが機人の強さを左右する」
「あぁ、俺は才能はあるが、どうやら頭が良くないらしい。だから俺には、主が必要だ」
海吏は日本刀を握り、采加がレイラと話をしている間に話しかけてきた日咲から聞いた言葉を思い出していた。
『地面にトラバサミをぶち撒けて、一回動きをとめよう。トラバサミの素材はよくある鉄やアルミじゃなくて、そうだな……雑草をトラバサミに変えよう。ペンキって使える? 銀色のペンキを塗って、鉄っぽい素材にして』
采加を囮りに、レイラと対話をして時間稼ぎをしていた時、その隙に海吏に駆け寄った日咲が耳元でいった。
なにしてる、逃げろ。という言葉も発せない、気力もない。
黙って耳を傾ける海吏に最後、日咲はこう言った。
『久しぶりの太陽、眩しいね。すっごく暑い』
そのときの日咲の顔は、逆光で見えなかった。
起き上がれ、立て……立ち上がれ。
意思を肢体に伝達、自動修復プログラムの起動。
体を起こし、漆黒の日本刀の鎬の部分にある素材を組み込んで柄を強く握り締めた。




