3.カレーライス
日咲と采加が広場に戻ると、三人分の木皿にカレーライスが装ってあった。
「言っとくけど、ゲキマズだから」
皿とスプーンを采加に手渡しながら日咲がいう。
「食べる前からそんなこと言うなよ」
苦笑いを浮かべる海吏を、日咲がきつく睨みつける。
「覚悟しといたほうがいいでしょ?」
「今回は上手くできたと思うよ。スパイスの配合変えてみたんだ」
「配合変えてもまずいものはまずい」
言い争う、というより痴話喧嘩をする二人を見つめ、采加は思わず一笑した。
焚き火の傍には土窯がある。米はそこで炊いたものだろう、キラキラと光る米粒が綺麗だった。米の横には、スライスされたトマトとキュウリ。
「もういい、いただきます」
采加の隣に腰を下ろした日咲が手を合わせた。焚き火を挟んで向かいに座る海吏も同じ仕草を見せたので、采加はスプーンを置いて両手を合わせた。
「いただきます」
「いた、だきます」
二人の言葉を倣い、采加は目の前のカレーライスを見つめる。地下でカレーといえば、とろみのある茶色い汁に肉や野菜を漬け込んだものだった。いま目の前にあるのは、砂のような粒が無数に浮かんだ赤い液体にタマネギとニンジンが浮いている料理。
山椒の香りが鼻をくすぐった。
ひとくち、赤い液体を粒と共に口に運ぶ。
「……っ、ぶ……ぅっ」
思わず口元を押さえ、スプーンを投げ捨ててコップを手にとった。いっぱいに注がれていた水を飲み干すが、何かの粒が舌に残っていて吐気が治らなかった。
「あ、前より食べやすい」
采加を置いてけぼりに、日咲が呟く。
その言葉を聞き、海吏の顔がぱあっと明るくなった。
「だろ! 配合変えたんだ。さすが日咲、わかってる」
「山椒入れた?」
「そうそう、他のスパイス抑えて山椒強めにした」
悶絶する采加をよそに、カレーの品評をする日咲と海吏。
采加は立ち上がり、カレー鍋の隣にあったひょうたんから自分のコップに水をうつし、それを一気に飲み干す。
「美味しくなかった?」
遠慮がちに尋ねる海吏に、采加は口元を押さえしばし返答を考えた。
「……スパイスが、強いですね」
しかし頭が回らず、出てきたのはそんな言葉だった。
慌てて、次の言葉を取り繕う。
「あの……なんていうか色んな味が混ざり合って、溶けない砂が口の中でゴロゴロするというか、それでいてスープは辛味がつよくて、更に山椒の香りが鼻をくすぐって」
必死に話すがうまい言葉が見つからず、ついには肩を落として首を垂れた。
「すみません、美味しくなかったです」
シン、と沈黙が訪れた。
パチパチと焚き火の燃える音と、遠くで鳴くふくろうの声。
「……あは、あははっ」
声を上げたのは日咲だった。木皿を地面に置き、両手で口元を覆ってクスクス笑う。
「だから言ったでしょ、ゲキマズだって」
「ゲキマズってほどでは……いや、その通りです」
「え、マジで? 自信作だったんだけどなぁ」
そう言ってカレーを口に書き込む海吏。
次の瞬間、咳き込んでコップの水を飲み干した。
「山椒が……ていうか舌触りやばいな、これ」
目に涙を浮かべる海吏を見て、日咲は再び笑った。
「前よりマシってだけで、不味いことに変わりはないから」
「え、じゃあ前はもっと酷かったんですか?」
「カレーって名前つけるのも申し訳ないくらいの味だった」
ケラケラと笑っていた日咲だが、采加と目が合うとぷいっと視線を逸らして再び木皿を手に取った。
「とりあえず今日はこれしか食べる物ないから。嫌なら自分でなにか調達してきて」
先程とは打って変わって素っ気ない態度。
采加は戸惑いながらも、必死にカレーを口に含んだ。
米は空前絶後に美味しかったので、完食することができた。




