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21.本物?偽物との見分け方?


 頭が回らないけれど、とりあえず眠ることにした。

 采加が目を覚ますと、リュックに荷物を詰めていた日咲が振り返った。

 目線だけ合わせ、日咲は再び探索の準備を始める。


「今日も外に行くの?」

「うん、ご飯とか調達したいし」


 日咲の足元を見ると、焦げた魚が六匹、木皿の上に並べられていた。

 日咲は魚の取り方を知らないと言っていた。ならば、昼間に海吏が用意したものだろう。


「それ、日咲のためにとってきてくれたんじゃないの?」


 壁にもたれて眠る海吏の位置は、昨日から少し動いていた。ズボンの裾が破れている、木か何かに引っ掛かったのだろうか。


「さぁ、どうだろうね」


 淡々と言い放ち、日咲は立ち上がる。


「采加、どうする? 一緒にくる?」

「あ、うん……」


 空のリュックを手に慌てて立ち上がる。出入り口に向かい日咲の後を追い、穴に入る直前で振り返った。

 なくなってる……男の首も、胴体も。

 血痕さえ綺麗に片付いていた。

 まるで昨夜、何事もなかったかのように。




 外に出ると地面が濡れていた。雨が降りそうと日咲が言っていたが、その通りだったのだろう。


「見てみたかったな」


 水たまりを眺めながら、采加はつぶやいた。

 空を見上げると痩せ細っている月が空に浮かんでいた。

 黙々と歩み、食糧庫にしていた民家の前で日咲が立ち止まった。

 どうしたのだろうと、采加はそっと日咲の顔を覗き込む。


「采加、昨日いってたよね? あれは海吏じゃないって」


 その言葉に采加は息を呑んだ。

 確かにそう言った、それが事実だと思ったから。

 でも今、この状況で日咲の言葉を肯定すべきなのか。


「言った、けど」

「……っ」


 鼻をすするような音が聞こえ顔を上げると、日咲が手の甲で目元を拭っていた。


「ひ、ひひ日咲、泣い……」

「泣いてない!」

「え、でも」

「目にゴミが入った!」

「えぇーっ……そ、そっか」


 隠すにも無理があるだろうと、采加は横目で日咲を見つめた。

 少し迷ってから、日咲の方に顔を向ける。


「あのね、日咲。昨日はああ言ったけど、やっぱりあれは海吏さんかもしれないよ?」

「違うって昨日言ってたでしょ?」

「昨日はそう言ったけど」

「どっちなの? 優柔不断なの?」

「えっと、えーっと」

 困惑して答えに困る采加。

 ふと日咲が振り返り、采加の胸に抱きついた。


「ひ、日咲? どうしたの?」

「……わかってる」

「え?」

「采加の言いたいこと、わかってる。あれは海吏じゃないかもしれないって。でも嬉しかったから、海吏が生きてるってわかって、帰ってきてくれて、私は嬉しかった」

「……日咲」

「でも、あれが海吏じゃないなら、私はどうしたらいい? あなたなんか要らないってさよならするの? 姿形は海吏なのに? もしかしたら海吏かもしれないのに? そもそも、人って何をもってその人物って判断するの?」

「……それは、性格、とか?」

「姿形が同じでも、性格が違えば別人物になるの?」

「例えば双子とか、同じ顔でも違う人間でしょ?」

「じゃあ記憶は? あの海吏には、私と過ごした海吏の記憶があった。私の好みも昔のことも全部知ってる。同じ過去を持ってるのに、性格が違えばダメなの? 記憶は、その人の歩んできた過去の記録はその人のものじゃないの?」

「それは、そうかもしれない、けど。全く同じ過去を持つ人はこの世に二人いないから、そういう意味では、あれは本物の海吏さんなんだろうけど」

「……ごめん采加。自分でも、なに言ってるかよくわかんない」


 ため息をつき。身体を離す日咲。

 采加は言葉が見つからず、引き止めることが出来なかった。


「ごめんね、采加。今日は探索なんかしなくてよかったの。ただ、あそこに居たくなくて」


 戻ろうか、と日咲が手を差し出す。

 采加はその手を取り、二人で手を繋いで洞窟に戻った。


「難しいね」


 日咲の言葉にやはり上手な回答が見つからず。


「そうだね、難しいね」


 彼女の言葉を反芻することしか出来なくて、それ以上の会話はなく黙々とキロを歩いた。



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