18.機人の能力
「え……なに?」
「電池が切れたんじゃない? 昨日、采加に任せたよね、新しい電池。どこ置いた?」
「えーと、ちょっと待って」
地面に手をつき、手探りをする采加。指が布に触れる、探索用の鞄だと思った采加はそれを強く引き寄せた。
「あれ、何かに挟まった」
「なにしてんの?」
「リュックが、取り出せなくて」
「リュック? 昨日、采加が背負ってた? それなら私の手元にあるけど、この中に入ってるの?」
「え? あ、うん」
日咲が手探りで電池を見つけ、器用に時計の電池交換を始める。
「……鞄が向こうにあるなら、これ何?」
采加は手元にある布に両手を乗せ、感触を確かめた。
布に覆われた何か、弾力があって柔らかい。
もしかしたら布団かもしれない。
いや、それにしては柔らかくて温かみがあるような。
手を滑らせると布の切れ部分に当たり、上に続いていた。手を上に這わせたところでパチンと電池がハマる音がして洞窟内に光が灯った。
ランタンを床に置いた日咲が顔を上げると、信じられない光景が広がっていた。
「なにしてんの、采加」
厳しい目つきで、海吏の胸に両手を乗せている采加を睨む。
「……え、えっ?」
正直、もしかしてとは思っていた。だけど手を離すタイミングがなくて。
そしてまさか、こんな場所を触っているとは思わなかった。
「ち、違っ……」
思わず指に力が入り、海里の胸を思いっきり掴む采加。
「うっ」と海吏が小さく唸る。
「ちが……きゃー!」
采加は手を振り上げ、海吏の頬を叩いた。
驚きで体が跳ねる日咲と、顔をしかめる海吏。
采加はバタバタと立ち上がり、日咲の元へ駆け寄った。背中の後ろに隠れる采加を、日咲は驚きと呆れが入り混じったような表情で睨みつける。
「采加、あんた……」
「違う、違うの!」
「なにが違うかわからないけど、あんたの変態趣味はどうでもいいとして」
「違う、私が好きなのは日咲なの!」
「私の触ったら殺す。それより……」
ちらっと海吏を一瞥すると、その身体が微かに揺れていた。右手で顔を押さえ、大きく深呼吸している。
「海吏、起きそうなんだけど」
「えっ、えっ……どうしよう。鉄則が!」
「あんたのせいでしょ!」
むくっと、海吏が起き上がる。日咲と采加はびくっと肩を震わせ、互いの身体に抱きついた。
「…………眠い」
ポツリと呟いた海吏。
指の隙間から覗く目は死んだ魚のような、目の下にクマができているような、正気がないような何かを睨んでいるような。
とにかく怖かった。
その瞳がギロリと日咲と采加を睨みつける。
「どうしよう、日咲」
「あんたのせいでしょ!」
「怒ってる……よね、あれ」
「睡眠を邪魔されたからでしょ、あんたに」
小声で会話する二人を睨みつけていた海吏が、再びため息を漏らす。
そして、
「なにか、あったのか?」
低い、今までに聞いたこともない不機嫌な声で海吏が言う。
「いや、えっと」
「なにも」
涙が出そうだった、恐々と声を出す日咲と采加。
海吏は面倒臭そうに首を傾げ、チラリと洞窟内を見渡した。
「ああ、そうか……忘れていた」
大きなため息をつき、足を一歩踏み出す。
「え、なに」
「私が触りました、ごめんなさい」
瞬時に土下座する采加。
しかし海吏は目もくれず、洞窟の出入り口に向かって歩いた。
「元に戻すの忘れてた、悪い」
そういうと、海吏は出入り口を塞いでいる金属に手を当て、力を込めた。
金属の塊はグネっと形を変え、海吏の手のひら上でライフルに姿を変えた。銃口を穴に向けトリガを引くと、ライフルから青白い炎が噴出され、穴の向こうまで全てを燃え尽くす。
「なに、してんの?」
日咲の質問に、海吏はライフルを構えたまま目線だけ振り返る。
やはり目つきは悪かった。
「侵入して来てたやつがいたら困るから。この温度なら骨も残らない」
カチッと音がして炎が止まる。用済みになったライフルを、海吏はしゅっと消す。
「用は済んだか?」
じとーっと睨まれ、日咲と采加は無言で首を縦に振って頷く。
「そうか。よか、っ……た。寝る」
声が小さくなり、海吏は壁にもたれて座り込んだ。
一秒もないうちに、すぅーっと穏やかな寝息が聞こえてきた。
「……寝た?」
「寝た、ね」
恐る恐る近寄り、顔を覗き込む。
腕を組んで項垂れる海吏は、完全に眠っているようだった。
日咲と采加は互いに顔を見合わせ、ジリジリと後ずさる。海吏との距離が二メートル程になったところで、再び抱き合った。
「こわ、……怖かったー!」
「心臓止まるかと思った! 海吏さん、怒るとあんなに怖いの?」
「あんな顔初めてみたわよ! 海吏が怒ることなんてほとんどなかったし! 采加がバカなことするから!」
「わざとじゃないの、本当に!」
ギャーギャーと騒ぎ立てていると、耳に触ったのか海吏が立ち上がった。
日咲と采加を睨みながら布団を手に取り、頭から全身まですっぽり隠れるように被る。
もぞもぞ動いていた布団が動かなくなったところで、日咲と采加は再び顔を見合わせる。
「う、うるさかったかな」
「采加が騒ぐから!」
「違うよ、日咲が!」
「待ってまって! 喧嘩してる場合じゃないというか、喧嘩ダメ、本当に」
「同意します」
「海吏が通路作ってくれたし、ご飯でも食べに行く?」
「そうだね、それと電池もたくさん溜め込んでおきたいね」
リュックに時計と懐中電灯を詰め込み、日咲と采加は急足で持って出入り口に向かった。
洞窟の外に出るまで、終始無言で出来るだけ音も立てないように気をつけた。




