17.朝改め夜
采加が目を覚ますと、ランタンの灯りに照らされた洞窟内だった。
うつ伏せに寝ていたみたいで、頬が痛い。
「寝ちゃってた……いつの間に」
顔を上げると、壁にもたれて項垂れる海吏と、彼の膝に頭を乗せ横になっている日咲が見えた。
立ち上がり、二人の元へ歩み寄る。
屈んで海吏の顔を覗き込むと目が瞑っていることが確認できて。眠っているようだった。
「顔は本当に、海吏さんだ」
初めて会った時と同じ、痩せ型の優しい顔。
姿形は同じなのに、中身は違う。
日咲の前では言わないが、采加は彼が《《あの海吏ではない》》と確信めいたものを感じていた。何故と言われても説明できないが、自分に手を差し伸べてくれたあの海吏ではない。
足元を見ると、スヤスヤと眠る日咲がいた。綺麗な横顔、長い睫毛に透き通るような白い肌。
いつの間に眠りについたのだろう。
そしてふと、時計に目を向ける。
「十一時、二時間しか寝てない……わけないよね?」
再び海吏に目を向ける。
機人は昼に活動して夜眠る。というより否応なしに日落ちと共に睡眠に入るため、日中は目が覚めている。
その機人、海吏が眠っているということは。
「ひ、ひなた。起きて」
肩を揺さぶると、半目を開けた日咲が怠そうに身体を起こした。
「なに……あ、もう夜?」
「十一時だよ」
「じゅういち?」
目を擦りながら辺りを見渡す日咲の視線が海吏で止まった。嬉しそうに顔を綻ばせる日咲。それを複雑な想いで見つめながら、采加は洞窟の出入り口に目をやる。
「日咲、ご飯とか調達に行かないと」
「そうだね、海吏のご飯もいるもんね」
「うん、それで、外に出たいんだけど」
出入り口の穴に銀色の塊がぽっこり入り込んでいて、外に出ることはできそうになかった。
「そういえば昨日、海吏が塞いでたね」
「これ、私たちに何とか出来るかな?」
「夜になる前に元に戻す、って海吏は言ってたけど」
二人して振り返ると、壁にもたれ腕を組んで眠りについている海吏がいた。
「日咲、いまなに考えてる?」
「外に出たいから海吏に起きて欲しいんだけど……寝ている機人に触れるなって、地上での鉄則なのよね」
「海吏さんみたいなイレギュラーの場合、どうなるんだろう?」
「起こしてみる」
ゆらりと海吏に手を伸ばす日咲。
采加は驚き、日咲の腕を掴んだ。
「ちょ、ちょっと待って。機人だよ? 人間を見たら問答無用で惨殺するって日咲言ってたよね?」
「海吏のプログラムは書き換えられてるって言ってた」
「でも、眠ってる時は違うかもしれないよ。そもそも、昨日のことは本当だったの? 人を守る機人なんて、聞いたことない」
「あんたは地下での知識しかないでしょ?」
「じゃあ日咲は人を殺さない機人を見たことあるの?」
「……ないけど」
ため息をつき、腕を下ろす日咲。
はぁーっともう一度ため息を吐き、海吏の隣に腰をおろす。
「日咲?」
「一日くらい食べなくても人は死なないから。朝がきたら、海吏に何とかしてもらおう」
「う、うん。そうだね」
安堵した采加が胸を撫で下ろし、「でも暇だね、どうしよっか」と日咲の側に歩み寄る。
その時ふっと、ランタンの明かりが消えた。




