16.自称天才プログラマー
つまり、簡単に言うとこうなる。
あの時たしかに、海吏は死んだ。しかし海吏の身体にあったある仕掛けのおかげで、彼は再び立ち上がる事が出来た。
その仕掛けというのが、
心臓が止まると同時に、身体の細胞を新しいより強靭なものに作り替える。
というもの。
より強靭な細胞に作り替えられた結果、機人と同等の能力を手に入れてしまったとのこと。
「あのー、質問いいですか?」
ランタンを囲い座っていたところへ、采加が手を上げる。
日咲と海吏は同時に采加に目を向けた。
「首ぶっ飛んでたけど、どうやって復活したんですか?」
「拾って繋げた」
「繋げ……」
「頭を探す作業が一番苦労した、どこにあるのか分からなくて」
「首無しで動いたってこと? 嘘でしょ? いくら機人でもそんなこと」
「普段なら不可能だが、人間から機人に切り替わるあの時だけはそれが可能だった。そうプログラムされていた」
「……プログラムって便利な言葉ですね。何でもプログラムされていた、それで片付きますね」
「ねぇ海吏、あの時だけって、もしまたあんな事になったら」
「死ぬだろうな」
素っ気ない返答に日咲は息を飲む。
「機人といっても、能力以外は人間と同じだから、怪我はするし食事も摂る」
「え、じゃあご飯いるの?」
「食べないと餓死するだろうな」
「そっか、じゃあ三人分用意しないとだね」
両手の拳を握りしめ、気合を入れるポーズを見せる日咲。
昨晩と別人だ、と思いながら采加はため息をついた。
「で、日咲のことを主って呼んでるのは?」
「さっき説明したはずだが? 俺の守るべき主人とプログラムされているから」
「だから、そのプログラムってなんですか?」
「何って……機人一つ一つに備え付けられてる絶対命令? 使命みたいなものだ」
「使命?」
「機人がなぜ人を襲うかわかるか?」
日咲と采加は互いの顔を見合わせる。
二人とも答えは知らなかった。
構わず、海吏は説明を続ける。
「全ての機人の脳には【プログラム】が付随されている。生きるために必要な絶対条件だ、そのプログラムを守らないと生命を存続させることができない。いま地上にいる機人のプログラムの殆どが、《人間を殺せ》になっている。故に本人の意思とは関係なく、機人は人間を見つけたら殺害行為を始める」
「……そ、んなの初めて聞いたけど」
「私も、地下でそんな事、教わらなかった」
「そりゃそうだろ。機人の思考回路なんて人間が知る由もない」
「え、でも海吏は」
「俺の場合、《人間を殺せ》というプログラムが別のものに書き換えられている。《主である日咲を守れ》と」
「私を、守る?」
「だからそれが俺の使命、生きる術だ。日咲を守ることが俺の生命維持に繋がる」
「……あ、うん、そっか」
ぱっと、日咲の方から視線を逸らした。それは恐怖からではなく真逆の感情。
嬉しい、海吏が私のために生きてくれることが嬉しい、と。
「ちょ、ちょっと待って」
口を挟んだ采加に視線が集まる。
「プログラムを書き換えたって、誰が? ていうか、海吏さんの死と同時に機人になるように仕掛けを施していたって、それ、誰がやったんですか?」
「ミオ姉」
「みおねぇ?」
「……海吏の、お姉さん」
答えたのは日咲だった。
明らかな動揺の色を映した瞳が揺れる。
「自称天才プログラマー。本気出したら凄いんだぞって自慢してた。ミオちゃん……海吏のお姉さん」
「プログラマー?」
「機械を弄るのが得意って、よくいろんなもの発明してた。本当にミオちゃんが、海吏をそんな風にしたの?」
「記憶領域にあるデータにはそうなってるな」
「ちょ、ちょっと待って!」
采加は頭を抱え、二人の話を理解しようとする。しかしどう考えても、そんな事があり得るはずがない。
「それって、海吏さんのお姉さんが、機人を造る技術を有していたってこと?」
「そうなるな」
「簡単に言ってるけど……それって大変なことって、わかってます?」
おずおずと見上げる采加だが、海吏は何を言っているのかと首を傾げる。
「わかっているが? それに何の問題がある?」
「問題っていうか……だってそんな事、人間の為せる技じゃない」
「なに言ってんだ、機人を造り出したのは人間だろ? 罪人などで人体実験を行い、機械と人間を融合させた機械人間を造り出し、世間に流通させた。それが機人の始まり」
「そんなことは知ってます。それが二十年前、バグを起こして人間を惨殺するように」
「バグ……もともと、人間の生活を助ける為に造られた機人が、人を殺すように」
確かめるように声を出す日咲の言葉に、海吏が頷いて同調する。
「《家事を手伝え》《荷物を運べ》《自宅の警備をしろ》、もともと備えられていたプログラムが二十年前、一斉に書き換えられた」
「そんなの、誰が……」
「そこまでの情報はない。ただ、それをやったやつはミオ姉を凌ぐ天才だろうな」
深いため息をつく日咲と海吏。
会話に入り損ねていた采加は二人を交互に見渡し、やがて窺うように話を切り出した。
「海吏さんのお姉さんは、機人を造る技術を有してたんですか?」
「さぁ? 主、知ってるか?」
「私も知らない。でも、ミオちゃんなら出来るかもしれない、とは思う」
「動物の身体弄ってたもんな」
「弄ってた?」
「飛べない鳥の羽に枝を組み込ませて羽ばたけるようにしたり、前足がない犬に義足つけたり。身体を機械に変えるって行為は頻繁にやっていた」
「人間相手にやってるのは見たことないけど。そういえば、怪我してるクマを助けたこともあったよね」
「あれは驚いた。やめろって思いながら見てた」
「動けるようになった途端、海吏に襲いかかってきたもんね」
ケラケラと笑う日咲と、無表情で淡々と返す海吏。
思い出話に花を咲かせる二人を尻目に、采加は頭を抱えた。
いろいろ……考える事がたくさんあり過ぎて、理解が追いつかない。
「……なんかもう、今日一日でどっと疲れた」
意識を空に投げ、洞窟の隅にある時計を見た。
短い針が9を過ぎたところ。
日落ちまでまだまだ先だった。




