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11.責任


 どの道をどう通ったかわからない。

 いつも寝泊まりしている洞窟の中、真っ暗な中で采加は日咲の肩を抱いていた。


「日咲、さん……」


 恐る恐る声をかけるが、反応はない。

 手探りで電気を探し、明かりを灯す。


「消して!」


 間髪入れず、日咲が叫んだ。

 洞窟の隅で膝を抱えてうずくまる日咲。

 采加は慌てて電気を消し、じりじりと尻を動かし日咲のいる場所まで戻った。


「ごめんなさい」


 やはり日咲は答えない。

 静かな空間の中、ピチャンと水の滴る音が響いた。

 表情は見えないし声は聞こえないが、泣いていることは明白だった。


「……ごめんなさい」


 采加の目に涙が溢れる。それを拭いながら、壁に背を持たれて膝を抱えて蹲った。




 数時間は経っただろうか、ふいに日咲が声を発した。


「あんた、何してたの?」


 采加は顔を上げ、日咲の方を見つめる。

 しかし明かりがないせいで、顔や姿は見えない。


「馬車が……振り返ったら明さんの顔が無くて、馬も倒れて。それで、馬車の下に逃げ込んだんです」

「…………」

「馬車に乗ってる人たちが襲われて、隠れてたらしばらくして海吏さんが来てくれて」

「あんたを迎えに行ったのよ」

「……私を?」

「ここに残りたいって言ってたから、一緒に暮らしてもいいよって、一緒に、カレー食べようって」


 ポタッと、地面に水が滴った。

 それは日咲のものか、それとも采加のものか。

 暗闇ではわからなかった。


「私が言ったの。采加を迎えに行ってって。一緒に暮らしてもいいって、私が言ったの。だから海吏、あんたのところへ行ったの」

「それじゃあ、やっぱり私のせいで海吏さんは」

「なに言ってんの、話聞いてた? 私が頼んだ、って言ったでしょ? 私が、あんなこと言わなければ……あんたを迎えに行かなければ」

「違う、違うんです! 私のせいなんです。私が自分で歩かなかったから。馬車が襲われたあと私、動けなくて、海吏さんが私を抱えて走ってくれて」

「海吏が、あんたを抱えて走った?」

「はい。私を抱えて、山頂あたりから井戸のあるあの場所まで」

「山頂? そんなとこまで行ってたの?」

「それ以上高い木は見えなかったから、たぶんそこが山頂かと」

「そんなところから、海吏が、あんたを?」


 ざっと地面を擦るような音が聞こえた。かと思うと急に、采加の左頬に痛みが走った。

 采加は殴られた頬を押さえ、日咲がいるであろう方を見上げる。


「あの機人、足が人間のものじゃなかった。あんた、機人の強さって何で測るか知ってる?」

「……え?」

「機人の強さは人間らしさで決まる。人間に近ければ近いほどその力は強くなる。あの機人、足が完全に機械だった。普通の機人より脚力が弱くて、対機人戦に備えて鍛えてる私たちより足が遅いはず。なのに、追いつかれたって……海吏一人なら絶対、逃げ切れてた!」


 絶叫する日咲の声。

 空洞内に響いて、地面が揺れる。


「私と海吏はこんな生活してるから、そこらの人間より力はある。レベルの低い機人相手なら倒す事もできるって言われた! なのにあんな、顔だけ人間味の残った、中途半端な機人相手に……海吏一人なら」

「……ごめ、ごめんなさい」


 顔から血の気がひいた。采加は青白い顔で俯く。


「わたし、私のせいだ……私が……私のせいで。ごめんなさ……」

「謝るなら返してよ、海吏返して! 連れてきてよ、連れて帰ってきてよ、ねぇ、海吏返してよ!」


 その場に泣き崩れる日咲。大声が響き、耳がジンジンと痛かった。

 溢れる涙を拭うことは出来なかった。どうしていいかわからない、かける言葉も謝罪の方法もわからない。


「かいり……海吏、かいりっ」


 繰り返し泣き叫ぶ日咲の声を浴びながら、采加はただその場に座り込んでいた。

 真っ暗で何も見えない。なぜ日咲は、自分を叩くことができたのだろう。

 私には、何も見えないのに。



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