ナツ編-19 フー、夢の中で···
「ん、ん~~···」
「あっ!?目が覚めたみたいだね」
「···ここは、俺の部屋?」
「そうだよ。···よく頑張ったね」
「···えっ?···アキさん?···どうして?」
「どうしてって、ナツが大量の魔力をボクから借りたから『ただ事じゃない』って気づいたんだよ。リオにもお願いして授業をすっぽかしてきたよ」
「そうだったんですか···。すいません。俺がいながら···、止めることが···、できませんでした···」
「ヨウくんのせいじゃないでしょ?気にしちゃいけないよ」
「そうだ!ナツは!?フーは!?」
「大丈夫。フユも駆けつけてくれたしね。リオとフユで回復魔法をかけたから。ただ、かなり衰弱してるから、しばらく寝かせてあげてね」
「ありがとうございます」
俺が気を失ってる間の出来事が判明した。
まず、アキさんは授業中にいきなり魔力が減った事で異変に気付いた。授業を中断してフユに聞いたら違うとのことで、ナツだとわかったようだな。
同じく授業中のリオさんに合流して、その場で変身して王都へ長距離転移したようだ。
そして、フユも魔力共有で気づき、アキさんからの連絡でナツに何かあったと思い、転移で駆けつけた。
先にフユが到着し、軽く回復魔法を2人にかけ、その後リオさんが強力な回復魔法をかけたそうだ。命に別条はないとのことで、一安心だな。
店舗は客席がめちゃくちゃになり、クレーム野郎をフーが殴って追い出した時に大穴を壁に開けてしまった。柱が無事だったのは幸いだ。イスやテーブルなどの什器は、もう使い物にならねえな。
厨房とテイクアウト、レジは問題なかった。事件の後、バッツが店内の客への詫びと、『臨時休業する』とテイクアウトの客に伝えて店を閉めてくれていた。客もガッカリしたものの、バッツの説明を聞いて納得してくれたそうだ。助かったわ。
そして、逃げ出した客が憲兵に通報してくれていた。クレーム野郎は店の営業妨害とフーに対する暴行罪で逮捕された。気が付いた後も狂ったように大暴れしたらしく、4人がかりで連行したそうだ。
その後、事情を知ったエイルが急いで知り合いの憲兵の上席を通じて聞いた話によると、犯人は王都中心部の飲食店組合の幹部だった事が判明した。
突然頭角を現した、組合に属さない新人の店が大繁盛し、都内の飲食店の売上が下がったらしい。要するに嫉妬による逆恨みみたいだな。ただ、これ以外は意味不明な事を叫んで暴れるので聴取できないらしい。
実は、組合に加盟はするつもりだったんだ。アキさんからも、『元からいる人たちに混ざらないと、万が一のことがある』ってな。
ところが、加盟手続きをしに行った時にこう言われたんだ。
『まだガキじゃないか?ガキのママゴトに付き合ってられねーんだよ。帰れ!』
ってな。仕方ないから加盟せずにいたんだ。都内からここは離れてるからな。
ところがうちが開店したら大繁盛。都内でもウワサになり、さらにうちがリーズナブルな価格で最高の味を提供したもんで、都内の飲食店は売上が厳しくなりつつあるのが多くなったようだ。
それで客に紛れて営業妨害を企てたんだとさ。どうも悪いウワサも流していたようだが、常連客たちが鼻で笑って広がらなかったようだぜ。
この常連客たち、バッツと一緒に憲兵の事情聴取に積極的に応じてくれたそうだ。客も、今回のことで頭にきたようだな。感謝するぜ。
さて、状況はわかった。問題はこれからだな。
バッツには用心棒として、しばらくうちにいてもらう事にした。気配察知できるからな。ヘタな傭兵より使えるぜ?
アキさんとリオさん、それとフユはナツとフーが起きるまでいてくれるらしい。適宜回復魔法をかけてくれている。
さらにアキさんは壊れた客席区画の修理計画と手配を、パス皇帝に話していた。資材調達が完了次第、修理業者を転移で迎えに行って取り掛かるようだ。
さらにエイル経由でこの事件は女王の耳にも入ってしまった。直接支援はできないものの、リフォームを手掛けた御用達業者を手配してくれて、壁の修理を引き受けてくれるようだ。
ハルさんは仕事を放りだしてナナさんに乗って駆けつけて、ナツの看病をしてくれた。
2日後、ナツが目を覚ました。
「···ん。ヨウ、迷惑かけた」
「ムチャしやがって···。でも···、あの時はああするしかなかったな」
「···ん。パパ、ママ、リオパパ、お兄ちゃん。ありがと」
「良かったよ~。ナツも大変だったね。お店はボクにマカセテ!」
「···よくやった。被害は最小限で済んだよ」
「まさかオレが幼いリナにやったやり方を覚えてたなんてなー。よく思い出して実行したなー!ただ、自殺行為だからなー!次はやっちゃダメだぞー!」
「ナツ?今度からうちの道場生を警備員として派遣するよ。もう、あんな事は起こさせないからね!」
「···ん。ありがと」
あとはフーだな···。どうも、リオさんによると、
『フーは体はもう大丈夫だけど、精神的にダメージを受けてるなー。こればっかりは魔法でもどうにもならないぞー。ただ···、何か夢を見てるような感じだぞー。夢が覚めたら起きるんじゃないかー?』
との事だ。もう、見守るしかできないようだ。···いや、やっぱり迎えに行こう!どうすれば夢に入れるんだ!?
そう思った時、俺の目の前にちーむッス!の画面が表示され、そこには元神様がいた。
『困ってるようだね?アラートが鳴ったし、知り合いからも緊急連絡があったから、フユくんかナツちゃんに何かあったと気づいたよ。フーちゃんはどうも神狼族の『亡霊』に囚われてるから、ヨウくんが迎えに行ってあげてね。どぉりゃあぁぁ~~!』
「ちょ!?うわぁ~!!」
いきなり元神様が俺をフーの夢の中へ無理やり押し込んでしまった!乱暴過ぎやしないか!?
···あれ〜?ここはどこかな~?なにもない、まっしろなところだよ?
パパとママをさがしてあるいたけど、だれもいない···。どうしよう?
そうおもってたら、うしろからだれかきた!···えっ?しらないひとだけど、フーとママといっしょだ。しんろーぞく?
『おぉ!あなた様が我らの悲願!神の力をも備えた究極の神狼族!ついについに!我ら神狼族が!この世界の生物の頂点に達した証だ!!』
···えっ?どういうこと?むずかしいこといってるけど?さらにべつのひとがきたよ?
『神の力を行使して、この世界の者どもに思い知らせましょう!神狼族こそが頂点であると!そして、ほかの生物を従属させるのです!』
『さあ、皇女!その力を大いに振るうのです!ヤツらに目にものを見せてやるのです!』
『そして!神すら喰らいましょうぞ!』
『力を思う存分振るうのです!!』
『力を!!』
『神の力を!!』
『そして!この地上の生物の王に!あなたが真の神になるのです!!』
『先ほど力の一端が解放されたのです!もう抑える必要はないのです!!』
やめて!フーはそんなことにちからをつかいたくない!でも···、ちからをどうやってつかいこなしたらいいのかわからないよぉ~!
そのときだったの。まえにまぶしいひかりがひかったの!
「フー!!」
「パパ!?」
「迎えに来たぞ!ったく、こんなとこで迷うなよな〜!」
するとフーのうしろにいたひとたちがパパをてきとおもっちゃった!
『貴様!?皇女をどうするつもりだ!?』
「あぁ?何だテメェらは?俺の娘が迷子になったから迎え来ただけだ。テメェらには関係ねーよ」
『皇女が連れ去られる!?そうはさせんぞ!!』
「やかましいわ!俺の娘に指一本でも触れてみろ!?···楽に死ねると思うなよ!!」
「パパ···」
「もう安心しな。俺が来たからには大丈夫だぜ!」
「···うん!かえろ!パパ!かたぐるまで!」
「おまっ!?この状況でそんな余裕ねぇだろ!?」
「じゃあ···、そんなじょうきょうじゃなくす!」
フーはかえるんだもん!ちからをつかう!でも···、こんどはいうこときかせる!
夢の中でフーは見たことない神狼族に囲まれていた。助け出したところで、フーは亡霊の神狼族に対して力を···、開放した!!
フーの目がいつもよりも金色に輝く!そして!溢れ出す魔力を両腕に集中させて···!?そ、それってまさか!?
「いっくよー!リナおねえさんじきでん!どらごんきゃのんーー!!」
『皇女ーー!?···』
亡霊が吹き飛んでしまったな···。この魔法ってドラゴン族のだろ?何でフーが撃つんだよ!?
フーちゃんの力が解放されたことで、過激派の神狼族の亡霊がフーちゃんにタカってしまいました。しかし、そこはヨウくんが助けに入ります!普段はナツちゃんの尻に敷かれてますが、こうしてやる時はやるんですよ。父親としての威厳を見せましたね~。
この展開はナツちゃんとヨウくんが結婚してお子さんが生まれた時に思いついたものでした。何かしらのきっかけで力をコントロールできるようになればいいなぁ~と考えた結果がこれです。本作ではあんまりシリアスな展開にはしたくないので、結構あっさりとしてると思われますが、その点はご容赦ください。
さて次回予告ですが、ヨウくんがフーちゃんを迎えに行ったおかげでフーちゃんは目を覚まします。そしてアキくんがお店の修理を手配し、お店の復旧作業が完了して営業再開という形でナツちゃん編の前編は完結となります。少し短いお話ですが、ナツちゃん編のエピローグ的なお話になります。
明日は作者が夜勤なので朝に投稿します。それではお楽しみに~!




