ナツ編-07 テイクアウト始めました
バッツが入った事で店は3人体制になった。
ある程度、店での対応に俺たちも慣れたことから、以前あいつが言っていたテイクアウトを始めることにしたんだ。これは常連客からも常連じゃない客からも要望が出ていたんだよなぁ~。
『散歩道の途中なんだから、気軽に飲食できるといいわね~!』
『いっつもいっつも常連客に予約取られちゃうから敷居高かったんだよなぁ~。気軽に食べれるのはいい事だぜ!』
『店の前に立食できるようなスタンドテーブルがあったらいいよなぁ~』
『ハァハァ···、ナツたんの新メニュー!?当然!ナツたん手渡しだよな!?手渡しついでにナツたんと握手ぅ~!ハァハァ···』
みんな好意的に捉えてくれたようだ。まぁ、実際にやってみないとどうなるのかわからないけどな!
···最後のヤツは以前に記憶消したんだが?なんで記憶が復活してんだ!?もしかして、新しい記憶でもこうなったって事か!?こりゃ、あいつの兄貴に見つかるのは時間の問題か···。まぁ、その時はその時だ。警告はしたからな。
今回は受付カウンターの窓側にカウンターを新設した。厨房ともつながっているから、できたての飲食物を渡せるって作戦だ。これもアキさんの世界の飲食店である『どらいぶするう』ってヤツをあいつが参考にしたらしい。···『どらいぶ』って何だ?
さらには厨房からカウンターまでの間に薄くてものすごく磨かれたツルツルの板が敷かれた。どうもこのツルツルの板の上に食品を滑らせてカウンターまで運ぶんだとか···。これもアキさんの世界の『ふぁすとふうど店』では当たり前らしい。···『ふぁすとふうど』って何だ?
とりあえず物は試し!ってことでやってみることになった!もちろん、事前にオーダーとって食品を投げてカウンターで受け取って客に提供ってのは予行演習したぞ!なかなか楽でいいんじゃないか?
テイクアウトは簡単に提供できる飲食物だ。ホットドッグ?っていうパンにソーセージを挟んだものと、ハンバーガー?って言うらしい2枚のパンにあつあつの『なにかわからないけどおいしそうな魔獣のお肉』をはさんだものの2種類だ。こいつは多分、先日畑の外周にいてオレが退治した魔獣だろうな。俺が解体したからな。
ドリンクはカウンターで持参の水筒に入れて手渡しする方式だ。いちいちコップまで渡してたら値段が跳ね上がるからな!
外には空き地にイスがないスタンドテーブルを10個用意した。ごみ箱は注文カウンターのすぐ脇に用意した。
「···じゃ、開店しよっか」
「いつも思うんですが、ナツちゃんはさりげなく分身の術を高度に利用してますよねぇ~。こんな分身は里出身の者でもできないですよ」
「それができてなきゃこの店は成り立ってないからなぁ~。よし!じゃあ始めるぜ~!」
今回は事前にいつテイクアウトを始めるかは周知してなかった。ただ、ちょっとした工事をやってるのはみんな知ってたから、開店してちょっとしてから来店客が増え始めた!
どんどんオーダーが入ってくるが、なんとか捌けてるな!バッツも、店内が落ち着いたら応援に回ってきてくれた!オーダーしている間にもあいつがどんどん作っていくから提供が追い付かなくなってきたからだ!···俺も分身の術を使えるようにしよう。
10用意したスタンドテーブルはあっという間に満席···、イスがないからどう表現したらいいんだ?まぁいいか!残りは遊歩道で適当に座り込んで食べているな。
確かにこれはゴミ問題は出るわ。ゴミ箱用意したけど、遊歩道上で飲食する客はゴミ箱まで持ってこないよなぁ~。家に持って帰るならいいんだけどな。
昼過ぎ。
だいぶ客足も落ち着いてきたので、いったんテイクアウトを閉めることにした。ゴミの状況を確認したいしな!
あいつの予想通り、遊歩道にはゴミがあったわ···。まぁ、この時間なら回収は可能だから、これからやることにしようか。
でも、あんまりやってるところを見られると『ポイ捨てしたら回収に来てくれる』なんて思われたらマズいよなぁ~。気配消して隠密行動で回収するか!いい訓練にもなりそうだな!一応店の前にもポイ捨て禁止の看板を出しておこう。
滑り出しは順調!ただ···、それも1週間だった。
こっちも口コミで大勢の人が長蛇の列を作ったんだ!手軽な料金だったからレストランよりも人が大勢来たんだよ!う~ん···。順調すぎるのもよくないよなぁ~。
まぁ、レストランよりは客が捌けるのは早いんだよな。最近はもう作り置きしておいて渡すようにもなったからな。売上的には半々ぐらいにまでなってしまった。安くても超高回転だから数で稼いだようなもんだよなぁ~。
さて、明日はやっとこさの定休日だ!最近動きっぱなしで疲れ切ってたから、そろそろ休みたかったんだよなぁ~。
そう思ってたところで、あいつは今日も夜のお仕事をやるつもりのようだった。しかし···
「今回はオレとヨウさんだけで行きますよ」
「はぁ?なんでこいつは行かないんだよ?」
「ヨウさん···。本当に気づいてないんです?」
「はぁ?何を?」
「ヨウさん?ナツちゃんのおなかには、赤ちゃんがいるんですけど?」
···は?···今、なんて?···あいつのおなかに、赤ちゃんだって!?
「ちょ、ちょ、ちょっと待て!な、なんであんたがそんな事知ってんだよ!?」
「気配でわかりませんか?ナツちゃんのおなかからかなり強そうな魔力が発せられてるのを。この状態でここまで魔力を感じさせるなんて、強そうな子が生まれそうですねぇ~!」
バッツからそう聞いて、俺は集中して手をあいつのおなかに当てた。···確かに魔力を感じるな。···マジかよ!?赤ちゃんできちゃったのかよ!?
「そういうわけですから、ナツちゃんは無理してはいけません。まぁ、それでも大丈夫だとは思いますけど、念のためね。···ヨウさん?どうしました?···あぁ~、やっぱり今日は中止しますか。この体たらくでは無理ですね」
結局、俺がパニックになってしまい、夜の仕事は中止となった。
多少余裕が出てきたからテイクアウトを始めたナツちゃん。まったく余裕のないヨウくんに対して厳しいですね~。
そして常連客の中にはすとーかーさんが常時登場するようになりました。最初はネタとしてモブキャラで登場したのですが、最近常連さんの仲間入りしていますね。記憶を消したはずなのにそれまでとまったく行動と言動が変わっていません。ちなみにこの後も何度も登場してしまいます!準レギュラー化していきますし、とんでもない秘密まである事になってしまいます。作者も想定外のモブキャラに育ってしまいました。
さて次回予告ですが、ナツちゃんとヨウくんにお子さんが誕生します!そして3年が過ぎて物心がついてしばらくすると、本編のエピローグで先に紹介した『状態の共有』の能力が開花します!どんな能力の使い方をするんでしょうね?
それではお楽しみに~!




