ナツ編-22 フー、初めて裏のお仕事を体験する 後編
何かと怪しい『飲食店組合』の事務所を、深夜調査にやってきた俺たち一家。フーがあいつの鍵開け魔法で開錠して中に入ってみると、2階に上がる階段にワナが仕掛けられていた。
さてと···。こんなワナを仕掛けているって事は、ここから先には見られたくないってものがあるのはほぼ間違いなさそうだぜ。そんなものがなければ扉にカギかけるだけだからな。···もしくは、忍び込まれるかもしれないって思われてるってこった。
まぁ、『深夜に悪党に正義の鉄槌を下す正義のヒーロー、また現れたか!?』なんて記事が新聞に載ってしまって、最近は結構人気になってしまってるんだよなぁ~。コレ書いた記者って、絶対うちの常連客だろうなぁ~。俺たちってバレてないけど、敢えて疑問形で書いてるって事は『あくまでウワサの範疇』って意味合いなんだろうけどな。
おっと!話が逸れたな。じゃあ、さっさと2階へ上がるとしますかね···。
先頭はあいつ、続いてフー、最後が俺だ。···決して俺が役立たずだからって意味じゃないぞ!!
2階は階段上がってすぐが休憩所、その隣に事務所があるみたいだな。まぁ、休憩所はなしだ。まず忍び込むのは事務所だな。この事務所の扉も施錠されてたってことは相当見られたくないんだろうな。こっちもフーが開錠魔法で簡単に開けてしまったな。もはや何でもありだな···。
事務所内は机の上に書類が無造作に山積みにされてるな。うちはあいつがキレイ好きだから整理整頓がきっちりされてるし、どこに何があるかがすぐわかるようにされてるから、この状況を見ると頭が痛くなるぜ···。この中から目的の裏帳簿を探すんだよな?これはちょっと大変だぞ?
「(おい?かなりいっぱい書類あるぞ。そんなに時間はかけられねえからどうするよ?)」
「(···ナツとヨウで調べる。···フーは他の部屋を調べて)」
「(承り~!)」
「(フー、気をつけろよ!)」
···ホント、フーはどこでそんな言葉を覚えるんだよ?いや、それどころじゃねえな!この大量の書類の中から目的の裏帳簿を探さねえとな!
1時間後···。
「(おい?見当たらねえぞ?ここじゃねえのかもな)」
「(···かもね。···金庫の中も確認したけど、それらしいものはなかったね)」
「(以前あった大臣のような隠し部屋があるのかもな)」
「(···その可能性を考えてフーに探させてる)」
「(おまっ···!?他の部屋ってそう意味かよ!?)」
「(···その話をしてたら戻ってきたね)」
あいつと話してたら、フーが戻ってきた。···なんだかウキウキな笑顔なんだが?
「(あったよ~!狭~い隠し部屋にあった~!)」
「(おっ!でかしたぞ!)」
「(···場所を案内して。帳簿の内容をスマホで写真撮る)」
「(うい!)」
フーが見つけた隠し部屋は、なんと最初に候補から外した休憩室にあったわ!誰か知らんヤツの肖像画のデカい額縁の裏に小さなカギ付きの小さな扉があり、そこの中にあった。
あいつがスマホで写真を撮りだした。しっかし、ホントにこのスマホって便利だよな~。アキさんってこんなものがほぼ全員が当たり前に持ってるような世界から来たって話らしいな。とんでもない世界だな~。
30分後、あいつが撮影を終えた。
「(···ん。終わった)」
「(じゃあ、元に戻してとっとと帰るぞ!)」
「(あいあいさー!)」
開けたカギは元通り施錠して···、って!フーが施錠魔法まで使いやがったわ···。もう驚かなくなってきたなぁ~。
そして帰ろうとしたところ···、
「ちょっと待ちな」
いきなり後ろから声をかけられた!振り向くと、そこには小柄な少年がいた!?俺たち誰も気づかなかったぞ!?何者だ!?
「あんたたち、ここで何やってたんだ?って、だいたいはわかってるんだけどな。···ちょっと付き合ってもらおうか?ここじゃ目につくからついて来いよ」
「(おい、どうする?)」
「(···言う通りにする。···向こうの目的も知りたいし、おそらく逃げ出してもこのままなら振り切れない)」
「(フーもママと同じ。『本気』出したら振り切れるけど)」
「(仕方ないか···。仮にここで戦闘になったら被害が出るからな。今はあのガキの言うとおりにするか)」
そして着いたのは森の中だった。まぁ、ここなら人目にはつかんから多少暴れても問題ないか。
「ふふっ。逃げもせずにちゃんとついてきてくれたか」
「おい?いったい何が目的なんだ?俺たちにか?それともあそこの事か?」
「両方···、と言ったほうがいいかな?」
「なに?てめぇ···、何者だ?」
「そうだね···。まずは名乗ったほうがいいかな?ボクはグローっていう者だ。キミたちに危害を加えるつもりはない。ただ、あの組合の裏帳簿のデータを渡してほしいだけだよ」
「そこまで知ってるのか。何もなしに渡すとでも思ってんのかよ?」
「まさか。それなりの謝礼はもちろんさせてもらうよ。なにも全部持っていくわけじゃない。さっき言っただろ?『データ』が欲しいって。コピーしてボクのスマホに送信してほしいってだけさ」
「お前!?まさか神器を持ってるのか!?」
俺が聞いたら、グローはポケットからあいつと似たスマホを取り出しやがった!コイツ···、少なくとも神の遣い以上の存在だ!俺が最大級の警戒をしたその時、あいつがグローに話しかけた!
「···ナツって言う。···データを渡してどうする気?」
「簡単に言えば、ここにボクの世界から忍び込んだ神がいるんだ。どうもここの飲食店組合と関係があるみたいでね。それで忍び込もうとしたらキミたちが先に入っていくのを見ちゃったのさ。遠目から見ていたけど、この世界でずば抜けた実力を持ってそうだったし、中で暴れるわけにはいかないから待たせてもらってたのさ」
「···外の理の者?」
「ここではそう言うらしいな。その通りだぜ」
「ばかな!?神が『ふぁいあーうぉーる』っていう防壁を築いているんだぞ!?外の理の者は入ってこれないはずだぞ!?」
「···なぜキミがファイアーウォールを知ってる?キミも神の関係者か?」
「俺はヨウ。この世界の神に選ばれ、世界のバランスを保つ整調者だったんだよ」
「ほう···。この世界にも防衛機構が存在していたんだな。まぁ、簡単に言えばあのファイアーウォールにも『抜け道』ってのがあるのさ。まぁ、それなりに厳しい条件はあるけどな」
「なんだと!?」
「あのファイアーウォールは『悪意のある、一定以上の強者』は完全に弾かれてしまうのさ。その条件を外れれば入れるのさ。その条件を外すためには力のほとんどを放棄してしまうって事だな。それも正式な手続きをすれば造作もなくなるがな」
「正式な手続きだと?」
「この世界の神が承認するって事さ。今回は特別だけどな」
「あの野郎···。おい、どうするよ?」
「···いいよ。エレさんが認めてるならね」
「信用してもいいのかよ?」
「···うん。···今、ナツのスマホに表示されているアドレスでいいの?」
「話が早くて助かるね。···OKだ。ありがとな!」
「おい?さっき謝礼って言ったな?タダで帰るつもりか?」
「いや、ちゃんと支払うよ。ナツさんの口座に···、今振り込んでおいたよ」
「···ん。確かに。···ちょっと多いけど?」
「手間賃みたいなもんだ。そう言えばキミたちは飲食店やってるらしいね。機会があれば寄らせてもらうよ。それじゃ」
そう言ってグローは姿を消した。あんなヤツまでいるのかよ···。
その後、裏帳簿はエイルを通じて依頼主に渡して組合の幹部は全員が逮捕された。『特定の人物に献金』してて、見返りにヤバいクスリを受け取ってたらしい。組合は解体されたらしいぜ。特定の人物ってのが異世界の神なんだろうな。その人物の追跡とクスリの回収は無理だったみたいだぜ。
しかし···、あのグローってヤツは正体がよくわからんな。まぁ、寄るって言ってたって事はまた会う機会があるんだろうな。そう思ってたら、ラストオーダー直前に予約なし客でやってきた!
別の世界から来たという少年、グローくんが登場しました。名前の元ネタは蛍光灯を点灯させるのに必要な『グロー』ですね。点灯に必要な高電圧を発生させる回路なんですね。グローが必要ない『ラピッドスタート式』というのもありますが、すでに製造が終了してまして、全てLEDに置き換わっていきます。
あと10年もしたら蛍光灯もロストテクノロジーになってしまう勢いで、ホント時代が進むのが速く感じてしまいますね。
さて次回予告ですが、予約なしでナツちゃんの店にやって来たグローくんですが、さりげなく提供した酒で少々酔っ払って正体を明かしてしまいます。彼の正体とは一体何なのでしょうか?
それではお楽しみに〜。