3話「二度と現れないで」
その後父の暗躍によってウェッジは失職することとなった。また、それと同時に婚約破棄に関する件についての情報も世に流れ出てしまって。彼は仕事を失うだけでは済まず、評判までも悪化させることとなってしまったのだった。
また、ちょうどその頃から、モルフィアとの関係をいまいち良くないものになっていってしまったそうで。
彼はモルフィアから「仕事を失うなんてどういうこと! ダサすぎ!」「失職している人と関わってるなんて、こっちまで悪印象になっちゃうじゃないの! 許せない! 最低な男!」などと口で責められるようになっていったそうだ。
で、段々ウェッジは彼女を愛さなくなってゆく。
――そして、ある夜。
ウェッジはモルフィアを殺めた。
毎日のように責められ罵倒されていたウェッジは彼女と一緒にいることに耐えられなくなり、夜散歩中に近くにいた彼女を石の階段から突き落とし――事故に見せかけて殺めたのだった。
そして、それから数日後。
「久々だな」
「ウェッジ……」
彼は私の前に現れた。
「モルフィアは駄目だった、あいつは顔だけのクズ女だった。だからさ、悪いけど、もう一度僕と婚約してほしい」
平然とそんなことを言ってくる彼は気まずそうな顔はしていない。
「悪いけれど、無理よ」
ここはきっぱりと。
「なぜ!? まだ一人なのだろう!?」
ウェッジは驚いた顔をする。
ちょっと言えば私とよりを戻せるとそう思っていたのだろうか? 私が今も彼を想っていると、彼を待っていると、少しでもそう考えていたのか? だとしたら彼は馬鹿だ。馬鹿の極みでしかない。
「……貴方は彼女を選んだのでしょう、今さら私に寄ってこないでちょうだい」
「君の良さが分かったんだ!」
「だとしても、私は貴方とは関わりたくないの」
「なぜだ!?」
「私は貴方のことが嫌いよ、もう一生会いたくないわ」
すると彼は頬を張ろうとしてきた――が、駆けつけた父がその手を掴んで止めてくれた。
「何をしようとしたんだ!!」
父は激怒。
「えっ……い、いや、ちが、違って……」
「我が娘に触れるな!!」
「だ、だから、違……」
「張ろうとしただろう! 頬を! 見逃しはしない!」
そしてそのまま追い出すようにウェッジに近づいていく。
その圧で彼は自然に下がっていった。
「二度と娘の前に現れるな」
父が低い声を出せば、ウェッジは一瞬だけこちらを睨んで去っていった。
それはまるで、絵本の中の悪者が怯え逃げ去ってゆくシーンのよう――どこまでも情けない後ろ姿であった。
「大丈夫か?」
「うん、何もない」
「良かった」
「うんありがとう。鬱陶しかったから助かったわ」
ふん、と息を吐き出す父に、私は軽くだけ礼を述べた。
モルフィアと上手くいかず彼女を仕留めるところまでやったとは聞いていたけれど、まさかまた私の前に現れるなんて思わなかった。それはさすがに想定外で。だから自力では最善の対処はできなかった、けれど、父がサポートに入ってくれたおかげで無事追い払うことができた。
ああ、良かった……。