2話「親に話す」
「婚約破棄された……」
両親がいる家へ帰り、真実を述べる。
隠しても無駄。
だって意味なんてないから。
だから早めに正直に打ち明けたのだ。
「何ですって!?」
「そ、それは、本当なのか!?」
母も父も大層驚いていた。
無理もない、つい先日まで婚約したままの状態だったのだから。
「喧嘩でもしたの……?」
「ううん、違う」
「じゃあ一体何が? まさか冗談とかじゃ……」
「女がいたみたい」
「ええ!?」
私とウェッジの婚約が決まった時、二人は喜んでくれていた。だからこそ終わってしまったことを告げるのは胸が痛い。二人が婚約を嫌がっていたのならもっと簡単に婚約破棄となったことを告げられただろう、でも、婚約を喜んでくれていたらその逆だ。がっかりさせてしまうだろうし、上手くやれなかった自分が情けないしで、心には暗雲が立ち込める。
「モルフィアっていう女がいて、ウェッジはその人のことが好きみたい」
もやもやはする。
でも説明はきちんとした。
言いたくもないけれど――でも仕方ない、何事においても説明は大事だ。
「何よそれ! どうして今さら!」
憤慨する母。
その横にいる父は眉間にしわを寄せている。
「あれはもうどうしようもないと思う……だから私、身を引くわ」
「アイリスが引く理由なんてないでしょう!?」
「でも……たとえ私と結婚したとしても、彼は彼女と会うでしょう。それもきっと長い間。不倫されることを分かって結婚するくらいなら……今のうちに離れて別の未来を探す方がずっといいわ」
そこまで言った時、父が口を開いた。
「それもそうだな。幸せになれない結婚をする意味なんてない」
口調は落ち着いたもので、しかし、声の奥には怒りの炎が燃えていた。
「婚約破棄でいいだろう」
「あなた! 何を言い出すのよ!」
母はまだ情緒が揺れている。
「落ち着け、何も、ただで捨てられてやるとは言っていない」
「……どういうこと? 何か考えが」
「だから、婚約破棄はそれでいいが、反撃はするということだ」
「反撃……」
喋っているのは父と母。
「ウェッジから仕事を奪う」
「仕事を……! でも、できるのかしらそんなこと」
「やりようはある」
「そうなの!?」
「人脈を使えば、な。彼を失職させることは可能だ。また、評判を下げることだって」
少しして、父と母は頷き合った。
それから二人は同時に視線を私の方へとやってくる。
「それでいいか? アイリス」
父が尋ねてきた。
「……うん」
権力を使うようなことはしたくない、が、それはあくまで相手に非がない場合だ。
「よし! じゃあ早速動く! 娘を悲しませたやつは絶対に許さん」
それからしばらく、私は実家でのんびりと暮らした。
心はまだ明るくはなりきらない。
でも時が経つにつれ少しずつは変わってゆく部分もある。
「アイリス、ハーブティー淹れたからここに置いておくわよ」
「はーい、ありがとう」