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第三話「『リーゴー』とは」

 色々考えた結果、私はまずモアの話を聞いてから考えようと思った。

 そりゃあ、命の恩人なのだから自分の家でもてなしたい。だが、村の中でも噂の種になってしまった彼女を、彼らに説明もしないまま泊めるのは余りよろしくない。なにより、モアには文字通り羽を伸ばしながらまったりしてもらいたいし。モアが何をしたくてあんな事になっていたのかを聞かなければならない。


「モアはさ、なんで天使なのに地上に来たの?」

「来たって言うよりは、元から地上にいたので」

「地上生まれの天使様!?」

「いいえ、とあるハンターの方に召喚されました。力が欲しいとか何とかで……契約のすり合わせで地上にいたんです」

「へー……あいつらと。なるほどぉ」


 そうだったのか、と、私は勝手に腑に落ちる矛盾を眺めていた。何となく親近感が湧き始めてきた自分としては、何だか複雑な気分だった。


「契約が済む前に、今度は海に行こうかなー。なんて思ってます」

「え? 天界に帰らないの?」

「……空と雲と太陽、星と月しかないあんな場所、面白くもなんともないですよ」

「えー!? いいじゃん星! 空! 特等席の中の特等席じゃん!」

「人間はみんなそう言いますよね。でも、地上にはもっと面白い物がたくさんあると思いますよ? ヒスイたち人間は、きっと慣れてしまっているんですよ」


 そんなものだろうか。価値観と生まれた場所の違いがあると、どうにも想像がしにくい……無い物ねだりをするところは、人間も天使も似ているのだろうか?


「じゃあさ、モアは地上のどんな所に興味を持ってるの?」

「そうですね……例えば、『リーゴー』ですかね」

「???」


 いきなりわけわかんない物が出てきた……なんだそれ。私の知らない何かがあるのか? 世界広しといえど、流石にここまで見当がつかない概念と発音があるのか? とりあえず、それの特徴を聞いてみる。


「えっと、それは何色?」

「赤色と黄色です」

「えっ? ……風景とか、建物のこと言ってる?」

「全然違いますよ、しゃくっと……甘くておいしい奴です」

「もしかしてリンゴのこと言ってる?」

「あっ、それです」


 丁度そこに在ったリンゴを手に取って見せてみると、モアはうんうんと頷いてから、リンゴを両手で持った。ゆっくりと匂いを嗅ぎ、それから何も言わず齧りついた。無感情だった顔が、これ以上ないぐらいにニッコリと光り輝く……とにかく、悪い理由で来たわけではなさそうだ。


「ところで、どんな人と契約するの?」

「つまんない人間ですかね。無表情で、無感情で……口を開けば契約の条件を値切ってきます」

「災難だね」

「ほんとですよ。今頃、血眼で私の事探してるでしょうし」

「は?」

「どうかしました?」


 フリーズした思考に喝を入れ、現状を整理する。まずこいつはなんかふらふら飛んでた、その時は一人だった……ってかそもそも天使って一人で歩いてて大丈夫なんだっけ? なーんか複雑な約束とか決まりがある事を小耳にはさんだことがあるようなないような……。


「……もしかして、こっそり抜けて来た?」

「よく分かりましたね。なんだか大きな壁が邪魔してたので、夜中にこっそりと飛んできました」

「はあぁぁ!? それってハンターの本拠地じゃん! ってことは幹部クラスのハンターが、あんたのことを探し回ってるってこと⁉」

「そうですね」

「そーおーでーすーねぇじゃねぇでしょ! はぁ、あんたさぁ……私はあんたのこと嫌いじゃないし、むしろ友達になりたいと思ってるよ。でも、そんなに大事なことどうして言ってくれなかったの?」

「いえ、ヒスイも『狩人』だと思ってたので……」

「~~それなら仕方ないっ! 明日送ってあげるから、しっかり話しつけてから来てよね!」

「でも……」


 モアが口を開きかけた所で、私の耳には「助けて」という声が聞こえて来た。――まただ、『竜骸』が来たのだろう。先程殺した獲物の血を拭き取ってすらいない槍を握り直し、私はモアに背を向けた。


 がちゃん。寂しい音が後ろに響き、私は目視した『竜骸』に向かって走り始めた。脳裏には、何故かもの言いたげな、モアの暗い顔が繰り返し写されていた。


(今生の別れじゃないんだから、あんな顔しなくてもいいじゃん……)


 少し言い過ぎたかもしれない。そう思いながら、私は目の前の『竜骸』に向かって雄叫びを上げた。それでも胸の中の罪悪感と、無駄に当たる嫌な予感は吐き出せなかった。


 翌日、私は村長から借りた馬を走らせた。行き先はハンターの総本山……英雄ジグルドが生まれ育った『バルムンク王国』だ。


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