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第十話「目覚め」

 目覚めると、そこはベッドの上だった。

 豪華で整っていて、あの村にある自分の部屋なんかよりも……ずっとふかふかで、綺麗で、何より呼び出しの声が聞こえてこない。朝だろうが夜だろうが、お構いなしに助けを求めてくる馬鹿共もいない……。


 その代わりに枕元には、私の目覚めを健やかに待っていてくれる人がいた。


「おはよう」


 肩が震える。もぞもぞと蠢き、やがて面を上げた。

 虚ろで充血した目、むくんで腫れた顔、プルプル震える唇と青ざめた顔。私はそれがとても申し訳なくて、でもとてもありがたい事だとすぐに分かって……。こっちを見つめる彼女の目が大きく見開かれ、やがて表情筋と共にしぼんでいき……火の玉みたいに真っ赤な顔から、ぽろぽろと言葉が溢れて来た。


「……ヒスイっ……!」

「あー泣くな! 泣くなって! ほーらせっかく綺麗な顔してるのに滅茶苦茶じゃん! ほーら笑って~? ほらほら! あんな所に死んだはずのジークがいるよー!」


 ベッドの上に乗り出してきたモアを撫でながら、不快そうな顔をしているジークを見ている。溜息をついて、私の病室に入って来る。あっ、椅子に座って音がした!


「……死んだはずのジークだぁ」

「死んでねぇよ。ってか誰のおかげで死にかけたと思ってんだお前!」

「ごめんごめん! いやぁおかげでこの通り、感動的な再開をするヒスイとモアちゃんなのでした~めでたしめでたし」


 椅子ががたーん! ジークは拳を握るが、私の体をじろじろ見た後にやめた。元々腕のいいハンターだったというのは本当らしい、直接見なくても私の顔色だけで事態を察したらしい……舌打ちをして最後、私から目を背ける形で椅子に座り直した。


「お前の言うとおり、これでハッピーエンドなら良かったんだけどな。……どうもそういう訳にはいかなそうなんだよ」

「あちゃー……私も年貢の納め時かぁ」

「そう、観念しなきゃいけねぇ。今日から俺たち三人組は、仲良くハンターとしてチームを組む事になる。給料は安いし、命がけの仕事だ」

「ふんふんなるほど……っておい、私が処刑されるとかそういう話じゃないの?」

「取り合えず殺されることは無いらしいぜ? なんでもどっかのお偉いさんが、俺たちの事を気に入ってくれたらしいんだ。腕のいいハンターとして、俺たちを雇いたいって……まぁ多分、お前の名前が役に立ったんじゃねぇの?」


 とまぁ表面的な理由は予想通り。恐らくそのお偉いさんは、私が『竜の心臓』を宿している事を知っているのだろう。兵器としてなのか、はたまたえげつない実験でもする気なのか……村から出てきた時点で覚悟してはいたが、やれやれ心が休まらない日々が始まりそうだ。


「俺はこの『バルムンク』の所有者として、お前は英雄の娘として。モっ……そこの天使さんは、お前の契約天使として。……まぁ正直、俺と天使さんはおまけだな」

「へぇ? 七光りの私よりお前の方がウェイト重くない?」

「……単独で『陸王』をミンチにした女に言われたかねーよ」


 あー、なるほどね。それならまぁ、心臓がらみじゃないかも……いやどうだろ、雇った人間が誰かにもよるけど。そうだ、それを聞かなければ。鼻水まみれのモアにティッシュを差し出しながら、私はジークに尋ねた。


「知らねぇ。これから会いに行く事になってるけど、お前は……来ないよな」

「ううん、いく」


 正直、体はズッタズタだ。久しぶりに『竜の心臓』をフルで使って、血管という欠陥が痛んでしまっている、おまけに『竜化』も進んでいるのか、皮膚の表面が硬くなっている気がする。それでも、これからしばらく心臓を使わなければ、どうってことないレベルだ。


「ひっく。ヒスイ、体は……」

「そろそろ泣き止んでよ~。大丈夫! 私はね、体が滅茶苦茶丈夫なことが取り柄だったの! こんなの、明日には治ってるよ!」


 不安は消えてない、しかし少し安心したのか……モアは初めて口の端を上げてくれた。それがとても綺麗で、嬉しくて。でもちょっと恥ずかしくて、目を逸らしてしまった。


「よし、私たちを助けてくれたお偉いさんに会いに行こうじゃないか!」

「あっ、あんまり無茶な動きはしないでくださいね⁉ ヒスイ! ちょっと……廊下を走らないで下さい!」


 嬉しくて、楽しくて。めっちゃ体が痛いのに元気が湧いてくる。心配してくれる人が居るんだ、気を付けてねって言ってくれる人がいるんだ……これから一緒に居られるんだ。いいや浮かれるな、ヒスイ。今度こそ心臓に頼らないで、守り切るんだ。


(傍にいてくれる、それを守ることができる!)


 頭の中で、声はまだ私を掴んで離さない。それでも、手を伸ばせる希望がある事は、とても喜ばしい事だと思った。


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