第12話 参戦決定
エルシュラを連れて26階層を半日かけてダンジョンから帰還した。
「ごめんね、あまり役に立てなくて。」
「まあ、構わないさ。」
「狭いとこだと、シルは力を出せないんだよね。」
「風の精霊だからなのか?」
「そ、風を操るから、どうしてもね。」
「風を生み出す事はできないのか?」
「できるけど、大変なんだよね。それに今はシルも魔力が無いから。」
「・・・、なあ、エルを治療してた時に流れて来た魔力はシルがやったのか?」
「そ、シー君が魔力が足りないって、言ったからだって。」
「そうだったのか、助かったよ。魔力が足りなくて、治しきれない所だった。」
「あはは、お礼を言うのはこっちだよ。シー君が助けてくれなきゃ、・・・死んでたんだから。」
「そ、それで、エルはこれからどうするんだ?」
「そね。・・・ギルドで報告をして、あとは依頼主さんがどうするか、だね。」
「そう言えば、エルはギルドカードも無いよな?」
「あ!そだった。・・・どうしよ。」
「それなら、貸しといてやる。」
「え!?いいの?これ金貨だよ?」
「折角助けたのに、路頭に迷われても寝覚めが悪いからな、機会があったら返してくれれば良い。」
「ううぅ、ありがと。絶対に返すからね。」
「あまり気負うなよ、それにその服もどうにかした方が良い。」
「そ?可愛くない?」
「そのワンピースじゃ丈が短い。それに冒険者がそれじゃまずいだろ?」
「あはは、そだね。シー君にお金を返すためにもね。」
「ああ、頑張れよ。じゃあな。」
「うん、またね、シー君、ヴァルちゃん、スーちゃん。」
「おう、エルも頑張れよ。」
「エル、頑張れ。」
冒険者ギルド・ヘリスト・ダンジョン支部・買取室
「お待たせしました。おや、シロウ様、お戻りになられたのですね。」
「ああ、まぁ、色々と大変だったが、聖銀の武器は作って貰えたよ。」
「それは、おめでとうございます、これでシロウ様もAランクの昇格が見えてきましたね。」
「ん?何故Aランク?俺はまだCランクだぞ?」
「ああ、シロウ様はご存じではありませんでしたか、Aランクの依頼には鉄や魔鉄で作られた武器では通用しない魔物が多いのですよ、ですからBランクになると聖銀で作られた武器を入手してAランクを目指すのです。」
「重鉄はダメなのか?」
「いえ、硬度は聖銀と同じですが、重量がありますので普通は鉄と同じ重量の聖銀を選ぶのですよ。」
「そうなのか、勿体ないな。重さも武器になるのに。」
「それはそうですが。扱えなければ意味がありませんから。」
「そうか?扱えないほど重くは無いと思うんだが。」
「・・・シロウ様は、その、少々見た目にそぐわぬ力がある様で。」
(ぐはぁ!?ま、またか、アールノにまで身長を・・・。)
「そ、それで、買取を頼む。今回は魔石が59個だ。」
「か、畏まりました。確認させて頂きます。」
互いに動揺してしまったが、魔石の買取を頼んだ。
今回は21階層から24階層の魔石だけを出して残りは仙境の動力にする。
「確認できました。魔石が総数59個で、金貨2枚と銀貨2枚に銅貨5枚になります。」
「ああ、いつも多くてすまないな。」
「いえいえ、多い方がギルドも助かりますので。特に今回の事で暫くは買取も減りますからね。」
「そうだった、今回の参加者から買取はできるのか?」
「ええ、争奪戦では貴族の関係者以外はダンジョンに入れなくなるので、参加者の方たちには魔石と素材は全て提出してもらう取り決めになっております。」
「アイテムは提出しなくて良いのか?」
「アイテムに関しては冒険者の方も必要でしょうから、不要な物だけですね。」
「なるほどね。けど、魔石は不足するかもな。」
「ええ、不足分は他国からの輸入になるでしょうが、それは国が対応する事ですから、私たちが気にしても仕方がありません。」
「そうだな、あとは早く終わる事を願うしか無い。」
「ええ、そうですね。」
「それで、争奪戦中は俺たちもダンジョンに潜れないから、今後どうするか決めて無いんだ、潜れる様になったらまた来るかも知れんが。」
「シロウ様は冒険者ですから、したい事をすれば宜しいかと。」
「ああ、そうさせてもらう。じゃあ、俺たちは帰るよ、ではな。」
「はい、またお越しになるのをお待ちしています。」
買取を済ませてギルドを出ると、そのまま領主邸に戻った。
「シロウ様お帰りなさいませ。」
「ただいま、エンロンさん。何か変わった事はあるか?」
「いえ、今の所はありませんが、シロウ様がダンジョンに潜られている間に、参加される貴族家の方々が集まっております。」
「どのくらい集まったんだ?」
「そうですね、公爵家の2家と侯爵家の4家は既に到着しています、伯爵家以下は30家ぐらいでしょうか。」
「へぇ、結構集まったな。」
「ですが、これらの貴族様方は王都で役職についている方々が中心ですね。領地を治める貴族家の方は開始後に到着されると思われます。」
「そうか、まぁ、出遅れるのは仕方が無いな。」
「そうですが、そうなると宿泊場所が無いので。」
「それで文句を言うなら帰らせれば良い。ヘリスト家は他の貴族家にチャンスを与えたんだ、開催時期は国王の判断なのだから、その事に関しては国王に言え、と伝えれば黙るだろう。」
「ふふふ、シロウ様にかかると国王陛下も、おっと、失礼しました。」
「ははは、俺の住んでいた所では”立ってる者は親でも使え”って言葉があってな、気にしてたら身動きが取れなくなる。」
「ほう、それは、便利な言葉ですね。ですが。」
「分かってる。これは目上の人に使う言葉じゃない。言葉の綾と言うやつだ。」
「これは、出過ぎた真似でしたね。」
「良いさ、それじゃあ、俺たちは休ませてもらう。」
「はい、お疲れさまでした。」
そして部屋でくつろいでいると、エンロンが部屋にやって来た。
「シロウ様、御当主様がお呼びです。応接室にお願いします。」
「ああ、分かった。何かあったのか?」
「お客様が参られまして、その件だとは思いますが。」
「客?誰だ?」
「申し訳ありません、私もシロウ様を呼ぶように言われただけですので。」
「そうか、ヴァルマとスヴィは待っててくれ、ちょっと行ってくる。」
「おう。」「うん。」
エンロンの言う客が誰なのか分からないので、2人は部屋で待機させた。
「シロウ様をお連れ致しました。」
「おう、入ってくれ。」
「失礼します。ん?あれ、エル?」
「お?シー君だ。」
応接室にいたのは領主のアルマスとエルシュラだった。
「何だ?2人は知り合いか?」
「いや、知り合いと言うか。」
「領主さん、あたしを助けてくれたのがシー君達なんだよ。」
「へぇ、そうなのか。・・・ん?お前達26階層まで行ったのか?20階層から潜ったんじゃないのか?」
「あ、ああ、まぁ。何とか26階層まで行けたんだ。」
「そうか、26階層まで、か。・・・。」
「それで、どうしたんだ?」
「ああ、それがな・・・。」
アルマスが言うには、今回のダンジョン争奪戦でキスティの護衛をエルシュラ達のパーティに依頼していたらしい。
だが、争奪戦開始前にパーティはエルシュラを残して全滅してしまい依頼を受けられなくなった。
その事を報告する為にエルシュラは依頼主であるアルマスに会い来たそうだ。
「そうだったのか。それで、何故俺が呼ばれたんだ?」
「あぁ、お前達は3人だろ?そこにエルシュラを加えてキスティの護衛としてダンジョンに潜ってもらえないかと思ったんだよ。そうすりゃ、エルシュラも依頼破棄で失点にならねぇからな。」
「え、依頼破棄で失点って何の事だ?」
「なんだ、シロウは知らなかったのか?指名依頼や個別依頼の破棄はギルドの信用に関わるから失点になるんだ。この失点が増えると降格する事もある。」
「そだよ、すぐじゃ無いけどね。」
「個別依頼ってキスティさんの護衛が始めてだから知らなかった。」
「始めてって、シロウはCランクだよな?昇格の時に説明されなかったのか?」
「・・・、いや、説明されて無いな。」
「はぁ、まあ、それは後でギルドに報告しておく。」
「そうか、まあ、あの時はちょっとあったから、忘れてたんだろう。」
「そうなのか?まぁ、それでも説明は必要だからな。それで、話しを戻すが、この依頼を受けてくれるか?依頼金は1日金貨1枚で総額白金貨6枚だ、これは早く終わってもこの金額を払う。」
「・・・・・・、16~19階層までなら。」
「16~19か、26まで行けるんじゃないのか?」
「俺たち3人だけなら行けるが、キスティさんは。」
キスティの実力は耐火能力のある装備を纏ってようやくベアに勝てる程度だ。
ヴァルマやスヴィに比べると弱く索敵などの能力も無い、19階層までならばともかく21階層から下は戦力として当てに出来ない。
つまり、それ以上潜るのならキスティの護衛に人数を割く必要がある。
(・・・仙境を使えるならそれでも良いが。・・・ダメだな。)
「いや、19までだな。」
「・・・だが、それだと見つかる可能性が少ない。他の貴族共も16~19階層を探すだろうしな。」
「誰も見つけれらなければ良いんだから、それでも良いのでは?」
「・・・ベリザリオは26階層に行くはずだ。あいつらには子飼いのAランクがいるんだ。」
「Aランクか、そいつらなら26階層に行けると?」
「ああ、それだけの能力はあるはずだ。そうなるとベリザリオが単独で26階層で探索する事になる。」
「他の貴族達はAランクを雇ってないのか?」
「それが、辞退したりパーティが行方不明になっていたりで、どうなるか分からんのだ。」
「辞退に行方不明って、まさか。」
「さあな、分からんが、今はっきりしてるのはベリザリオは26階層に行けるだろう、って事だ。」
(他の貴族が16~19階層でベリザリオだけが26~29階層、確かに不利な状況だ。唯一ヘリスト家は誰も見つけなければ現状維持ができる。)
「シロウ、もしシロウ達が複合スキルカードを見つけたら”これ”をやる。」
「ん?何だこれは?」
「こいつは・・・。」
アルマスが取り出したのは液体の入った2つの小瓶だ、これについて説明されると、俺にとって喉から手が出るほどに欲しい物だった。
「良いのか?」
「ああ、俺は領主だからな、場合によっては必要になるんだ。」
「・・・引き受ける前に聞きたいんだが、秘密を守る契約とかはあるか?」
「ん?そりゃ、あるが。それがどうした?」
「俺のスキルを話すが、それを洩らさないで欲しいんだよ。」
「シロウのスキル。・・・それを守れば26階層に行けるんだな?」
「ああ、複合スキルカードが見つかるかは別だが、必ず行ける。」
「・・・分かった。」
そして、アルマスとキスティそしてエルシュラの3人と機密保持契約を交わした。
契約内容は、俺のスキルを他者に洩らさない事、そして、そのスキルを己の為に利用しない、また、そうなるように仕向けない事だ。
この契約は奴隷契約などと違い特殊な拘束力は無いが、契約が破られた際には契約書に書いてあるサインが赤くなり違反したかどうかが一目で分かるらしい。
(・・・これで完全に防げる分けでは無いが、・・・それよりも。)




