第11話 エルシュラ・ハートリー
不思議な感覚の元を探して26階層を進んで行く。
「・・・こっちか?」
「シロウ、分からないのか?」
「それが、何となくしか分からないんだ。周辺感知にも反応は無いし。」
「シロウが分からないと、どっちに行けば良いか判断ができないぞ。」
「そうなんだが、・・・。多分、こっちだと思う。」
「分かった、スヴィ。」
「うん。」
それから、何度か進む方向を変えながら不思議な感覚を追って進んで行く。
「!?感知に反応がある、まずい!ヴァルマ、スヴィ。」
「おう。」「うん。」
周辺感知に人の反応があったが、衰弱している様で反応が薄い。
通路には何処に罠があるか分からない為に走って駆けつけるわけには行かない。
(くっ、間に合うか?)
救助する側が罠にかかっては本末転倒だ、慎重にけれどできるだけ早く。
「シロ、血。」
「血の匂いがするのか。かなりの重症って事だな。」
「まだ、距離があるのか?」
「次の角を曲がった所だ。ちっ、魔物が近づいてる。」
「シロウ、もう少しだ。」
角を曲がるとそこには血を流して倒れている女性がいた、そしてオークが彼女の服を剥ぎ取り犯そうとしていた。
「ちっ、2人は彼女を!」
女性を2人に任せて、オークへ一直線に向かうとそのまま飛び蹴りをしてオークを弾き飛ばす。
「ブモォォォオ!」
「させるか!」
オークは立ち上がり大剣を掴もうとした、だが、それより早く手を斬り落とす。
「ブルァァ!?」
そして斬られた腕を反対の手で抑え痛みを堪えてこちらを見る。
「せい!」
「スヴィ!?」
意識がこちらに向いている間にスヴィが陰密行動を使い、喉を突き刺してオークに止めを刺した。
「シロ!危ない!」
「っ、分かった。」
スヴィは襲われていた女性が危険だと教えてくれた。
襲われていた女性は脇腹に食いちぎられた痕があり、一刻の猶予もない。
「もう、持たない。・・・仕方が無いか。2人は周囲の警戒を頼む、俺はこっちに集中する。」
このままにすればすぐに死んでしまう、スキルを知られる恐れはあるが人命には変えられない。
「間に合うか?」〔身体再生〕
既に呼吸も浅くなり、出血も少なくなり始めている。
(くっ、ヴァルマの時より魔力の消費が多い。)
食いちぎられた脇腹と失った血を補う為に大量の魔力が消費される。
「ぐぅっ、・・・魔力が、足りない。」
脇腹の怪我はほとんど塞がったが、残りの魔力では全てを塞ぐ事ができない。
「なっ、何だ!?」
突然に大量の魔力が身体に流れ込んでくる。
「けど、これなら。はぁぁ!」
どこから魔力が流れて来るのか分からないが、これなら治せる。
「はぁ、はぁ、はぁ、良かった、間に合った。はぁ~、疲れた。」
どうにか怪我を治す事ができた。
「シロウ、大丈夫か?」
「シロ?」
「ああ、何とかなったよ。呼吸も落ち着いた様だし、もう大丈夫だ。」
「そうか、良かった。・・・けどな、シロウ。」
「ん?何だ?」
「いつまで、女の裸を見てるんだ?」
「へ?・・・、いやいや、そんなつもりは無いぞ!」
「はぁ~、分かってる。オレが代わるからシロウは警戒。」
「は!イエッサー!」
「まったく、シロウは。」
ヴァルマに彼女を任せて周辺警戒をする。
「シロ、見る?」
そう言うとスヴィは控えめな胸を持ち上げる。
「うぇ!?いや、大丈夫、うん、大丈夫だから。」
「良いよ?」
「コホン。スヴィ、それはまた今度だ。それよりシロウ、あの人はどうする?まだ意識が戻らないぞ?」
「あぁ、どうしようか、意識が戻るまで、と言っても裸のままじゃな。」
「シロウ、家に置いてあるオレの服を持ってくる、あの人には少し小さいだろうけど、あのままでいるよりマシだろ?」
「そうだな、じゃあ頼むよ。」〔仙境〕
「おう、すぐ戻る。」
以前にヴァルマが着ていた白いワンピースを仙境の家に取りに行ってもらい、救助した女性に着せた。
「はぁ、今日は此処で足止めだな。明日の朝になっても目が覚めなければ、背負って戻るしかない。」
「背負うならオレが背負うぞ。シロウに任せるのは、・・・ダメだ。」
「はは、分かった、そうなったらヴァルマに頼むよ。」
「おう。それで、シロウが言ってたのって、この事なのか?」
「多分そうだと思う、此処に来たら”ざわざわ”する感覚も無くなったからな。」
「それって”精霊”なのか?」
「そこまでは分からないが、そうかもな。何せ彼女は・・・エルフだから。」
「オレは初めて見たぞ。」
「俺もだ。」
「わたしも。」
彼女は若緑色の髪を持ち、エルフ族の特徴である尖った耳をしていた。
そしてエルフの女性が目を覚まさないので、その日はそこで野営をする事にした。
朝食を食べ終えて、これから戻ろうとした時に彼女を覚ました。
「うぅ、ぅぁぁ、ぁ。」
「おい、大丈夫か?」
「うぅん。・・・へぁ?」
「痛む所は無いか?」
「ふにゃ?だれ?・・・あれ?あたしは・・・?」
「シロ、お水。」
「ああ、これを飲んで、まずは落ち着け。」
エルフの女性に水袋を渡して落ち着かせる。
「ぷはぁ、はぁ。ありがと。」
「何があったか覚えてるか?」
「あぁ、と。・・・・・・そだ!ねぇ、他に誰かいない?あたしの仲間!」
「・・・いや、見つけたのは、あんただけだ。」
「・・・・・・、そか、・・・、そ、だね。」
それから暫く彼女は声を押し殺して泣いていた。
「ぐすっ。・・・助けてくれたんだね。ありがと。」
「ま、まぁ、何とか、な。コホン、それで、俺はシロウで向こうの2人はヴァルマとスヴィだ。」
「あたしは、エルシュラ・ハートリーだよ。」
「名字?貴族なのか?」
「違う、ハートリーは村の名、エルフは名前に村の名を付けるんだよ。」
「そうなのか、すまんな、初めて聞いたから。」
「いいよ。」
「それで、エルシュラさんは何処まで覚えてる?」
「エルちゃん。」
「は?」
「エルちゃん、だよ。」
「・・・・・・、”エル”で良いか?」
「・・・ま、いいよ。」
「それで、何があったんだ?」
エルことエルシュラ・ハートリー達は依頼を受けてこの階層でスキルカードを探していたらしい。
ポータルを使い26階層から27階層を中心に探していたが、見つける事ができず探索の期限も近づいていたので戻る事にした。
だが、帰還の最中に別のパーティが魔物に追いかけられながら助けを求めて近づいて来て、魔物の数が多く逃亡か迎撃かで意見が分かれ判断が遅くなってしまった為に迎撃するしか無くなってしまった。
そして迎撃が始まると逃げて来た冒険者パーティは、エルシュラ達のパーティに魔物たちを押し付ける形で逃亡した。
その後は魔物を迎撃しながら後退して行ったが、後方からも魔物が襲って来た為に後退する事もできなくなる。
このままでは全滅する、そう判断したリーダーがエルシュラと探索士の女性を離脱させて、依頼主に報告させる事にした。
魔物の包囲を仲間がこじ開け、そこを2人で抜けてから26階層のポータルを目指したが、途中で再び襲われ探索士の女性は死んでしまい、エルシュラもその時に脇腹を食いちぎられた。
その後も逃げていたのだが、出血が酷く意識が保てなくなり倒れてしまった。
(・・・そこを俺たちが見つけたのか。)
「そね、皆、もう、いない、ね。・・・うん。・・・え?あれ?怪我は?」
(げっ、まずい!・・・どうしよう。)
「・・・へぇ~、そか、君が治してくれたんだね。」
「へぁ!?え、いや、その。」
「あはは、隠さなくても良いのに。すごいスキルを持ってるんだね。」
(・・・完全にばれてる。)
「ああ、その、すまないが、そのスキルについては、秘密にしてもらえると助かるのだが。」
「そなの?けど、じゃあ、何で助けたの?」
「それは、まぁ、助けられるなら、助けたいと思って、だな。」
「あはは、そか、うん、分かった。じゃあ、秘密にするね。」
「あ、あぁ、助かるよ。」
「あたしの裸を見た事も。」
「ぶはぁ!?な、何故、それを!」
「あはは、この子が教えてくれたんだよ。シル。」
「んん?風?」
「そ、この子はあたしの契約精霊、シルファラリエちゃん。」
「精霊・・・、見えないが、そこにいるのか?」
「そ、精霊はエルフの種族スキル”精霊魔法”が無いと見えないんだよね。」
「エルフは皆が精霊魔法を使えるのか?」
「ううん、そんなに多くは無いかな?村には10人くらいだったよ。」
(それは多いのか?それとも少ないのか?・・・あれ、ちょと待てよ。)
「あぁ、その、他にも俺のスキルをその精霊に聞いたりしたか?」
「黒いの?」
「ぐあはぁ!?・・・す、すまないが、それも秘密で、頼む。」
「あはは、いいよ。」
「シロウ・・・。」「シロ。」
「だ、大丈夫だ。」
身体再生は特殊スキルなので他の所持者もいるはずだが、仙境は種族スキルの一部の為他の所持者はいない。
(一番知られたくないスキルを知られてしまうとは。迂闊だった。)
「シロウ、戻らないと。」
「あ、ああ、そうだな。エルシュラさん。」
「エルちゃん。」
「うっ、じゃあ、エル、俺たちはダンジョンを出るから一緒に行こう。1人じゃ戻れないだろ?」
「そだね、武器も無いし。おねがい。シー君、ヴァルちゃん、スーちゃん。」
「・・・シー君って。」
「ヴァ、ヴァルちゃん!?」
「ふふ、スーちゃん。」
「まぁ、良いか、・・・じゃあ、26階層のポータルに向かうぞ。」
「おう。」「うん。」「お~。」
(・・・はぁ~、気を付けてたのに。)




