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第3話 イルルト・ニクライネン

「どうだ、重くないか?」


「う~ん、そりゃナイフよりは重いけど、大丈夫だぞ。」



そう言いながら、ヴァルマは訓練用に作ってもらった短剣を振るう。



「ふっ、せぃ、はっ。」



長さは全長50cmで刃渡り40cmの短剣で重量は1本が1kgになる、そして剣の形状は俺の剣と同じだ。


ヴァルマが使っているナイフは全長30cmなので、20cm長くなった。



「ヴァルマ、踏み込みはもう少し浅くだ、長くなった分距離を取るんだ。」


「おう。」


「そうだ、その距離だ。」



ヴァルマは元々器用だったが、最近はナイフで戦ったり、木刀で訓練したりしていたので、すぐに対応できる様になっている。



「・・・ヴァルマさんは動きが独特ですね。」


「そうか?スヴィ程じゃないと思うが。」


「ええ、そうですね、スヴィさんの動きを捕らえるのは大変です。右にいたと思ったら、次の瞬間には左にいたりと。」


「ああ、あれは、まぁ、なんと言うか、歩法のようなものかな?」


「歩法ですか?初めて聞いたのですが?」


「そうなのか、キスティさんも知らないのか。」


「ええ、わたくしはあのような動きをする方を見た事がありません。」


(う~ん、これは、特殊なのだろうか?それとも騎士から見たら、なのだろうか?まぁ、スヴィは獣人だからな、一概に判断はできないか。)


「それより、キスティさんは此処にいて大丈夫か?」


「うっ。いえ、大丈夫ですよ?おほほ。」


「お嬢様、大丈夫ではありません。奥様がお呼びです。」


「オルマンニ。・・・はぁ~、分かりました、着替えたら行きます。」


「はい、畏まりました。」



今朝から裏庭でヴァルマの訓練をしていたら、キスティが一緒に訓練すると言って合流して来たが、舞踏会の衣裳合わせをするとアートラに言われていたのだ。


貴族のドレスを作るには通常は数か月かかるとか、アートラが以前に発注していたドレスはできているらしいのだが、微調整などでまだ暫く時間がかかると聞いた。



「女性は大変だな。」


「貴族は、だろ?」


「そうは言うが、ヴァルマだって服選びは好きだろ?」


「うっ、・・・ちょっと、だけ?」


「好き!」


「はは、そうかスヴィは好きか。じゃあ、また服を買いに行こうな。」


「オ、オレも好きだ、だから。」


「ああ、分かってる、ヴァルマも一緒にな。」


「ぉぅ。」「うん。」


(あぁ、こんな日常も良いものだ。)




















「シロウ様、マルスティ様がお呼びです。」


(・・・はぁ~、短い日常だったな。)


「分かった。ヴァルマとスヴィは訓練を続けてくれ、ちょっと行ってくる。」


「では、執務室へご案内します。」


「ああ、頼む。」



エンロンに案内されて、マルスティの執務室に向かった。



「マルスティ様、シロウ様をお連れ致しました。」


「ああ、入ってくれ。」



エンロンが扉をノックして声をかけると返事を受けて中に入る。



「悪いね、呼びつけてしまって。」


「何かあったのか?」


「先ほど先触れが来てね、イルルト・ニクライネンが来る。」


「・・・誰だ、それは。」


「ああ、そうだった、シロウは知らないよね。イルルト・ニクライネンはキスティの婚約者候補の1人でニクライネン子爵家の次男だよ。」


「へぇ、婚約者・・・候補?」


「ああ、候補だよ、正式には決まってないんだ。」


「それで、何で俺を呼んだんだ?俺には関係が無いだろ?」


「それが、イルルト殿はシロウに礼が言いたいらしいよ。ダンジョンでキスティを救った事に対する礼だそうだ。」


「・・・、何故、わざわざ冒険者なんかに礼を言いに来るんだ?」


「さぁ?」


「予想は付いてるんだろ?」


「まぁね。彼は次男で家督を継げないから、騎士になると公言してるんだよ、貴族の次男としては真っ当な進路だ、ただ、彼はあまり鍛錬が好きではなくてね。」


「ああ、見栄だけで強くはないと。」


「ははは、その通りだよ。まあ、そんな事は会えば分かる、見た目でね。」


「ああ、なるほど。けど、何でそんな男が候補になってるんだ?」


「そこは貴族のしがらみ故だよ、彼の家は子爵家だけどその寄り親がベリザリオ侯爵家でね。簡単には断れないんだ。」


「子爵家に侯爵家ね。それで、俺にどうして欲しいんだ?」


「まあ、彼の出方次第だけど、おそらくはシロウに挑んで・・・あぁ、まぁ、シロウに勝って自分の方が強くキスティに相応しいと言いたいんだろうね。」


「・・・、無駄に自信があるタイプか。それで?」


「そうだなぁ、・・・、ふむ、勝ってしまってくれ。」


「はぁ?何だ?その表現は、はっきり言ってくれ。」


「負けるのは論外だけど、圧倒的に勝ってしまうと、それはそれで後が面倒だからね。”あぁ、勝ってしまった”ぐらいで頼むよ。」


「・・・また面倒な。」


「その分の報酬は出すよ。稼いでおきたいだろ?・・・彼女たちの為にも。」


「うっ、・・・はぁ~。分かった、けど、そのイルルトが挑んで来たらだぞ?」


「勿論だとも、挑んで来なかったとしてもしっかりと支払はさせてもうよ。」


「・・・分かった。それで、そいつはいつ来るんだ?」


「今日の午後に来る予定だね。」


「そうか、それじゃ、それまでは裏庭で訓練を続ける。来たら教えてくれ。」


「頼んだよ。」


「ああ。」













「シロウ。」「シロ?」


「2人とも、午後にちょっと予定が入った。ヘリスト家に客が来るらしいんだが、俺も同席する事になったんだ。」


「オレ達は?」


「2人は部屋で待っててくれ、どうも、あまり好ましい人物では無い様だからな、そんな奴に2人を見せたくない。」


「ぉぅ、分かった。」「ぅん。」


「それじゃあ、訓練を続けよう。」


「おう。」「うん。」

















昼食を終えて部屋で2人と共に過ごしていると、エンロンに声をかけられた。




「シロウ様、ご到着になりました。」


「すぐに行けば良いのか?」


「はい、先ほど呼ぶ様にと申し付かりましたので、応接室へお願いします。」


「分かった、では行こう。」







「マルスティ様、シロウ様をお連れ致しました。」


「ああ、ありがとう。シロウ殿、こちらへ、彼がニクライネン子爵家次男のイルルト・ニクライネン殿だよ。」


(・・・あぁ、見た目って腹の事か。重そうだ。)



紹介されたイルルト・ニクライネンはこちらを値踏みするような視線で上から下まで眺めると僅かに口角を上げてから話し始めた。



「ははは、君が私のキスティ嬢を救ってくれたと言う冒険者かね。ふむ、しかし、その様には見えんな、まだ子供ではないか。」


「はぁ。」


「しかし、キスティ嬢もダンジョンに潜るなど勝手な事を。彼女には私の婚約者だと言う事をしっかりと理解して頂きたいものだ。」


「イルルト殿、まだ婚約者と決まった分けではありませんよ。」


「マルスティ殿、何を仰る。既に決まったも同然ではないか?この婚約はベリザリオ侯爵のお声掛りなのだぞ?」


「そ、それは、そうですが。」


「まあ良い。今度の舞踏会では私が彼女をエスコートする。」


「いえ、申し訳ありませんが、それは出来かねます。エスコートは・・・、シロウ殿にして貰おうと考えていますので。」


「は!?」


「コホン、シロウ殿。」


「マルスティ殿!その様な事は許されない、そもそも、冒険者風情が王城で開催される舞踏会に参加する事など、できるわけがない!」


「ええ、通常はそうですが、我が家は”迷宮伯家”ですので。」


「ぐぬぬ、この件はベリザリオ侯爵に伝えさせて貰う。」


「ええ、ご自由にどうぞ。」


「ふん!それで、本当にこの男がダンジョンでキスティ嬢を救ったのか私が試してやろう。私はいずれ騎士団長になる予定だからな。」


「・・・はぁ、騎士団長とは。しかし、イルルト殿はまだ騎士団に入団出来ていないのでは?」


「はっ、何を言っている。私ほどの実力者ならば、いずれは騎士団が頭を下げて乞い願うであろう。」


「・・・はぁ、左様で。」


「ははは、当然だ。では、場所をお借りしても宜しいか?」


「えぇ、それでは屋敷の裏に鍛練場がありますので、そちらで。」


「ははは、そうだな、では参ろうか。」


「はぁ。」






午前中に訓練をしていた鍛練場に来ると互いに木剣を持ち向かい合う。






「ははは、いつでも掛かって来て構わん。」


(・・・本当に良いのか?隙だらけ、何てもんじゃないんだが。)


「・・・では、行きます。」


「ああ、良いぞ。掛かって来たまえ。」



何時までも見合っていても仕方がない、まずは小手調べと思い近づき剣を振るう。



「!?は、はは、は、なかなか、やるではないか。」


「・・・そうですか。」



子供のお遊び程度で剣を振るっているのだが、如何せんイルルトの動きが遅い、剣を当てない様にするのが逆に難しい。



「おっ、とっとっと。」


「んな!?」


「あぁ、申し訳ない、偶然当たってしまった様ですね。」


「!?ま、まあ、その様な時もあるな。ゴホン、その方の実力は確かめさせて貰った。このぐらいで良かろう。」


「ええ、納得して頂けた様で何よりです。」





「イルルト様、そろそろ。」


「ん?そうか、もう、その様な時間か。マルスティ殿、私はこの後も寄らねばならん所があってな。」


「ええ、大した持て成しもできず、申し訳なかったですね。」


「ははは、将来は兄弟になるのだ、そこまで気にしなくとも宜しい。」






こうして、イルルト・ニクライネンは帰って行った。






「はぁ~、疲れた。」


「ご苦労様だね、シロウ。」


「マルスティさん、どう言うつもりだ?」


「ん?何がかな?」


「エスコート。」


「は、ははは、まぁ、ね。・・・ただ、実際に困ってはいたんだよ。」


「何をだ?」


「彼もそうだが、他にも候補がいる。そんな状態で親族以外がエスコートすれば、他の候補よりも優位であると思われるんだよ。」


「・・・、おい、待て。それじゃあ、俺だってまずいだろうが!」


「・・・・・・。」


「何とか言え!」


「まぁ、シロウは貴族ではないから。最終的に却下した。で済むかな?と。」


「はぁぁ、お前なぁ。俺はともかくキスティさんはそれで大丈夫なのか?」


「へぇ、自分よりキスティの心配かい?」


「まぁ、俺は冒険者だし、いずれはこの国を出るから心配は要らないんだよ。」


「え!?この国を出る?聞いて無いけど?」


「言う必要なんて無いだろ?これは俺たちの自由だ。」


「・・・、そうか。しかし。」


「それに、舞踏会って事は踊るんだろ?俺は踊れないぞ?エスコートの仕方も知らないし。」


「まあ、そこは、ほら、我が家は”迷宮伯”だからね。」


「・・・まさか。」


「ああ、そうだよ。だからそこは心配無い。けど、エスコートの仕方か。いや、まずい!エンロン!」


「はい。」


「シロウの舞踏会用のタキシードをすぐに用意してくれ。もう時間がない。」


「はい、畏まりました。」


「おい、エンロン!畏まるな!マルスティ、いい加減にしろ。」


「エンロン、急げ。」


「はい。」


「お、おい、待て、エンロン!マルスティ、どうすんだよ。」


「えっと、あとは、エスコートの仕方はオルマンニに頼むとして。」


「お、おい、マルスティ。」


「は!まずい、キスティにも言っておかないと。」








颯爽と去って行くマルスティを止める術が無い。









「・・・・・・・・・、あぁぁ、どうすんだよ。」


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